40 特別なお茶
「お待ちくださいませ」
お茶を飲もうとしていた皆は、手を止めて一斉に私を見た。
「どうしたのだ?」
怪訝な表情でサイモン様が、私を見る。その顔は、余計な口を挟むなと言いたげだ。
「特別なお茶を頂く前に、皆様にお知らせしたい議がございます。お茶に関する事ですので、この場をお借りしたいと思い、声を挙げさせて頂きました。陛下、よろしいでしょうか?」
私の言葉に、陛下は不思議そうな表情をしながらも頷く。
「ありがとう存じます。
さて、わたくしはサイモン様に嫁いだ日より、毎朝出されていたハーブティがございまして。それも少し苦味のある、独特なお茶なのですが、ある日、とある方にそのハーブティをお出ししたところ、少し調べたいと申し出を受けました」
そこまで話した時、サイモン様が立ち上がった。
「シンディ! 今ここで話す事ではないだろう! 後で聞いてやるから、今は黙っていろ!」
「あら? サイモン様はそのお茶の事、ご存知なのかしら? 何故この場で話す事ではないと?」
私達のやり取りを聞いていたザイトヘル伯爵が、私を援護するように話に割って入ってきた。
「いいではないですか。私は興味深いと感じましたが。陛下、このまま王太子妃殿下のお話をお聞きしたいのですが、よろしいかな?」
「……あぁ、よい」
ザイトヘル伯爵にそう言われた陛下は、投げやりに頷く。
「ありがとうございます。では改めて。そのお茶はその方に調べて頂き、つい先日、その茶葉の結果が出ました。
その茶葉には、堕胎剤になる薬草が混ざっておりました」
そう言った瞬間、場内は騒然となった。
「堕胎剤だと!?」
「王太子妃殿下にそのようなものを飲ませるとは、なんて不届きな!」
「一体何故そのような茶葉が使われてあるのだ!?」
口々にそう話す重鎮たち同様、両陛下も目を見開いて驚いている。
「それは本当の事なのか!?」
「シンディ、それは確かなの!?」
口を揃えたようにそう言った両陛下に、私はしっかりと頷く。
チラリと隣にいるサイモン様と、末席に座っているリリアを見ると、二人共に顔色が悪い。
「はい、確かでございます」
私の言葉に、陛下は怒りながらメイドや従者たちを呼ぶ。
「どういう事だ!? 至急王太子妃付きの侍女やメイドたちに兵を向かわせ、調査しろ! 反論は一切認めない!」
そう叫ぶ陛下に、私は静かに伝えた。
「陛下、それには及びませんわ。
わたくしはそれについても調べは終えております。わたくしにそれを飲むように指示を出した者も把握済みでございます」
「誠か!?」
「はい。そのうえで、改めて調べたいのです。今ここに配られたお茶の成分を」
そう言った私に、サイモン様がいち早く反論した。
「はっ! 何を言うかと思えば! 堕胎剤入りなどと妄言を吐いて、私の用意したお茶を愚弄するつもりなのか!?」
「サイモン様、調べを受けて何も無かったなら、それこそ安心して皆様にお勧め出来ますでしょう? わたくしの件がございましたので、わたくし、少々疑心暗鬼になっておりますの。その私の意を汲んでは下さらないのですか?」
「そ、それは……」
「思いがけない事ってあるものなのです。サイモン様の準備した茶葉は、珍しいお茶で苦味もあるとの事。ならば、きちんと調べた上で飲んでいただいた方が、皆さんも安心なさるでしょう?
それに……」
そこで一旦言葉を切って、サイモン様を見据える。
「その珍しいお茶をザイトヘル伯爵には、お土産として用意してあるとも小耳に挟みましたの。もちろん、陛下にも毎日飲んで頂くように別に置いてあるとも……ね」
「な! 何故それを!」
「高貴な方々に飲んで頂くお茶ならば、この場でしっかりと調べて頂きましょう。陛下、よろしいでしょうか?」
そう言って陛下の許可を待つ。
「そなたは、サイモンが用意したお茶にも何か入っていると言っているのか?」
鋭い視線で私を見ながらそう言った陛下に対し、毅然とした態度で頷いた。
「わたくしが飲んでいたハーブティも、北の国から取り寄せたお茶でした。それこそ何種類もブレンドした茶葉だと。偶然かも知れませんが、ここで声を挙げて調べていただかなければ、取り返しのつかない事になるやもしれません。わたくしの勘違いと、わたくしだけにお咎めを受けるのならば本望でございます」
そう言い切った私を、暫く見据えていた陛下は、一息吐き頷いた。
「良かろう。この茶葉を至急調べろ」
陛下の指示にて、茶葉を調べる事になり、焦ったサイモン様は、私に対して声を荒らげた。
「シンディ! どうしてくれるのだ! この会合をむちゃくちゃにして、どう責任を取るつもりだ!」
怒り狂ったサイモン様は、私を責めた後、陛下に嘆願する。
「陛下! 今すぐそのような事は止めさせて下さい! せっかく私がこの日の為にと準備してきた会合を台無しになさるなど、そのような事をなさってはいけません! これではザイトヘル伯爵にも申し訳が立たないではありませんか!」
「仕方なかろう。王太子妃の茶葉から、そのようなものが検出されたのであれば、同じような茶葉ならば調べなければなるまいて。お前も何も無いのなら、堂々としておればよいではないか」
陛下に泣きついたサイモン様は、そう陛下に切り返され、言葉につまる。その表情は焦燥感に駆られており、ふとリリアを見ると、リリアは俯いて少し震えているようだ。
バーグ先生の時とは違い、王宮内にいる医師たちが陛下の命令を受け、総出で調べている為、結果はすぐに出るだろう。
「して、王太子妃よ。そなたは先程、そなたにその茶を飲ませた者を把握してあると言ったな? 一体誰がそのような事をしたのか、ここで説明出来るか?」
「はい。出来ます。しかしそれには、それに至るまでの経緯を、皆様にも知って頂かなくてはなりません」
ここで、サイモン様とリリアとの関係や、二人が計画していた事など、一気に暴露する。
私は、緊張で手先が冷たくなり、気を抜けば意識を失いそうになる自分を必死に叱咤しながら、そう言った。