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21 サプライズ?


「わたくしのお披露目パーティ!?」


 私が自身の執務室で、日課の書類捌きをしていた時、新たな書類を運び込んできた文官が、書類と共に持ってきたのは両陛下からの手紙であった。

 そこには、結婚式の日から大分経っており、体調も回復している私を、あの事故を知っている貴族の方々にお披露目してはどうかとの内容であった。

 すでにお披露目パーティの日も決められており、辞退する事など出来ない状態。


「はぁ――、面倒」


 つい心の声が零れてしまう。

 幸い、この手紙を持ってきた文官はすでに退室しており、今この部屋の中にいるのは、侍女のジュリアと専属護衛騎士のヴァルのみ。

 ジュリアは私の心の声を聞いても、何も言わずにせっせとお茶の準備をしてくれている。

 三人いる専属侍女の中でも、ジュリアは信頼出来ると感じていた。

 他の侍女たちとの対抗意識もあったのだろう。最初こそ、勢いに任せてよく喋り、少しガサツな面もあったが、次第に環境に慣れて落ち着いて仕事が出来るようになってきている。

 侯爵家での私の専属メイド、アンとは同郷という事もあり、他の侍女たちよりも共通の会話があった事も否めないが、本来のジュリアは、周りの人達をよく見て、状況判断能力の優れた侍女であると認識していた。

 今までの回帰で気づかなかったのは、多分私に余裕がなかったせいだろう。ちゃんと一人一人を見ていくと、それぞれの個性が分かり、相手からもそれぞれに応じた反応が返ってくる。

 それの積み重ねで信頼関係が出来上がってくるということを、私はすっかりと忘れていたのだと、今回の回帰でつくづく感じさせられてしまった。

 ちゃんとこちらが歩み寄れば、こうしてきちんとした対応が返ってきていたのに、あの頃の私は、サイモン様とリリアしか眼中に無く、だから私の周りの人達は、私から離れていったのだと今なら理解出来る。


「お茶が入りました」


 そう言ってジュリアは私の前にお茶を持ってきてくれた。


「ありがとう、ジュリア」


 その一言で、ジュリアはとても嬉しそうに微笑む。

 そうね、今回の回帰で私はもっと味方を作っておかなければならない。

 あの二人が自滅していくように、周りから真綿で首を絞めるように、ゆっくりと追い詰めるには、私一人の力では無理なのだから。

 その為には、面倒なパーティにも進んで出席しよう。


 そこまで考えて、ふと、気にかかった。


「ねぇ、このお披露目パーティは両陛下が言い出した事なのかしら?」


 あの両陛下が、私を気にしてくれていただろうか?

 確かに最初はお見舞いに来てくださったけれど、一回きりだった。

 その後は、特に接触を図ってきた覚えはない。回復の度合いもあるだろうが、今後王太子妃として使えるかどうかを、見極めていたのだと思う。

 確かに私は仕事が再開出来るようになるまで回復しているが、まだ歩く事は出来ず、他国の賓客の接待などは到底無理だ。

 その状況で果たしてあの両陛下がパーティなど、私の為に開こうとしてくれるのだろうか?


 そう考えていた時、さっき手紙を持って来てくれた文官が、新たな書類を持って部屋に戻ってきた。

 私の執務室担当のこの文官に、先程の疑問を訊ねてみる。


 すると返ってきた返答に、私は頭を悩ませる事となってしまった。


「あ、それはサイモン王太子殿下のご提案ですね。何でも当日はサプライズもあるそうですよ」


 サプライズ?

 どうせ、ろくな事じゃない。

 でも当日まで何も知らないのは、却って良くない事に繋がっていきそうだ。


「ヴァル」


「御意」


 もう、ヴァルは何も言わなくても、私の言いたい事が全て伝わっている。

 この心地良さを知ってしまったら、もう元には戻れないくらいだ。

 人をダメにするソファではないけれど、心地良さに頼りきってしまいそうになる自分がいた。

 ダメだダメだ。しっかりしないと!

 これからもっとあの二人を追い詰めていかなければならないのだから。


 取り敢えず調べてもらい、分かったのは、当日そのパーティにリリアが出席してくるというものだった。

 その時に私との接点を作り、大勢の前で私に許しを乞うというもの。

 きっと大勢の前でリリアは大袈裟なくらいに自分の非を詫び、私が不問にすると言わないといけないような雰囲気を作ってくるのだろう。

 ヴァルの調べでは、世間体が良くないからと、リリアの父であるローガスト伯爵から、後妻の話を切り出されているそうだ。しかも、相手は怪しげな噂のあるザルトヘル伯爵。

 だから、あの二人は何とか阻止しようと必死なのだろう。

 ザルトヘル伯爵か……

 確かに嫌だわね。でも、過去五回も私を嵌めたのだから、案外癖のあるザルトヘル伯爵とも気が合うのではないのかしら?

 さて、当日はどのように対応すればいいかしら?


「ヴァル」


「はい」


「例の書物は完成しているかしら?」


「はい。すでに市井では発売されており、口々に噂されております」


「そう? ならばお披露目パーティの時に余興として両陛下にお見せしなくてはならないわよね?」


 私の言葉に、何の書物だろうかと文官もジュリアも首を傾げている。

 そして、笑顔でそう言った私に、ヴァルは目を細めて微かな笑みを浮かべていた。

 普段笑わない男として名高いこの男の、貴重な笑顔を傍で見てしまったジュリアが、目を見開いてとても驚いている。それぞれの反応を見て、私もクスリと笑った。

 

 

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