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12 サイモンの憂い


「サイモン、お前は一体何をやっている?」


 父である陛下に呼び出された私は、謁見室で今、父に見下ろされながら跪いている。

 そしてその様子を、シンディの父であるエドワール侯爵がこの場で見ていた。

 

 あの事故からもうすぐ2ヶ月が経とうとしていた。

 リリアの処遇に対し、何とか阻止する為に色々と画策した事は隠し立てがない。

 未だに貴族牢に囚われているリリアを何とか無罪放免にして出してやらなければと必死だった。

 彼女はいずれ私の側妃として召し上げる予定だ。

 こんな所で瑕疵をつけるわけにはいかなかった。


「お前は妻として娶ったシンディを労る事もせず、シンディに怪我をさせた何処ぞの落ちぶれ伯爵家の娘を気にかけているそうではないか。

 お前は分かっているのか?

 お前のその態度が、周りに与える影響を。

 ここにいるエドワール侯爵にも言われたぞ?

 王太子は我が娘を庇うどころか、怪我をさせた女を庇い、現在もその女を助ける為に動いているなど、我が娘を愚弄する行動ではないかとな。

 それに大きな傷を負った王太子妃は、王太子の傍では不釣り合いではないか、このまま王宮から下がらせた方がいいのではないかとも考えているそうだ。

 そうなればお前は後ろ盾を失う。

 王太子の座はお前には無理であったのだろうか」


「父上!」


「ここは謁見の場だ。陛下と呼べ。

 そんな事も分からないとは……」


「も、申し訳ございません……」



 娘の事など気にもかけないような、あの侯爵がまさか父上に抗議するなど考えもしなかった。

 あの侯爵は狡猾な男だ。自分に利があれば、平気で娘など切り捨てると思っていたのに。

 しかしまだ私には侯爵家の後ろ盾が必要だ。

 私は側妃腹。しかも母はすでに亡くなっており、母の実家は落ちぶれた脆弱な子爵家。

 到底私の後ろ盾にはなり得ない。

 同じように、別の側妃腹の異母兄弟があと三人いる今、私が王太子の座を守るにはシンディがまだ必要だった。


「陛下、もちろん我が妻、シンディの事はとても大切に思っております。

 その妻が怪我をしてしまった事は、遺憾であり、痛々しい我が妻を見るだけで胸が張り裂けそうな思いでございます。

 その妻が大切に思っていた友人である伯爵令嬢が、あらぬ疑いをかけられたまま貴族牢に入れられていると知ったので、シンディがとても心を痛めているのです。

 私はシンディの為に、一日も早くシンディの友人の汚名を晴らし、シンディに安心してほしくて動いているに過ぎません」


「……お前とその令嬢が、真実の愛として学生の頃より隠れて付き合っていたなどという噂も耳にしたのだが?」


「それこそお戯れを。

 ローガスト伯爵令嬢は、シンディを通して挨拶程度の言葉を交わす仲に過ぎません。

 いくらシンディの為とはいえ、どうやら私は今回行き過ぎた行動をとってしまったようですね」


 私の言葉に父上は考え込んだようだ。

 リリアには悪いが、今はシンディを優先した態度をとっておかなくては。

 陛下とエドワール侯爵の心証を悪くする事は出来ない。


「私は我が妻シンディを愛しております。その妻を助けられなかった自分がどうしようも無いくらい不甲斐なく、どうすれば妻への贖罪になるのかを考えた結果、今の現状を早く正し、妻に少しでも安心してほしくて、逆に妻を不安にさせてしまった行動をとってしまったようですね。

 私が優先すべきは我が妻シンディに他なりません。

 妻や周りに誤解させるような行動は、これからは決してしないと陛下とエドワール侯爵の前で誓いましょう」


 私の言葉に陛下は頷いた。


「エトワール侯爵よ。もう少し愚息を見守ってやってはくれまいか?

 この通りサイモンも自分の間違いに気付き、反省しているようだ」


「そのようでございますね。

 我が娘が大切にされていると知る事が出来、安心致しました」


 エドワール侯爵がそう言ったのを聞き、やはり違和感が拭えないが、私は少々思い違いをしていたようだ。

 これからはもっと慎重にシンディを扱わなくてはいけないのかもしれない。


「エドワール侯爵よ。怪我の事もそうであるが、今回の事は王家にも責任がある。

 そなたには辛い思いをさせてしまったのに、詫びを入れるのが遅くなったな。

 何か希望があれば聞き入れよう」


 陛下の言葉に、エドワール侯爵は深々と頭を下げる。


「勿体ないお言葉でございます。

 私は我が娘が一日も早く快復してくれれば、他に何も望む事はございません」


「ほぅ。エドワール侯爵も欲の無い事よ。

 そうだな。エドワール侯爵は流通経路に海を使いたいと以前から申し出ておったな。

 王太子妃となったそなたの娘への祝いと、今回の贖罪も兼ねて、海に隣接している王家所有の領地を王太子妃名義で送るとしよう。

 領地の管理は、そなたに任せるように王太子妃には言っておく。

 そうすればその領地にある港も、そなたが自由に使えるであろう」


「ほ、本当でございますか!? 勿体ないお言葉、感謝致します!」


 陛下の言葉に、エドワール侯爵は歓喜している。

 さっきまでの重々しい態度が嘘のようだった。


「あの事故に対しても、早急に結果を出すとしよう。

 王太子妃の友人であり、その友人を心配しているのなら、王太子妃にとっても良くない環境が続いているという事だ。

 車椅子では短距離の移動も可能になったと聞いている。

 一度王太子妃に話を聞く事にしよう」



 陛下はそう言って、この謁見は終了となった。


 シンディの一言でリリアの命運がかかっていると言っても過言ではない。

 何としてもリリアを助けるように言わせなくては……

 でも前まで従順だったシンディは、あの結婚式の日から態度が変わった。

 今のシンディを従わせるには、どう接すればいいのか分からない。

 とりあえず、シンディに私を信じさせなくては……


 サイモンは謁見室を出てから、直ぐにシンディに会いに行く事にした。



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