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11 父の面会


 そろそろ次の一手を……と思っていたところで、面会の報告を受けた。


「お父様がわたくしに会いたいと?」


 あの事故?からもう数週間は経っている。

 その間一度もお見舞いにすら来なかった父が今更何だろう?

 もしかして、王太子とリリアとの噂を聞いて事実確認に来たのだろうか?


「分かりましたわ。貴賓室にお通しして。準備が出来たら向かいます」


 侍女達に着替えをしてもらい、車椅子に乗る。

 部屋を出るとすぐにヴァルを見つけた。


「ヴァル、貴賓室まで連れて行ってくれる?」


「かしこまりました」


 ヴァルに車椅子を押してもらい、貴賓室に向かう。

 入室すると父が立ち上がり、私に頭を下げた。


「王太子妃殿下におかれましては……」

「堅苦しい挨拶はこの場では不要ですわ。お父様」


 父の挨拶の言葉を遮って、父の前の席まで連れて行ってもらった。


「車椅子のままで失礼致しますわ。まだ歩けないので移動が大変ですの」


 父の向かいに着き、侍女やヴァルは部屋の後ろに待機してもらう。


「それは構いませんよ。王家に嫁いだ早々にこのような事態に見舞われるとは……さぞ王太子妃殿下も驚いた事でしょうな。

 お身体の方はいかがですかな?」


「ありがとうございます。お父様、そんなに畏まらなくてもよろしいですわよ?

 わたくしは王太子妃ではありますが、その前にお父様の娘です。公式の場ではありませんので、お気楽にお話下さいませ」


「そうか。ではこの場はそうさせてもらう。

 それから二人きりで話したいのだが、控えている者を一旦下げてもらえないか?」

 

 会って早々の父の要求に、少し考えてから指示を出す。


「ジュリア達は下がってちょうだい。ヴァル、貴方はそのままで」


 私の指示にて侍女たちが下がり、ヴァルだけその場に残った。


「シンディ、そこの護衛も……」

 

「ヴァルはわたくしの専属護衛ですの。わたくしに不利益な事は決してしませんので、お気になさらず」


 私の言葉に父は驚いた顔をした。

 専属護衛がすでに決まっている事にも驚いたのだろうが、それ以前に、父の意に反してこんなに強く自分の意思をはっきり伝える事など、生まれて初めての事ではないだろうか。


 過去の何回かの回帰でも、サイモン様はもちろん、両親にも逆らう事など思い付きもしなかったのだ。

 とにかくあの時は必死でサイモン様や両親に認めてもらおうとしていた。

 その結果、いつもサイモン様にも両親からも見捨てられてきたというのに。

 本当にこんな人達に振り回されていた自分は、つくづく救いがたかったなと実感する。


「それで、お父様のご用件をお伺いしても?」


 私の言葉に、ハッとしたような顔をした後、咳払いをして誤魔化した。


「あー、その、なんだ。お前は王太子殿下とは上手くやっているのか?」


「どういう事でしょう?」


「最近、変な噂が流れている。

 王太子殿下には真実の愛を約束した女性が前からいて、お前がその女性、つまり今回容疑をかけられたローガスト伯爵令嬢の邪魔をして、いつもローガスト伯爵令嬢を虐めていたと。

 今回もそのローガスト伯爵令嬢を嵌める為に、自ら階段から落ちたのだという噂だ」


 「あら。うふふ」


 嵌めたというのは、当たりだわ。

 めぐり巡って真実に辿り着くなんて、因果なものね。


 そう思い、思わず笑ってしまった。


「笑い事ではないぞ。まぁ、あの時はその場にいた方々が大勢いたから、そんな噂は一笑されている事がほとんどだが、王太子殿下はローガスト伯爵令嬢の為に、奔走しているそうではないか。

