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19 予想通りの結果


「リリア!」


「サイモン様!」


 久しぶりに会ったリリアは、少しやつれていた。

 私に勢いよく抱きついてきたリリアの華奢な身体を、私も思い切り抱き締める。

 ここは、私達が学生の頃からよく利用してきた安アパートメントの一室。

 リリアとの逢瀬にて、毎回ここで愛を確かめ合っていた場所だった。


「リリア、すぐに連絡出来なくて済まなかった」


「いいえ! お忙しい中、わたくしの為に時間を割いて下さっただけで感謝致しますわ! わたくし、本当にサイモン様にお会いしたかったのです!」


 そう言いながら、リリアは涙を流している。余程、心配だったのだろう。

 私はリリアの涙をソッと拭いてから、また抱き締めた。

 華奢な割に胸の弾力が私の欲をそそる。


「サイモン様、わたくし、手紙でも書きましたが、早急にわたくしをシンディの侍女にして下さいませ。でないとあのザイトヘル伯爵の所に嫁がされてしまいます! わたくし、サイモン様以外の男の人の所に嫁ぐだなんて死んでも嫌です!」


 そんな可愛い事を言いながら、リリアは更に胸を押し付けてくる。

 久しぶりのリリアは、私をいとも簡単に欲情させてきた。


「そんな事はさせない……リリア、君は私だけのものだ」


 私はそのままリリアをベッドに押し倒した。



 ****



「気持ち悪い」


 私は今、サイモン様が出かけた後の報告書を、顔を顰めながら読んでいた。

 その報告書には、二人は出会って数分後には盛り上がっていたと書かれてある。

 サイモン様の跡をつけて、行動を逐一観察していたのは、ヴァルの気の置けない同志の一人らしい。ヴァルはあれから素早くその者に連絡を出し、サイモン様の行動を見張らせたのだ。

 ヴァルはその後、何食わぬ顔ですぐに私の元に戻ってきて護衛を続けていた。

 私の専属護衛騎士が居なくなっては、他の人も怪しむだろうし、なんと言ってもヴァルは私の元から離れたがらないから。

 ヴァルの代わりにサイモン様を探るなんて、信用出来る人なのか不安もあったが、ヴァルが信用出来ると判断したのなら大丈夫だろうと、私も信用する事にした。

 その者の名前は、リック。

 なんと、現役聖騎士だと言うから驚きだった。

 現役聖騎士であるリックは、掴みどころのない飄々とした感じの人。

 一見おちゃらけており、寡黙なヴァルとは合わないように見えるが、それでもお互いを認め合っているという、不思議な関係だった。

 そしてこのリックは、タチの悪い事に、このような報告書を作り、私の反応を見て楽しんでいる。


「リック。シンディ様にそのような報告書を見せるな。もっと書きようがあっただろう」


 ヴァルは、リックの報告書について苦言を呈していた。

 リックのそれは、とても正確であるが、正確ゆえに知りたくもない情報まで知ってしまう事がよくある。

 今回の依頼が初めてではなく、今までにも何回か協力してもらっていた。

 その都度、とても正確な報告を受け、かつ、二人の浮気を匂わせる噂を広めるのにも協力してもらったのだとか。

 今回も、リリアとサイモン様との情事が事細かに報告書に表現されていた為、一見官能小説かと思ってしまうような、ある意味見事な表現をされていたのだ。


「リック様、ご協力感謝致します。この報告書は有意義に使わせていただきますね」


 にっこりと笑顔でそういう私に、参ったというように肩を竦めて、手を広げてから、私の前で礼をする。


「御心のままに」


 そう言ってリック様はすぐに踵を返し、立ち去った。


「すみません、あんなでも基本は仕事の出来る奴なんです」


 ヴァルが申し訳なさそうにそう言ってきたので、私は思わず吹き出してしまった。


「ヴァル、貴方が謝る事なんて一つもないわ。勿論、協力して頂いたリック様もね?」


 本来、聖騎士は教会所属にて、王家の管理下にない。

 なので、リック様が私に協力してくれるのは、完全にヴァルの為で、私に仕える必要など皆無なのだ。

 感謝こそすれ、文句を言う立場ではないことを私は理解しているつもりだ。


 聖騎士は本来、女神に仕える者であるという認識のもと、何かしらの特異能力を持ち合わせていると聞く。

 先程のリック様は、隠密に優れた能力をお持ちだとか。

 なので、先程のような尾行調査や密偵調査などはお手の物らしい。

 だから、こんなに事細かに内部の様子を報告出来るのだろう。

 以前に、私はヴァルの特異能力は何なのか聞いてみた事がある。

 しかし、ヴァルは、

「私の能力はあってないようなもの。全く役に立ちませんので、聖騎士を名乗る事を辞めたのです」

 との返答にて、結局は分からないままである。

 しかし、そのおかげとも言うべきか、それで私の護衛になってくれたのだから、それ以上の事を聞いてはならないと感じた。


「さて、これでサイモン様とリリアの浮気の証拠は押えたわ。

 ヴァル、この報告書、少し修正してから出版社に持ち込んでくれる?

 どうせなら、ちゃんとした官能小説として売り出してもらいましょう。

 勿論、主人公たちが誰なのか、世間の人達がすぐに特定出来るようにね?」


 市井であの二人を見掛けた証言が多い中、ある建物の一室に隠れるようにして入っていった二人の行く末。

 それが見事に描かれたこの報告書は、さぞかし世間を驚かせる事だろう。


 あの二人に猶予なんて与えてあげない。

 攻撃出来るところは、すぐに攻撃しないと、狡猾な二人は優しい振りをしながら、すぐに私に牙を剥いて来るだろう。

 それに、そろそろ左足以外は治ってきている為、改めて初夜を、と遠回しに侍女長から言われていたのだ。きっと王妃様から言われてきたに違いない。

 今までは、身体に負担がかかるからと、のらりくらりと避けていたが、このままだと、初夜は避けられそうにない。


 改めてゾッとする。

 嫌だ。

 あんな男に抱かれるくらいなら、今すぐ舌を噛んで死にたい。

 何としてでもこちらが優位に立ちながら、拒否出来る環境を整えなければ。

 そのためには、あの二人に自滅してもらわないと。


 私は改めて、決意を新たにした。

 


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