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33 ヴァル視点⑦


「リック?」


 俺は目を見開き、リックの言葉に動揺した。


「驚いたよ。ある日突然、過去に巻き戻っていたんだ」


 そう言って、真剣な表情で俺を見る。


「この状況だと、お前の姫さんを助ける事に失敗したのか?」


 あぁ、完全にリックに知られている。


 どういうわけか、リックに前の記憶が残っている。能力が発動すると、自分以外の記憶は無くなると思っていたが、ここにきて記憶がある者が出てきた。

 シンディ様も、と考えると、その条件は何なのだろう?


 取り敢えず、リックは完全に前の事を覚えているようだ。

 観念した俺は、前回リックに黙って能力を発動した事を謝罪した。


「悪かった。協力してくれていたお前に黙って能力を発動して。あの時は本当に自分の死で、時戻しが出来るのか確証がなかったから、お前に反対されると思ったんだ」


 そう言った俺を見て、リックはため息を吐く。


「だろうと思ったよ」


 こうして、俺はリックに今までの経緯を説明した。

 シンディ様にも前回の記憶があるようだが確証はない事。

 今の状況を何とかする為に、密かに動いているが、シンディ様のそばを離れられない事。

 そういった説明の中で、リックが質問してきた。


「お前、何故そうまでして姫さんのそばに居る事に拘るんだ? ここでも姫さんは暗殺されそうなのか?」


 その言葉に、俺は固まる。

 暗殺もそうだが、一度目のシンディ様の死に様を思い出して……


「分かった分かった。そんな辛そうな顔すんなって。言いたくないなら無理に言わなくていいさ」

「……悪い」


 まだ口にする勇気の無い俺は、リックに謝る。

 リックは気にしてないようで、首を横に振った。


「気にすんなって。それより、気になるのは姫さんが、前の記憶持ちなのかって事だけど、前の記憶があるのなら、何でまたこんな状況になってるんだ? 回避出来なかったのか?」

「分からないんだ。一度目と同様に、陛下となる前から、今の陛下に尽くしている。側妃とも距離を置きながら、極力関わらないようにしているのも、変わらない気がするし……」


 俺の説明に、リックも頭を悩ます。


「姫さんが何を考えているかが分かれば、どう手助けすればいいか分かるんだかな。でも、確証もないし、姫さん自身が変わらない以上、俺たちが出来る事などたいして知れてる」

「そうだな……」


 俺もそれは痛感している。

 シンディ様が、サイモンと側妃との良好な関係を望んでいる以上、現状はたいして変えられない。

 そうこうしている内に、いつの間にか立場を追いやられている。

 何故いつも、シンディ様に疑いがかけられるのだろう?

 シンディ様が側妃と距離を置いている事が、却って不仲説を囁かれる原因なのだろうか?

 一体誰が、なんの目的でシンディ様を陥れているのだろう。


 自分の考えに耽っていたが、リックの声でハッとした。


「まぁ、いいさ。現状、この事態を何とかすればいいんだろ? 相手は王族だし、どこまで出来るか分からないけど、まずは毒針の真犯人を見つけだすのが先決だな」

「そうだが、難航している。俺はシンディ様のそばを長く離れられないからな」


 その言葉にリックは呆れながらも、仕方がないといった風に首をすぼめた。


「乗りかかった船だ。協力してやるよ」

「リック……いいのか?」

「どうせまた姫さんが死んだら、お前も能力を使ってまたやり直すつもりだろ? 俺はお前にその能力を使うために、命を無闇に終わらせてほしくないだけさ」


 そう言って、苦笑いする。

 リックは二度目の人生で、俺の死亡の第一発見者だったそうだ。

 俺の死体はもう見たくないと、本気で怒ったので、リックの前では死に様は見せないと心に誓った。


 リックの協力を得て、シンディ様に掛けられた冤罪を晴らすべく動いていた俺たちだったが、ある日突然、それは訪れた。


「何故……シンディ様……」


 三度目のシンディ様は、自ら命を絶つ事を選んでしまった……

 そばには、手紙が三通あった。

 その内二つは開封済みのもの。

 一つは実家のご両親から届いた手紙で、シンディ様のせいで家門の名誉を傷つけられた為、親子の縁を切るといった内容が書かれていた。

 もう一通は、廃妃とし、新王妃に危害を加えた罪で、近々処刑する事が決まった事を伝える手紙であった。

 しかもその差出人は側妃。


 家族と元親友から縁を切られた事で、絶望しての行動だったのだろう。


 開封されていない手紙を見ると、宛先に書かれた名前は、ヴァル・ローレンツ。

 俺だった。


 中身を読むと、"ごめんなさい"と。

 それと、"今までありがとう。貴方のこれからが良いものでありますように"とだけ。


 あぁ、俺はまた助けられなかった。

 女神のギフト能力があっても、俺は、ただの力ない騎士だ。

 この抗いようのない大きな壁の前で、この方をお救いする方法はあるのだろうか。


「お前は頑張ったよ」

 

 どうしたら良かったのか分からず、途方に暮れる俺に、リックはそう言って、静かに俺の肩に手を乗せた。


 リックが帰ったあと、俺は悩む。

 シンディ様は人生のやり直しをお望みだろうか?

 辛い人生に耐えられなくて、自ら死を選んだのに、勝手に俺の能力を使って、また人生をやり直しさせていいものだろうか?

 

 結局、悩んだ末に、もう一度能力を使う事を選択した。


 

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