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10 堕胎剤入りのハーブティ


 サイモン様の突撃訪問から数日が経った。リリアは故意だという明確な証拠はないが、王太子妃を怪我させた罰として修道院送りになるところを、サイモン様が必死で庇い続け、一旦は刑罰を保留する形となっているそうだ。

 きっとサイモン様は、私にリリアを庇わせるまで粘るつもりなのだろう。

 しかも少数派ではあるが、愛し合う二人を引き裂いている王太子妃が悪いのだという噂まで流れ始めているのだとか。

 なるほど。

 そうやってまた自分達に有利になるように世論を動かそうとしているのか。

 しかし、私はこのままあの二人を放置したりなんてしない。

 まだ皆の記憶が新しい内に、新たな証拠を見つけて、あの二人の悪意ある行動を白日のもとに晒していかなければ。

 それに、仮にも結婚式を終え、私はあの男の妻となってしまった。

 私の怪我が治るまでは、初夜も決行されないが、このままだといずれは訪れるであろう事に、悪寒が走る。

 陛下がお亡くなりになるのは半年後。

 それまでに白い結婚のまま廃妃されなくては。

 その為にも、サイモン様を王太子から引きずり落とし、ゆくゆくは廃嫡されるようにしなければならない。

 侯爵家の後ろ盾がなければ王太子にはなれなかったサイモン様。

 なのに、後ろ盾をそのままに別の女性を愛し、陛下が亡くなるとすぐに自分の思い通りに行動したサイモン様は、国の統率を乱して行き、混乱を招いた。

 私は早くに死んでしまったが、多分あのままでは徐々に国は荒れていったでだろう事は想像に容易い。

 サイモン様は国王陛下になるべき人ではない。

 だから陛下がご存命の間に、早くサイモン様の翼を折らなければ。


 次の一手はもう決めてある。

 せっかくサイモン様とリリアとの熱愛が疑われているのだから、その証拠を集めればいい。

 確固たる証拠を集め、世間に知らしめよう。

 サイモン様は婚約者がいながらも、真実の愛と称して浮気していた事を。

 そして、いずれは側妃として召し上げようと画策していた事を。

 その画策とはつまり、私に堕胎薬を飲ませること。

 この事は、五回目の人生最期の時に、リリアが笑いながら私に暴露した内容だった。

 あの時は絶望しかなかったけど、今ではあの暴露話をしてくれた事に感謝している。

 おかげで私の復讐計画がスムーズに進むのだから。



 まずは目先の危険から取り除くとしよう。

 この国の医療はあまり発展しておらず、堕胎薬も副作用如何によっては一生子宝に恵まれない身体となってしまう。

 何時それを飲まされるか分からない今、サイモン様の指示によって堕胎薬を私に飲ませようとしている者や、堕胎薬の入手経路を探らなければならない。

 しかし、私はまだ一人では動けないから、こっそりと探る事は出来ない。

 それに実行犯が誰か特定出来ていない今、侍女たちにはまだ頼めない。


「ねぇ、毎朝入れてくれているハーブティ、とても美味しいけれど、何処から入手したものなの?」


 私は探りを入れる為に、そばに居たジュリアに聞いてみた。

 

「あれは、北方で採れる何種類ものハーブをブレンドして作ったものらしいです。王都の茶葉店にて定期的に購入しております」

 とジュリアは答える。


 五回目の人生最期の時にリリアが言った言葉。

 

 “貴女が毎朝飲んでいるハーブティの中に堕胎薬が入っていたの”


 確かにそう言っていた。

 しかし、何時から入れられていたのかは分からない。

 途中からだと味の変化が分かるかもしれないから、では、初めから?

 あぁ、そうね。普通に考えたら結婚式の後にすぐ初夜だから、初めから入れられていたんだわ。


 だとすると、今も?


 その考えに行き着くと、急にゾッとする。階段から落ちてから大変だったから、その事に気付くのが遅すぎたわ!


