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25 パーティのあと


「この大馬鹿者が!! お前は一体何を考えておるのだ! よりによってザイトヘル伯爵の招待状を省き、それに気付いた王太子妃を責めるなど、お門違いにも程があるわ! ザイトヘル伯爵を敵に回すのは厄介なのだぞ! 国に納めている税もザイトヘル伯爵は抜きん出ているのだ! お前がその穴埋めを出来るとでも思っておるのか!? しかもあの書物はどういうことだ⁈ 何故あんなものが出回っている! お前たちは市井におりてあんなことをしていたのか⁈」


 陛下がサイモン様を別室に呼び出し、サイモン様が現れた途端、大声で怒声を発していた。

 

 あれからお披露目パーティは中止となった。会場入りした貴族達には、今日の事は内密にしてほしいとの意味合いを込めて、後日お詫びの品を王家から送る旨を通達した。

 しかし、人の口に戸は立てられない。

 あっという間に今日の出来事は、貴族内で広がるだろう。

 サイモン様の評価はますます下がり、その原因となったリリアもまた、同様である。

 

 今日ザイトヘル伯爵から持ち込まれた書物も、他の貴族たちはこぞって集めにかかるだろう。

 そして誰もがあの二人を思わせる挿絵付きの書物を読み、あの二人の仲を勘ぐるに違いない。

 ザイトヘル伯爵にその書物を送ったのは言うまでもなく私の指示を受けたヴァルだ。

 

 その書物がまた、二人の不誠実な関係を物語り、それは結婚式の時の階段からの突き落とし事故に繋がる。

 大勢の前で新妻となる私ではなく、咄嗟にリリアを庇った事で、二人の仲は以前からのものとして確実となり、せっかく罪を免れたリリアにも再度疑惑が湧き上がる。

 ここで以前から準備していた他の情報を開示していけば、リリアは確実に罪に問われるだろう。

 そして、共謀していたサイモン様もまた窮地に立たされる。

 王太子の地位を剥奪させる為の一歩がまた近づいてきたのだ。

 そう考えると、やっとという思いになった。


 そして先程、陛下に呼ばれて別室に来た時に、その部屋に同じように呼ばれたサイモン様が、陛下より叱責を受けていた。

 その後、改めて両陛下に、サイモン様に対する対応を問われた私は、今後、どう切り抜けて行くか思案中だ。


「王太子妃よ、そなたは今回の一件、どう考える?」


「わたくしは……長年サイモン様の婚約者を努めてまいりましたが、サイモン様のお心を繋ぎ止める事が出来ていなかった自分の不甲斐なさを感じております。

 サイモン様とローガスト伯爵令嬢が、どのような関係なのかは存じ上げませんが、ローガスト伯爵令嬢はわたくしの良き友人でもあった為、にわかに信じ難く、今は二人にどう接していけば良いのか分かりかねます」


 沈痛な面持ちでそう語る私に、王妃様が優しく声を掛けてくれた。


「王太子妃、そんなに自分を卑下しなくてもよいのですよ。今回の件は王太子の自業自得です。貴女は頑張っていました。それこそ王太子を支えようと、王太子の分まで。

 だからこそ、このような結果になり、残念で仕方ないのです。

 王太子は貴女のフォローがあったにも関わらず、あまりに軽率でした」


 そう言って、私には優しげに視線を送っていたが、その後、サイモン様を鋭い視線で射抜く。


 「王妃様! 私は決してリリ……いや、ローガスト伯爵令嬢とは何もありません! 信じてください!」

 

 サイモン様の叫びに、王妃様は軽蔑の眼差しを送る。

 

 「王太子。わたくしは貴方をどうやら買い被っていたようですね。今回の件は王太子妃を頼らず、自分の力で切り抜けてみなさい。

 いいですわよね? 陛下?」


 王妃様は、サイモン様にキツくそう言った後、陛下に話を振る。


「ああ……サイモンよ。ザイトヘル伯爵への謝罪の場をお前が仕切ってみせよ。しっかりとその時に、お前の誠意を見せるのだ。失敗は許さない」


 陛下がサイモン様にそう告げた。


「わ、私が!? ど、どうやれば……」


「自分で考えろ。ああ、それと。この書物の中に描かれている内容については真偽もしっかりと精査するつもりだ。果たしてここに描かれているのは、単に空想のものか、そうでないのか……これ以上落胆させられる事がないといいがな……」


 サイモン様の言葉に、陛下は冷たくそう返答し、王妃様を伴って部屋を出ていく。

 私はおふたりに向けて、敬意を込めて車椅子越しにカーテシーをし、両陛下が出ていった後、私もすぐに部屋を出ようとヴァルに合図した。

 するとサイモン様が私を振り返り、呼び止めてくる。


「ま、待ってくれシンディ! 今回の件、君が余計な事をしたから大事になったのだぞ! どうしてくれるのだ! ここは君が何とかするべきだろう!」


 サイモン様は強気でそう言ってきた。

 以前の私なら、どんな時でもサイモン様を支える為に何とかしようとしただろう。

 そうか、私も良くなかったのだ。何でも私が尻拭いしてきてしまったから、サイモン様はそれが当たり前になり、私を便利な道具としか認識しなかったのかもしれない。


「わたくしは間違った事はしておりません。ザイトヘル伯爵をあの場で名指しで辱めたのは、明らかにサイモン様です。陛下や王妃様が仰った事、もうお忘れですか? サイモン様おひとりで今回の件を収めよとの事でしたわよね? わたくしは手出し致しませんので、おひとりで頑張って下さいましね?」


「シンディ!!」


 そう言った私に、サイモン様は私に手を伸ばして近付こうとしたが、すぐにヴァルが私とサイモン様の間に割り込んできてくれて、サイモン様の手を遮ってくれる。


「そこを退け!」


「お断り申し上げます。私はシンディ様の専属護衛騎士の役目を全うするのみ」


 鋭い視線で、サイモン様を見据えながらヴァルはそう言った。

 元々聖騎士でもあったヴァルは、強い視線を向けると、威圧のオーラを放つ。

 そのヴァルの態度に、サイモン様は立っていられなくなり、尻もちをついてしまった。


「ああ、例の書物、サイモン様とリリア様が描かれてあるなんて、わたくしも興味ありますわ。ぜひわたくしも取り寄せて読んでみますわね。あ、でも、官能小説だとか……読むのに勇気がいるかもしれませんわね?」


 私は床に座り込んだままのサイモン様にそう告げる。

 

 「さぁヴァル、行きましょう」


「御意」


 私の声掛けに、ヴァルはサイモン様から視線を離し、私の車椅子を押しながら私達はその場を後にした。



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