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39 謝罪会合②


 色とりどりの贅を尽くした料理の数々に、皆が感嘆する。


「これ程の料理はなかなかお目にかかれないな」

「これは、隣国より取り寄せられたものですかな? 私も一度しか食べた事がないものですぞ」

「これは春先にしか取れない果物ではないですか? 今の時期、なかなか手に入りませんよ!」


 口々に感嘆の言葉が聞こえる中、私はため息しか出なかった。

 一見豪華なこの料理には、本日の主賓であるザイトヘル伯爵への配慮が見受けられない。

 まず、ザイトヘル伯爵領で採れる、主な作物を取り入れた料理がない。

 しかもここで用意するデザートは、季節外れの果物ではなく、伯爵領名物の柑橘系の果物を使ったデザートにするべきだったのだ。

 案の定、ザイトヘル伯爵の表情は全く崩れる事がなく、厳しいままだ。見ているこちらが凍りそうな程、その表情は冷たい。

 これは私が追い詰めなくても、サイモン様ご自身で自滅コースでは?とまで思ってしまった。


「これらの料理は、なかなか手に入らない珍しい物を集めて作ったものだ。王宮屈指の料理人が最高の味付けをしている為、更に美味しく出来ているだろう。さぁ、皆も遠慮せずに食して欲しい」


 サイモン様はそのように言ってから、ザイトヘル伯爵を見る。


「ザイトヘル伯爵よ、口に合うだろうか? そなたは美食家と聞き及んだので、世界中の珍味を用意させてもらったのだ」


 鼻高々にそう話すサイモン様に、ザイトヘル伯爵は一瞥し、一息吐く。


「……美食家かどうかは自分では分かりませんが。一番はやはり自国の食物、その中でも自領で採れる作物が一番だと考えていますよ」

「そ、そうか……い、いや、流石はザイトヘル伯爵だ! 我が国の食物が一番だと思ってくれているのだな!」


 サイモン様は、ザイトヘル伯爵の返答に、顔を引きつらせながらも、何とか伯爵を持ち上げようとする。

 見ているこちらが恥ずかしい……


「食後には、ちょっとした催しも用意してあるのだ。皆も知っているかな? 最近市井で流行っている歌姫がいるのだが、本日はその歌姫に、ここで歌を披露してもらう事にした。私も聴いたが、とても見事な声であった。ぜひ皆にも聴いてもらいたいと思ってな」


 サイモン様がそう言った時、ザイトヘル伯爵は我慢出来ないとばかりに笑いだした。


「伯爵? どうしたと言うのだ?」


 サイモン様が怪訝な表情で、そう聞き返す。伯爵は笑いを抑えながら告げた。


「いえ何、またも市井でとは。

 仮にも王太子殿下であらせられる貴方様が、そんなにも市井に精通なさっておられるとはと思いましてな。私は以前に申し上げましたように、低俗な趣味がございますので、その歌姫の事も知っております。しかしその歌姫が人気なのも最近の事で、それもごく一部のみ。お忙しい身で、一体いつお聴きになられたのか。実に興味深いですな」


 その言葉に、他の貴族たちも顔を見合せながら、困惑している。確かに普通に王太子として生活していれば、市井で流行っている事は報告を受けない限り知る由もない。しかも、それがごく一部で最近の事ならば、いち早く王太子が知るはずはないのだ。


「そうそう、先日お渡しした書物の事ですが。陛下、お読みになられましたか?」


 ザイトヘル伯爵は、そのまま攻撃の手を陛下に向けた。

 陛下は苦虫を噛み潰したような表情となったが、ザイトヘル伯爵の鋭い視線に、観念したように頷いた。


「ああ、読んだ。その真偽も調べている最中だ」

「おや、まだ調べの途中でございましたか」


 間髪入れずにザイトヘル伯爵はそう答え、ちらりと末席のリリアを見た。


 リリアはその視線を受け、声を上げようとするところを、父親にて制止されていた。

 場違いにも、ここでリリアが声を上げて訂正すれば、またこの前のパーティの二の舞になる。ローガスト伯爵が必死に娘の口を塞ぐのも仕方のない事だろう。


「伯爵よ、そう目くじらを立てるでない。王太子はきっとそなたの気に入りそうなものを探しに市井に行ったのであろうよ。そうだろう? サイモン」


 サイモン様を擁護する陛下の言葉に、サイモン様はここぞとばかりに頷いた。


「そ、そうだ! 市井を視察しながら、そなたの好みそうな物を探しておった時に、偶然歌を聴いたのだ!」

「私めの為にとは、それは身に余る光栄。王太子殿下は、市井以外にもよく視察されるのですかな?」


 ザイトヘル伯爵の言葉に、サイモン様が首を傾げる。


「どういう事だ?」

「いや、王太子妃殿下はよく慈善活動として、色んな孤児院や養護施設を訪問されているとお聞きしましたが、王太子殿下はどうなのかと思いまして」


 その言葉にサイモン様は顔を顰めた。


「慈善活動は王太子妃に任せている。私は他にする事がいっぱいあるのでな。今回の視察は、この会合の為だ」

「そうですか。それは失礼致しました。しかし、王太子妃殿下は素晴らしいですな。おひとりで慈善活動に精を出されている。なかなか出来ない事ですので、尊敬致しますぞ」


 ザイトヘル伯爵はそう言って、私を見た。


「いえ、わたくしは今、出来ることを精一杯務めさせているだけでございます。まだまだ両陛下を始め、皆様の足元にも及びませんわ」


 私の言葉に、ザイトヘル伯爵は満足気に頷いた。


 なんだろう? どうしてザイトヘル伯爵はこんなに私を持ち上げてくれるのかしら?


 不思議に思っているところに、その場の空気を変えるように、サイモン様が咳払いをした。


「ゴボッン。そろそろ皆の食事も終わったようだ。後で出そうと思っていたが、先に出すとしよう」


 そう言って、サイモン様はメイドに合図を送った。


「これは、北の国に昔から伝わる、何種類もの薬草を煎じた命のお茶だそうだ。これを飲むと、寿命が伸び、長生きが出来ると言われている。

 その願いを込めて、両陛下を始め、この国の重鎮である皆にもぜひ飲んで頂き、健康で長生きしてもらいたい」


 目の前に配られたお茶は、その部屋の中で、一つのティーポットから注がれている。目の前で注がれた為、毒味はサイモン様自身が買って出た。


「陛下、苦いと感じるかも知れませんが、これも長寿の為でございます。さぁ、皆も召し上がってくれ」


 そう言って飲み干した後、サイモン様は陛下を始め、他の皆様にもお茶を薦める。

 

 私は意を決して、声を上げた。


 

 

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