38 謝罪会合①
あのお披露目パーティから二週間が経った本日、いよいよザイトヘル伯爵を招いての会合が開かれる事となった。
その会合には、ザイトヘル伯爵はもちろん、あのパーティに参加していた主要な高位貴族の方々数名も呼ばれている。
そして、当然リリアも。
私はこの二週間の間に、車椅子生活を卒業していた。
この会合が無事終わる本日の夜、私とサイモン様の初夜も予定されている。
なので、今日は全力でサイモン様に対抗しないといけない。
気を引き締めながら、私は久しぶりに自分の足で会合の場に向かった。
「王太子妃殿下が入られます」
会合の開かれる部屋に着き、ドアの前に立つ案内係より、部屋の中に到着を伝えてもらった後、ヴァルのエスコートにて入室する。
開始時間より少し早めにて、中には主催者のサイモン様だけがすでに着席されていた。
「サイモン様、ご機嫌よう。そろそろ皆様がご到着されるころですわね。
わたくしも王太子妃として、皆様を迎えるべきかと思い、部屋の前にて待機させて頂きますわ」
すでに部屋の中で、ふんぞり返って上座に座っているサイモン様に、遠回しにそこで皆様を迎えるつもりかと伝えた。
やはり予想通り、ザイトヘル伯爵への謝罪の場だというのに、全くその感じが受け取れない態度だ。この人のやる事は本当に理解し難い。
「あ、ああ。そうだな。では、私も主催者としてみんなを迎える為に、シンディと共にドアの前で待機しておこう」
慌てて立ち上がり、私の横に立ち並ぶサイモン様には、本当に呆れる。
しかし、ザイトヘル伯爵や他の高位貴族の方々に失礼があってはいけない。
リリアとサイモン様のみを落とす為には、序盤から皆様に迷惑をおかけすることは出来ないと思ってやって来た。
この会合の準備には、私は一切手を出していない。全てサイモン様一人で準備された事だ。なのに最初からこれでは、これから先が思いやられる。
そんな事を考えていると、招待を受けた貴族の方々がお見えになったようだ。
皆、謝罪の場と知っていたが、まさか王族の私たちが、ドア前で迎え入れるとは思っておらず、ビックリとした顔をした後、頷いたり感心したりしていた。
そして、リリアは父親に付き添われてやって来た。
「ローガスト伯爵並びに伯爵令嬢。ようこそお越しくださいました。どうぞお席にお着き下さいませ」
私はそう言って、末席に案内するようメイドに指示する。伯爵は粛々とその指示を受け、リリアを伴って着席しようとしたが、リリアは私の前に立ち止まり、悲しそうな表情をした。
「伯爵令嬢だなんて、他人行儀な……前のようにリリアとお呼びしては下さらないのですか?」
リリアのその言葉に、ニッコリと無言の笑顔で回答し、再度着席を促す。
リリアは何か言いたげな表情をしながらサイモン様を見たが、流石にサイモン様も今は分が悪いと、貼り付けた笑顔のまま、着席を促していた。
そしていよいよザイトヘル伯爵の到着の知らせが入った。
私とサイモン様は、姿勢を正してザイトヘル伯爵を迎え入れる。
「ザイトヘル伯爵、本日はよく来てくれた。本日は色々な趣向を準備してある。心ゆくまで楽しんでもらいたい」
「私は別に余興を楽しむために来た訳ではありませんがね。確かに先日の件で、どのように埋め合わせてくださるのかは、楽しみにして来ましたよ」
サイモン様の言葉に、辛口の返答をしたザイトヘル伯爵は、流石の迫力だ。
「ザイトヘル伯爵、ようこそお越し下さいました。本日は王太子殿下が心からの誠意を尽くす場として、一人で用意したと聞いております。少しでもお心を和らげて頂ければ幸いにございます」
「ほほう、この会合は王太子殿下が一人で! それは何かと楽しめそうですなぁ」
ザイトヘル伯爵はそう言って、メイドの案内にて着席された。
招待客が揃った所で、両陛下の入室だ。
皆が一斉に立ち上がり、両陛下を迎え入れる。
「そう畏まらなくてもよい。皆の者、気楽にしてくれ」
陛下がそう言った後、ザイトヘル伯爵に向き直る。
「ザイトヘル伯爵よ、先日は誠に申し訳なかったな。本日はよく来てくれた。
息子よりこの場で、そなたに誠意を見せるであろう。他の皆はその証人として呼んである。どうか今回は、それで収めて欲しい」
「両陛下にご挨拶申し上げます。改めての場を用意して頂き、ありがたき幸せ。
されど、それはこれからの内容によりますかな。一体どのような誠意をお見せ頂けるのか、楽しみですな」
ザイトヘル伯爵の態度は一貫して厳しいままだ。
陛下はその言葉に顔を引きつらせながら、サイモン様を見た。
「ではサイモンよ、始めるがよい」
「はっ!」
陛下の開催の合図で、サイモン様が使用人に指示を出す。
まずはそれぞれの席の前に、それは豪華な食事が並べ立てられた。