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2 六度目の結婚式


「シンディ様、少しこちらに顔を向けて頂けますか?」


 私に化粧を施してくれていたアンが、私にそう言った事で、ハッと我に帰る。


「……ええ、分かったわ」


 危ない。

 気を抜くとつい過去の自分を思い返してしまう。


「軽く化粧をしてから、直ぐに大聖堂に向かいましょう。すでに旦那様と奥様もお屋敷を出られましたから」

 


 アンに促されて静かに頷く。

 もうこれで六回目なのだ。今日の流れは目を瞑っていても分かる。



 アンや優秀な王宮の侍女たちの手によって、あっという間に準備が終わり、大聖堂に向かう馬車の中で、これからの事を思い、心が沈む。

 このまま大人しく全てを受け入れると、また私は陥れられ、無惨な死を迎えてしまう。

 回帰する度に今度こそはと頑張ったが、悲惨な結果は抗えなかった。

 私をその都度陥れ、死に追いやった諸悪の根源。

 ……リリア・ローガスト伯爵令嬢。


 

 二度目に回帰した時は、自分がまた生き返っている事に理解が追いつかないまま大聖堂に連れていかれ、サイモン様を見た瞬間にパニックを起こして泣き叫んでそのまま失神してしまった。

 そのせいで他国から大勢の来賓を招いていたにも関わらず、結婚式は中止となり、意識を取り戻してもサイモン様やリリアを見る度にパニックを起こしてしまう私に、サイモン様や王家は憤慨し、精神に異常を期していたにも関わらず、それを隠して王家に嫁がせようとした罪で我が侯爵家は没落。私は療養という名のもとに北方の寂れた療養施設に送られたが、そこで友人からの差し入れだと言われた菓子を食べた途端に息が苦しくなり、そのまま死んでしまった。

 あの菓子の詰め合わせは、リリアのお気に入りの製菓店のものだった。


 三度目、四度目の回帰の時は、実家を没落させまいと必死に気を張り、何とか意識を保ちながら結婚式を終え、サイモン様の気持ちを自分に繋ぎ止めれば側妃を娶ると言い出さないのではと、必死に尽くしたが、結果は同じ。

 五度目にて、ようやく自分は始めからあの二人にいいように扱われていたんだと知った……


「お嬢様、大聖堂に着きましたわ」


 アンの声で、ハッとする。

 もう着いてしまった。

 これから自分はどうすればいい?

 どう足掻いても、結果は同じなら……

 この回帰は永遠?

 ならば、この苦しみも?



 大聖堂に入り、花嫁の控え室でウェディングドレスに着替えさせられ、念入りに化粧やヘアスタイルを整え、アクセサリーを身につける。

 準備が整った時、控え室に両親が入ってきた。


「シンディ、準備は出来たか?

 お前は今日から王家に嫁ぎ、誠心誠意、王家に仕えるのだ。

 我がエドワール侯爵家に泥をぬるような真似はするなよ」

「そうよシンディ。サイモン殿下をお支えすると共にご寵愛を得なさい」

「早く子を成し、お前の、ひいてはエドワール侯爵家の地位を盤石のものとするのだぞ」

 

 この台詞を聞くのもこれで六回目。

 そこに娘の門出を祝おうとする気持ちは感じられず、家のための道具としてしか見ていないのが嫌でも伝わってくる。

 こんな両親だが、それでも育ててもらった恩はある。


「お父様、お母様。今まで育てて下さり、ありがとうございました。

 我が侯爵家に恥じないよう、これからは誠心誠意サイモン様に尽くし、役目を果たしたく思います」


 私の言葉に、両親はとても満足気に頷くと、控え室から出て行った。

 

 何事も無かったかのように振る舞わなくては……

 さすがに二度目の時のような一族没落だけは避けたい。

 だからと言って、またサイモン様とリリアと顔を合わせると、自分は穏やかではいられない。

 二人の非道さを知ってしまったから。



 そんな事を考えていると、まさにその当人であるメイド・オブ・オナー役のリリアが挨拶にやって来た。


「シンディ様、本日はまことにおめでとうございます。本当にとてもお美しくて、女神様のような輝きを放っておられますわ。

 これはさぞサイモン王太子殿下もお喜びになられるでしょう」


 そう言ってリリアはにっこりと微笑む。

 この笑顔にずっと騙されていた。

 ずっと友人だと思っていた。

 違うと、私を嫌悪してさえいたという事を、五度目の最期の時にようやく気付いた私は、さぞ滑稽だっただろう。


 何も言わずにリリアの顔をジッと見ている私を不思議に思ったのか、リリアが

「シンディ様?」

 と呼びかけた声に、ようやく私は笑顔を取り繕う。


「あ、ごめんなさい。ボーッとしてしまっていたわ。

 ありがとうございます、リリア様。

 今日はよろしくお願いしますね」


「もちろんです! 名誉あるシンディ様のメイド・オブ・オナーに選ばれたのですもの! わたくし、精一杯頑張りますわね!」


 そう言ったリリアの顔は、とても私を憎んでいるように思えない。

 でも。

 もう騙されないわ。


 私はリリアに、にっこりと微笑み返し、そして決心した。


 せっかくの回帰。

 この六度目の人生は、私を陥れた人達に報復することにしよう。

 失敗してもまた()()だけだ。

 ならば。

 今度の人生はやり返してもいいよね?



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