20 サイモンの思惑③
私ことサイモン・ヤード・ウッドベルクは今、両陛下に謁見していた。
先日、リリアとの密会にて、早急にリリアを助け出さないと、あの変態オヤジの所に嫁がされてしまうという危機的状況にあると知ったからだ。
何としてでも、シンディと和解させ、反省の意を込めて、シンディの侍女として受け入れてもらわなければならない。
そうすれば嫁がされずに済むし、王宮にて度々リリアと出会う事も出来る。
その為にはまず、両陛下からの口添えが必要だと考えたのだ。
最近のシンディは、何故か反抗的で、私の言葉を素直に聞き入れなくなっている。
生意気なこと、この上ないが、今はあの者の実家の力が必要であり、また仕事面においても、使いどころのあるシンディを手放すわけにはいかなかった。
「両陛下に置かれましては、ますますご健勝にてお喜び申し上げます。
この度は私のためにお時間を取って頂き、ありがとう存じます」
「うむ。して、サイモンよ。用件はなんだ? つまらぬ事で呼び立てたのではあるまいな?」
父である国王陛下の目は冷たい。
最近の私の行動に、明らかな不信感を募らせているようだ。
そして王妃様も、何も言わないが目の奥が笑っていない事にも気付き、情ないが少し震えている自分がいる。
失態を犯すわけには行かない。
王太子としての地位を守り、ゆくゆくはリリアを手に入れるためには、このような圧などで負けてはいられないのだ。
私は自分を奮い起こすように、深呼吸をした後、両陛下に申し立てた。
「我が妻シンディの容態も落ち着いてきているようです。
改めてシンディを皆の前に、我が妻として、また、王太子妃としてのお披露目をしては如何かと」
「ほう……それは良い考えであるな。王妃よ、そちはどう考える?」
「ええ、とても良い考えだと思いますわ」
私の言葉に、両陛下は些か態度を軟化してきた。
よし、もう一押ししておこう。
「それに……ゴボッン。王妃様の前で憚られるのですが、その……、私達はまだ正式な夫婦ではないのです。シンディの身体の負担を考えて、その、今まで先送りにしていたものですから……」
私が恥ずかしそうにそう言うと、二人の両陛下は目を丸くした。
「あら……まぁ」
「ああ、そうであったな。シンディの回復が優先だったのだから、仕方の無い事。して、お前はそれを我らに伝え、どうしてほしいのだ?」
陛下の質問に、私はすかさず答えた。
「世間で言われている私とリリア嬢との噂を鵜呑みにして、シンディは今、精神的にも弱っている様子なのです。ですので、改めてお披露目パーティを開き、私がシンディをいかに大切に思っているかを、世間に知らしめたいと考えています。
そうすればシンディも心を開いてくれるでしょう。
そして、その場にリリア嬢も呼んで頂ければ。リリア嬢の口からもハッキリと誤解である事をシンディに伝えてもらい、改めて今回の件についての謝罪を受ければ、シンディの憂いもなくなり、私達は晴れて真の夫婦になれるのではと考えております」
言い終えた私を値踏みするかのように、王妃様は私を見据えていた。
王妃様は努力家のシンディを、殊の外認めていた。
だから今回の件は、王妃様としても歯がゆく思っているだろう。
優秀な娘であるシンディが、このまま潰れていくのは避けたいはず。
ならばシンディを一旦持ち上げ、他の貴族たちが大勢見ている中で、リリアがシンディに忠誠を誓ったと見せかければ、周りのリリアへの不信感も薄まり、両陛下の関心も薄くなる。
頃合いを見て、忠誠を誓った証としてシンディの侍女に立候補し、受け入れられれば、リリアは晴れて無罪放免。
リリアとの密会時に、私達はどうすれば上手く事が進められるかを考えていた時に、リリアが泣きながら提案してきたのだ。
自分さえ我慢してシンディに謝罪し、仕えたいと言えば丸く収まるのではないかと。
しかも、大勢の人が見ている中では、シンディも強く出られず、受け入れるしかないはずだとも言っていた。
全くリリアは可愛いだけでなく、頭もいい。
何故それが陛下や王妃様にも伝わらないのか。
まぁ、いい。まだ計画は始まったばかり。ゆっくりとリリアの素晴らしさを浸透させ、ゆくゆくは私の側妃として迎え入れればいいのだから。