42 暴露②
「な……な……なに、を」
サイモン様は明らかに動揺しており、リリアも目を見開いて私を凝視している。
「確かに賑やかなお店ですので、目立たないとお思いになられたのでしょうけれど……密談をするなら、場所は選ばれた方がよろしいかと。あなた方のお話は全て筒抜けだったと、あなた方に影で付いていた者がそう言っておりましたわよ?」
「影で付いていた者だと!? 聞いていないぞ!」
「陛下はご存知ですわよ? この件に関してはわたくしが一任されておりましたけれど」
サイモン様がすごい勢いで陛下に向き直る。
陛下はその視線を受けて頷いた。
「王太子妃の希望でな。あの書物を調べる上でお前たちの行動も調べさせてほしいと。この件に関して一任してほしいと申し出があったので、許可したのだ。
しかし、その後の報告はまだであったが……お前たちが本当に密会していたと聞いて、失望したぞ」
「ご報告が遅れた事、申し訳ございません。内容が内容でしたので、報告までに精査する必要がございました」
「よい。まだ話の続きがあるのであろう? 続けるがよい」
陛下に謝罪したあと、話を続ける許可をもらう。そのタイミングで、茶葉を調べていた王宮医師たちより、結果が出たとの知らせが入った。
「あら、ちょうどいいところに。それで、茶葉はどうでしたの? 危険な薬草は混合されていましたか?」
「はい。ブレンドされた茶葉の中に、あってはならない薬草が混じっておりました」
「当てましょうか、その薬草が何であったのか」
医師の言葉に、私はそう言って陛下の方を向き直る。
「ここからのお話は、陛下の許可なしでは出来ないものとなります。陛下にこれを」
私は陛下あてに、内容を書いたメモを渡してもらうよう従者に依頼した。
従者よりメモを受け取った陛下が、そのメモを読んで黙考している。
「これは誠か?」
「わたくしの調べでは、それが入っております」
陛下は辛そうな表情をして、サイモン様を見る。サイモン様は、顔面蒼白となり、冷や汗が出て落ち着きなく視線を彷徨わせていた。
「ここに居る者は、知る権利がある。話してよい」
サイモン様の様子を見た陛下は、一瞬寂しげな表情をしたが、次の瞬間には厳しい顔をして、腹を決めたようにそう言った。
「では、続けます。
医師殿、その混ざっていた、あってはならない薬草とは、心臓に負荷をかける薬草だったのではないですか?」
「はい、その通りでございます」
私の問いかけに、医師ははっきりとそう答える。
その答えを聞いて、私は落胆した。
もしや、サイモン様は思いとどまって、その薬草を使わないのではないかと、一縷の望みをかけたのだが、やはり使用していたのかと。
知ってはいたが、まさか自分の親に対しても人の心を失う行為をしていたとは。その薬草を持っている事自体、罪であるので負ける気はしなかったが、出来れば使って欲しくなかった。
「やはり、その薬草が入っておりましたか。残念です、サイモン様。それをお飲みになるとどうなるか、ご存知だったはず」
私がそう言うと、招待客の一人が挙手し、発言した。
「疑問なのですが、先程、王太子殿下はそのお茶を飲んで毒味されていましたよね? そんな危険な薬草が入った物を、自ら飲まれるでしょうか?」
「この薬草は、少量だと健康な人にはあまり効果はないそうなのです。しかし、飲み続ける事で、徐々に心臓に負荷がかかり、近い将来、心臓発作を起こすというもの。健康な人でもそれですのに、心臓の弱い方が飲めばどうなるか……しかし数回飲んだくらいでは症状が現れにくいため、お茶を疑われる事はない。その為、殺人絡みでよく使用された薬草だと聞いております。そしてそれも、数十年前より使用禁止になり、その薬草自体、栽培する事も禁じられているものでございます。この効能を知っているサイモン様は、一回なら大丈夫だと踏んで飲まれたのでしょう」
私の説明に、質問してきた人は深く頷いた。