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37 その頃の二人②


 今日の落合場所はいつもの部屋では無い。

 あんな書物が広まったため、あの部屋は使えなくなってしまったからだ。

 そのため、私はリリアとよく食べに来た食堂を、待ち合わせ場所として指定した。

 ここは賑やかで、周りの事など気にせずに食べることが出来る大衆食堂だ。

 物珍しさから試しに入り、そこからお気に入りとなった場所。ここの隅っこにある二人席は、あまり誰も座らないので、いつもここを私たちの指定席としていた。


 リリアは果たして来れるだろうかと、ヤキモキしながら、そこで待つこと一時間。リリアの可愛らしい声が私を呼んだ。


「サイモン様!」

「リリア!」


 リリアの姿を確認し、ホッとする。

 しかし、次の言葉に私はギョッとした。


「サイモン様、時間がありません。早急に例の計画を進めましょう!」

「れ、例の計画!?」

「そうです! 早く心臓発作を起こしてもらい、サイモン様が跡を継ぐのです!」

「え……でも、どうやって……? 今の私はあの方に信用してもらえていないし、その機会もない……」

「機会など作ればいいのです! ほら、ちょうどザイトヘル伯爵を呼んで、お詫びとして何か持て成しをされるのでしょう!? その時、準備するお茶に誘発剤を少し混ぜればいいのです!」


 リリアはそう言って捲したてた。

 

 私たちは、学生の頃から話し合っていた事がある。それは、シンディと結婚した後、シンディとは白い結婚とし、妊娠しない事を理由に、二年後に側妃としてリリアを娶ることだ。

 しかし、リリアが二年も待てないと言い出したのだ。リリアの父に話す事も出来ない為、その間に何処かよそに嫁がされてしまうと。

 確かにその通りだと思った。

 だからといって、リリアを他所の男に渡すなんて嫌だ!

 それで話し合った結果、もともと心臓の弱い陛下には早く退位してもらい、私が王位に就けばいいのではないかということだった。

 そうすれば、王の権限で二年も待たずにリリアを側妃とする事が出来る。

 しかし、早く退位してもらうにはどうすればいいのか分からず、頭を悩ませていた。

 そんな時、市井で色々な薬を扱っている、非合法の薬屋の話を偶然耳にした。

 行き詰まっていた私たちは、共にその薬屋を訪れることにした。

 店に入るとそこは薄暗く狭い。

 周りには、いかにも怪しげな薬の材料が、所狭しと並べてあった。

 私たちは奥に進み、一人カウンターに座っていた男に声をかける。どうやらこの男がこの店の店主であり、非合法の薬師のようだ。

 その薬師は、私の顔を見るとニヤリと笑い、我々の前に二つの薬を取り出した。

 一つは、心臓に強い負荷をかけて一時的に発作を誘発する薬。

 そして、もう一つは妊娠堕胎剤だった。


「お客さん、これがお望みでしょう?」

「……私はまだ何も言ってないぞ」

「長年この商売をしていると、その客が何を望んでいるかがわかるんでさぁ」


 その薬師はニヤニヤとしながら、そう話す。


「何故堕胎剤ですの!? 白い結婚なんだから、そんなものは要りませんわ!」

「リリア!」


 私は見透かされていた。

 シンディと結婚した後、シンディと白い結婚を続けられる気がしなかった事を。

 私はリリアを愛している。

 しかし、シンディもリリアとは違う魅力があるのだ。

 男なら味見したくなるくらいには……

 それに王家に嫁いだ時、初めての証を確認される。白い結婚はそもそも無理なのだ。でも、リリアを繋ぎ止めたくて言い出せなかった。

 まさかここにきて、その心情まで見透かされるとは……


 結局その二つの薬を手に入れ、リリアには王家に嫁ぐ際の説明をし、この堕胎剤を飲ませる事で、怪しまれずにすむと説明した。

 どうやらこの堕胎剤は、飲み続けると副作用として一生子供が出来ない身体になるそうだ。さすが非合法なだけあり、安全面が全く考慮されていない。

 その副作用が決め手となり、リリアはようやく納得してくれた。


 そしてもう一つ。心臓発作を誘発する薬。

 しかし、薬など陛下に使えばすぐにバレてしまう。

 だけどこれは、ほんの少しなら害はないそうだ。なので、薬を飲ませたと疑われる事はない。

 それでも少しずつ飲み続けると、蓄積されて、自然と心臓発作が起きてしまうとの事。

 もともと心臓の弱い陛下ならば、通常よりも早く効果が出るだろう。

 あとは飲ませるタイミングだけだ。


 そう思い、あの時購入した二種類の薬。見た目は茶葉に似ているから、少し砕いて茶葉に混ぜて飲ませればいいと、シンディには嫁いだ時から飲ませてあった。今も飲み続けているから、初夜を行なっても問題はないはず。

 しかし、陛下には……

 やはり陛下に使うには抵抗があった。

 だから、のらりくらりと陛下に使うことはせず、何とか二年の間にリリアが嫁がされない方法が、他にないかを模索していたのだが……


「わたくし達にはもう、後がないのです。サイモン様が陛下に使いたがらない気持ちなのは、薄々気付いておりましたわ。でも、もう躊躇している場合ではない事、サイモン様も分かっておられますわよね!?」


 こうして、私たちは最後の手段に出る事にした。




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