 王太子殿下の行動が噂に拍車をかけているのだぞ。

 お前はちゃんと王太子殿下の御心を掴む努力をしているのか?」


 厳しい顔をしながらそういう父に、呆れてしまう。

 この人は昔から家門大事と考えている癖に、そのような噂を耳にして、我が侯爵家が侮られている事に何故気付かないのか。

 私が正式な婚約者であり、そして妻になったのだから、もし殿下が他の女と噂になったのだとしたら、それはれっきとした裏切り行為であるとして、その真偽を追求するところでしょう。

 なのに何故、心を掴めなかった私が悪いみたいな言い方でやってくるのか。

 こんな父だから、過去にあのサイモン様が国王になった時、どんなに冤罪であっても娘を庇うことなどなく、サイモン様の言いなりになって現状を受け入れてきたのだろうな。

 父は、サイモン様と共に沈む未来を何度も選択している事に、永遠に気付かないだろう。


「お父様。その噂には無理がありましてよ? 誰が自分の結婚式の日に、わざわざ自分を犠牲にしてまで、浮気相手を陥れるような真似をするというのですか?

 それに、あの時のサイモン様をお父様も見たではありませんか。

 妻となった者を助けず、浮気相手を助けるなど、普通で考えても許せるものではありませんのに、我が侯爵家の後ろ盾があってこそ王太子となれたサイモン様が、わたくしを助けなかったのです。

 これはわたくしだけの問題ではありませんよ? 我が侯爵家を侮辱する行為であり、蔑ろにされていると周りからも思われているに違いありませんわよね?」


 私の言葉に父はびっくりしている。

 この勢いでさらにダメ押しで言葉を連ねた。


「なのにお父様は、王家への苦言を呈するわけでなく、わたくしに苦言を言いに来た。

 これはどういう了見なのかお聞かせ願えますか?」


 父は私の言葉に難しい顔をして考え込んでいる。

 ここで一気に畳み掛けなければ。

 

「お父様。サイモン様はお父様が支えていくに値するような方だとお思いですか?

 今回の件で非があるのは明らかに王家、ひいてはサイモン様です。

 わたくしという正式な婚約者がいながら、リリアと浮気をしていたというのなら尚更、王家に強く出なければ、これから先我が侯爵家は、王家や殿下に軽くみられて、いいように扱われて馬鹿にされるだけですわよ?」


「しかし、お前は既に殿下と結婚しておるではないか。我が侯爵家と縁を結んだのに、今更波風を立てるのは……」


「今、強く出ないでいつ出るのですか。今出ないとこれから先も軽く扱われます。わたくしだけでなく、もちろんエドワール侯爵家も同様です」


 父は暫く考え込んだ後、決意した表情で私を見ると、私への労いの言葉もそこそこに早々に部屋を出て行った。


 疲れた……。

 分かってはいたが、本当に父は私の事など、どうでも良かったのだろうな。

 

 あの人の全ては、一族の繁栄のみ。

 その為には、王家に相反する意見など述べる事さえ考えてなかった。

 だけど、一族が軽く扱われるという言葉で、ようやく重い腰を上げる父に改めて失望を覚えた。

 いや、まだ失望するほど父に、家族に何かを期待していた自分に驚き、そして情けない。

 分かっていたと思っていたのに、まだまだ自分は甘かったらしい。

 こんな事では、またこの人生でも足をすくわれて惨めに死んでいく事になる。

 もっと気を引き締めなくては。


 自室に戻った私は、侍女に何か書くものを準備してもらいヴァルを呼ぶ。

 

「ヴァル」

 

 私がそう言うと、そばに控えていたヴァルが、私の前に跪く。


「何か御用でしょうか?」


「貴方にお願いしたい事があるの」


 そう言って、メモ用紙に要件を書き、すぐにそれをヴァルに差し出した。


「お願いの内容はここに記しましたわ。至急調べてくれる?」


「御意」


 メモを受け取るとすぐにヴァルは退室する。


「何だったのでございますか?」


 侍女のジュリアが首を傾げてそう尋ねてくるが、私は微笑みだけで返した。



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