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36 その頃の二人①


 王太子室にて、ひとり私は焦っていた。

 まさかリリアとの関係が、こんな形で露見されてしまうとは……

 いや、しかし、たかだか証拠のない書物だ。シラを通しておけば、何とかなるはずだ。

 しかし、あれからあの書物を読んだが、何故知ってるのかと思うほど、事細かに表現され、挿絵も鮮明に描かれていた。

 まさか、誰か見ていたのか?

 いや、でも市井にある、安アパートメントの一室だぞ? しかも三階だ。

 誰かが見ていたとは考えにくい。


 偶然にしては当てはまる事が多すぎて、思わず寒気がするほどの不気味さを覚える。

 しかし、こんな事ばかり考えても仕方がない。取り敢えずはザイトヘル伯爵を取りなす為に、謝罪の催しを考えなければ。

 シンディのやつ、今までは私の言う事に逆らった事などないのに、最近やたらと言う事を聞かなくなった。

 リリアに対しても、結婚式前まではあんなに信用していたのに、まるで手のひらを返したような振る舞いも気になる。

 まさか、何か勘づいたのか? シンディのもとに忍ばせてある、私の手の者からそのような報告はなかったが……

 それに、リリアはあれからどうしたのだろう。


 気になった私は、リリアに密かに連絡を入れた。


 ****


「お前は、我がローガスト伯爵家に、何度泥を塗れば気が済むのだ!?」


 王宮パーティから、父に引き摺られるようにして家に戻った私は、父に怒鳴られ、そのまま部屋から出る事を許してもらえなかった。

 

 しかし困ったわ。まさかあの場にて、サイモン様との関係が明るみになるように仕向けられるとは、思ってもみなかった。

 ()()シンディが、まさかあのような態度を取るなんて。

 あの女は、人の顔色を窺いながら、言う事を聞くしか能のない者だとばかり思っていたのに。

 どうしてあんなに強気になっているのかしら?

 こうなったら、最早あの計画を早く進めてしまわないと、私の輝かしい未来は一向に来ない気がするわ。

 サイモン様は、少し気が弱いのが玉に瑕なのよ……だから、私がサイモン様を動かさないと。


 そう考えていた時、扉をノックする音が聞こえた。返事をすると、私付きのメイドが部屋の鍵を開けて入ってきた。


「お嬢様、お食事をお持ち致しました」

「もうそんな時間なのね、ありがとう」


 メイドは食事をテーブルの上に並べながら、小声で私に話しかけてくる。


「お嬢様、()()お手紙が届いております」


 このメイドは、サイモン様とのやり取りをする上での協力者であった。

 本人曰く、許されない恋とか、そういった恋愛小説が大好きなんだそうで、それを地で行く私を応援してくれている。


「ありがとう、読むまでそばにいてくれる?」

「はい!」


 好奇心旺盛に返答したメイドを横目に、私は急いでサイモン様からの手紙を読んだ。

 とにかくサイモンに会わないと。


「お願いがあるの」

「なんでございましょう?」


 興味津々に聞いてきたメイドを一瞥し、そこからとても悲しげな表情をする。


「一目逢いたいとおっしゃっておられるの。このままだとわたくし達は永遠に逢えなくなるかも知れない。だからお願い。私の身代わりになって。

 暫くこの部屋で、私のフリをしていてもらいたいの」


 そう切り出した私に、ビックリした表情で、そのメイドは私を見た。

 

 さすがにそれは……と、難色を示していたそのメイドに、袖の下をたんまりと渡し、私の食事を食べてもらって、私と服を交換してもらった。

 そして私はメイド服を着て、このメイドの振りをする。


「ありがとう。そうね、二時間後くらいには戻ってくるから」

「絶対ですよ! バレたら私、首になっちゃいますからね!」


 何とかメイドを言いくるめ、私は顔を下に向けながら空になった食器を持って自室から出る。

 廊下には見張りなどはおらず、ホッと一息吐く。

 鍵を閉め、調理場にソッと空の食器を置き、そのまま部屋の鍵を持って、こっそりと家を出た。


「なんだ、簡単じゃない」


 私は緩い監視に、やや呆れながらもサイモン様との落合場所に向かった。




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