表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/52

14 リリアの事情


 あの事件から三ヶ月が経った。

 シンディが快復している事や、故意に突き飛ばしたという証拠がない事、そして陛下とシンディとの謁見にてシンディが、リリアが親友である自分を突き飛ばすはずはないと庇った事から、リリアを釈放する事が決定した。

 

 リリアは貴族牢から解放されたが、一部の真実の愛を信じている者達以外は、周りのリリアを見る目は冷たい。

 市井では、サイモンとリリアが学生時代からよく二人で密会していたという目撃情報が後を絶たず、リリアは王太子妃殿下の親友でありながら、婚約期間中から王太子妃殿下を裏切り続けていた最悪な悪女として噂が広まっていた。

 それは当然貴族社会においても噂が広まっていき、王太子とリリアの評判は今や地に落ちていた。

 

 リリアの両親は、そんなリリアを持て余し、早く結婚をさせて家から出したかったが、なかなかいい縁談も見つからない。


「リリア、お前にはザイトヘル伯爵の後妻として嫁いでもらおうかと考えている」


 父の執務室に呼ばれたリリアは、父に突然そう言われ、吃驚してしまった。


「お父様! ザイトヘル伯爵といったらお父様よりも歳上の方ではありませんか! それにもう何人もの後妻が亡くなり、怪しい噂まである方でいらっしゃいましょう!? そんなところに嫁ぐだなんて、わたくしも死んでしまってよろしいとお考えですか!?」


「ザイトヘル伯爵に失礼な事を言うな。たまたま奥方となる方達が運悪く亡くなられただけだろう。

 噂があてにならないのは、お前も今回の事でよく分かっただろう?

 まさかお前、本当に王太子殿下と恋仲で、王太子妃殿下を殺そうとしたのか?」


「まさか! お父様までわたくしをお疑いなのですか!? 親友であるシンディ様をわたくしが殺すはずありません!

 どうか信じて下さいませ!」


 リリアは父の言葉に、必死になってそう叫んだ。


 そうよ。()()殺すつもりなんてないわ。

 シンディ様には、一旦幸せの絶頂を味わってもらってから、じわじわと真綿で首を絞めるように追い詰めていき、その後一気に叩き落としてやるつもりだったのよ?

 そのほうが絶望感もより一層感じるでしょう?

 

 サイモン様の妃の座を、家柄だけでいとも簡単に手に入れたあの女が大嫌いだった。

 だからあの女の全てを奪ってやるつもりだった。

 しかしそれは今じゃない。

 

 なのにこんな事になるなんて!

 私の計画が丸つぶれじゃないの!

 これからの事をサイモン様と相談しなければならないわ。

 だから今は何としてもお父様を説得しないと!


 心の中でそんなことを考えているなんて、誰も思いもしないような、悲痛な表情をしながら訴えるリリアに、ローガスト伯爵も渋面を作っている。


「噂とはそのようなものだという事だ。

 しかし、その噂は貴族にとっては致命的になる。

 お前にはもう、まともな縁談は来ないであろう。

 その中でザイトヘル伯爵は、お前の噂など気にしないと仰って下さっているのだ。

 この話を受けなければ、お前を修道院に入れるつもりだ」


「お父様!」


 リリアは焦った。

 シンディに堕胎薬を飲ませて、子供が出来ないようにし、二年後には側妃として召し上げてもらう事を、サイモン様と計画しているなんて言えない。

 それに計画遂行の為には、まずは自分の名誉を回復させなければ……。


 しかし、何故あの女はすぐに私を庇わなかったのだろう?

 あの女は私を完全に信じきっている。

 だから今回、このような事になってもすぐに疑いは晴れて釈放されると思っていたのに……


 リリアはそう考え、直接シンディに会わなければならないと考えた。

 まずはあの女の様子を確認し、改めて自分を信じさせなければ。

 そうすればまたあの女を、どのようにも懐柔出来る。


 

「お父様。わたくしはシンディ様……いえ、王太子妃殿下にお会いして、怪我をさせてしまった事を謝罪したいのです。

 きっと王太子妃殿下なら、わたくしをすぐに許して下さいますわ。

 そのうえで、わたくしは王太子妃殿下の侍女に志願してみます。

 誠心誠意お仕えすれば、きっと今回の噂を払拭出来るはずですわ。

 だから、お父様から王太子妃殿下にお会い出来るように、取り計らって頂けませんか?」


 あの女に仕えるなんて、とんでもなく屈辱だが仕方ない。

 その分、後で倍返しにすればいいだけだ。

 それに、身近にいる方が色々と仕掛けやすいし、サイモン様にも堂々と会える。

 そう考えたリリアは必死で父に願い出た。


「う~む……確かに王太子妃殿下がお前を受け入れたなら、噂は払拭される。

 王太子妃殿下を説得出来る自信はあるのだろうな?」


「もちろんです!」


 父の言葉に、リリアは力強く返答した。


 あの女を欺くなんて、赤子の手をひねるように簡単だ。

 今まで、人目を忍んでサイモン様と逢瀬を交わしながらも、バレる事なくあの女の親友だと、あの女や周りの人達に信じさせて、信頼を勝ち得てきたのだ。

 

 自信満々に返答したリリアを見て、ローガスト伯爵も渋々了承した。


「お前の容疑がまだ完全に晴れていない今、会ってもらえるかどうか分からないが、取り敢えず謝罪の機会をもらえるよう、願い出てみよう。

 それで駄目だったら、ザイトヘル伯爵に嫁ぐか修道院に行くのだぞ」


「分かりましたわ。

 よろしくお願い致します、お父様」


 リリアは満足気に返答した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