 起床時のハーブティは侍女が持ってくる。

 決まって持って来てくれるのは、私付きの侍女三人の中でも、特定の一人だ。

 もし、その人が毎朝私に堕胎薬を飲ませていたのなら、私は少なからずショックを受けるだろう。

 三人ともとてもいい子達だと知ってしまったから……。

 でも、このまま野放しには出来ない。

 私は意を決して、行動に出る事にした。

 

「ねぇ、バーグ先生を呼んでくれるかしら?」


「何処かお具合が悪いのですか?」


 私の言葉に、イザベルが問う。


「ええ。ここ最近少し目眩がするの。だからバーグ先生に診てもらいたいの」


 私がそう言うと、

「それはいけません。すぐにお呼びいたしますね」

 と、イザベルはバーグ先生を呼びに行った。



 しばらくするとバーグ先生を伴ってイザベルが戻ってくる。


「王太子妃様、目眩がするとか? 診察させて頂きますね」


 そう言ってバーグ先生は丁寧に私を診察してくれた。


「そうですね……ようやく起き上がれる状態になったばかりなのに、動きすぎてはいませんか? もしかするとまだその動きに身体が追いついていないのかもしれません。もう少し続くようなら、お薬出しますね」


 バーグ先生は、穏やかにそう言う。


「分かりましたわ。ありがとうございますバーグ先生。お陰様で安心致しました。

 先生、宜しければこの後、御一緒にお茶でも如何でしょう?

 とてもお勧めのハーブティが御座いますのよ?」


 私はバーグ先生をお茶に誘った。

 バーグ先生は快く承諾して下さったので、お茶の準備を頼む。


「マリ。貴女が毎朝入れてくれるハーブティ、あれをぜひバーグ先生にも飲んで頂きたいの。準備してくれるかしら?」


「は、はい。ただいま準備致します」


 マリは私にそう言われて慌ててお茶の準備をしに行く。

 さっきのマリの反応ではまだ分からない。


 私はマリの様子を見ながら、運ばれてきたお茶を少し口に含む。

 うん、いつもの匂い。いつもの味だわ。


 そしてバーグ先生の様子を窺う。

 バーグ先生なら気付いてくれるはず。


 そっとバーグ先生を見ると、バーグ先生は勧められてハーブティを飲もうとした際、一旦その手を止めて匂いを確認し、そして、私と同じように少しだけ口に含む。

 そしてそのままカップをお皿の上に戻し、私を見た。


「王太子妃様、つかぬ事を伺いますが、このハーブティは毎朝飲んでいらっしゃるのですか?」


「はい。朝の目覚めにいいとかで、毎朝侍女が用意してくれますので」


 私はバーグ先生の質問に何食わぬ顔をして答える。

 先生は私の返答に微妙な顔をした。


「王太子妃様。もしかすると、今の王太子妃様にはこのハーブティの効能はキツすぎるのかも知れません。

 ハーブティにも合う合わないの個人差がありますので、もしかすると目眩の原因の恐れもあります。

 どんなハーブが使われているのか調べてみたいので、少し茶葉を分けて頂けませんか?」


「まぁ、もちろんですわ。イザベル、ハーブティの茶葉を包んでバーグ先生にお渡しして」


 私の言葉にイザベルは「はい」と返答してすぐに茶葉を取りに行った。


「シンディ様、茶葉を調べ終わるまではしばらくハーブティを飲まないで頂けますか?」


「分かりましたわ。先生、よろしくお願い致しますわね」


 バーグ先生は私にそう告げると、茶葉を受け取って退室された。


 良かった。バーグ先生が気づいてくれて。

 これで茶葉の中身が確認出来るし、疑っているとバレずにハーブティを飲まなくてよくなった。

 過去にもバーグ先生とは定期健診の時にお会いした事はあるけれど、そんなに接点がなかったから、この件に関わっている可能性は低いと思って先生に賭けたのだ。

 そして、私はその賭けに勝ったのだと思う。

 

 そして、この話を聞いていた侍女達、特にいつも毎朝ハーブティを用意していたマリは困惑表情だ。

 今日のところはこれでいい。

 後はバーグ先生の結果次第で問い詰めればいいのだから。

 

 その間に次の段階に進まなくてはね。


 

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