32 ヴァル視点⑥
結論から言うと、俺は自分の意思で時戻りの能力が使えるようになった。
それには俺自身の命をかけないといけないが……
三度目の時戻りは、一度目と同じような歴史を歩んでいた。
もちろんシンディ様は王太子妃となっており、精力的に公務を行なっておられる。
俺は早々にシンディ様の護衛騎士となり、シンディ様を見守り続けた。
その甲斐あって、三度目では専属護衛騎士の証として、シンディ様からナイトリーソードを授かった。
そばにいてシンディ様を見守りながら、俺は首を傾げた。
シンディ様は、記憶が戻ってないのだろうか?
三度目は一度目と同じく、王太子に尽くしている。
いや……よく見ると、どこか鬼気迫るものはあるのか?
王太子との関係を良好にしようと必死なのは、一度目と同じか?
あぁ、また陛下がお亡くなりになり、あの女が側妃となる日が決まってしまった。
しかしシンディ様は、抗うことなく粛々とそれを受け入れる。
特に二人の間に入ろうとせず、王妃となった責任を果たそうとされているところは同じ。
違うところといえば、側妃の顔を立て、自分は裏方に徹しながら、二人との距離を置いているところかもしれない。
しかし、これも一回目とそんなに変わらない。
やはり記憶があると思っていたのは、俺の勘違いなのか?
そんな感じで日々をやり直していたある日、突然それは訪れた。
「シンディ! リリアの命を狙うなんて、なんて奴だ!」
怒りのままに突如王妃の執務室に、陛下となったサイモンが現れた。
「なんの事でございましょう?」
「しらばっくれる気か!? リリアに贈ったドレスに、毒針が入っていたそうだ! お前がわたしたちに嫉妬してやったんだろう!」
「わたくしは、リリア様と距離を置いております。そのような事は考えた事もございません」
サイモンの言葉にシンディ様は、毅然とした態度で返したが、結局は危険視されて離宮送りとなった。
「また……わたくしは、どうすればよかったの……?」
″また″
小声ではあったが、シンディ様は、はっきりと言った。
気の所為かと思ったが、離宮に追いやられてからのシンディ様は、ひどく憔悴したように見える。
これから先、自分がどうなるのかを知っているように……
「あの……シンディ様」
思い切ってシンディ様に、自分の能力を明かし、前回の記憶が残っているのか尋ねようと思った。
しかし、それを尋ねたところで今更どうなる?
まずはこの状況を何とかし、シンディ様の名誉を回復する事が先ではないか!
前回と同じく、離宮の警護及び監視を言い渡された俺は、シンディ様に告げる。
「俺がシンディ様の濡れ衣を晴らします。シンディ様は決して毒針を仕込むような真似はいたしておりません!
いつも近くでシンディ様を見ていた俺が、そう証言して再調査を訴えれば」
「いえ、いいのよヴァル」
俺の言葉に被せながら、シンディ様はそう言って首を横に振る。
「余計な事をして貴方まで罰を受けてしまったら、わたくしはどう貴方に謝ればいいか分からないわ」
「それは……!」
そうだった。一度目も騎士団長に直談判して、国境隊に送られてしまったのだ。
そのせいでシンディ様のお側を離れてしまい、あのような死に方を……
その事を思い出すと、胸を掻きむしられたような気持ちになる。
「貴方は前途有望な騎士ですもの。こんな所で燻っている人ではありませんね」
そう言って、シンディ様は微かに微笑まれる。
「ヴァル、専属騎士の任を解きます」
「シンディ様!?」
「ナイトリーソードは貴方が自分で処理してちょうだいね? わたくしが持っていたら、見つかった時にどんな難癖を付けられるか分からないから」
そう話すシンディ様は、これから先の事を知っているかのような口ぶりだった。
何をしても信じてもらえず、どんどん不利な状況に追いやられていったシンディ様の一度目の人生。
そんな人生を再び味わわせないように、俺は時戻しをしたのではないのか?
「俺は死ぬまで、いや、死んでからもシンディ様の専用護衛騎士です。その提案は拒否します」
ハッキリとシンディ様にそう告げた俺は、改めて誓いを立てる。
「これからも俺は、貴女の専属護衛騎士として、貴女をお守りいたします」
「ヴァル……」
今回はシンディ様のおそばを離れることがないようにしないと。
あんな死に方は二度とさせない。
目立たないようにしながら、事の真相を探らなくては……
こうして俺は、離宮の監視という名目のもと、シンディ様をお護りしながら、毒針の件を調べ始めた。
そんな時、リックが離宮まで俺を訪ねてきた。
「やぁ、ヴァル。お前、時戻しを使ったな?」
リックの言葉に、俺は驚愕した。