01 これは偽装のための結婚式のはず
※以前書いた小説を改稿したものです。
私は、神殿の一室で、ひとりぼんやりしていた。
この部屋は、花嫁のために用意された控室で、私は純白の花嫁衣装に身を包んでいる。
今日、私はこの国の第二王子クレム殿下と結婚する。でもそれは、お互いの利益のための偽装結婚にすぎない。
だから、私達の結婚式は、短い準備期間で簡素に行われるはずだった。それなのに、なぜか国を挙げての盛大なものになってしまっている。
「どうして、こんなことに……」
私が今着ている花嫁衣装は、王族しか手に入れることができない最高級の生地を贅沢に使っているらしい。しかも、王都の名だたる職人たちをかき集めて作られたとか。
全身鏡に映る私は、ライトブラウンの髪を上品に結い上げてもらい、自身の紫の瞳と同じ色のアクセサリーで飾られていた。
その姿は、自分でも驚いてしまうほど輝いている。
「まるで私じゃないみたい……」
私は、これから大聖堂で最高位の司祭に愛を誓うらしい。大聖堂で挙式が挙げられるのは王族だけ。
「偽装結婚に、ここまでする?」
つい本心が漏れてしまう。
控室の扉がノックされ、神官が顔を出した。
「フィアナ様。準備が整いました。どうぞ、こちらへ」
神官のあとにつづくと、大聖堂の扉の前に案内された。
そこには、真っ白な衣装を着た金髪の青年が立っている。
「クレム様」
声をかけると、クレム様は青い瞳を優しく細めた。
「フィアナ、待っていた。美しいな」
「ありがとうございます。クレム様も……」
クレム様は、つい最近まで仮面で顔を隠していたけど、その素顔は彫刻のように整っている。切れ長な目に、凛々しい眉毛。筋の通った鼻。いつまでも見ていられる。
クレム様の兄である王太子殿下と似ているけど、やわらかい印象の王太子殿下とは違い、クレム様の美しさは鋭い。
左目にかかるように大輪の花のような模様が描かれていて、それがまたいっそうクレム様の魅力を引き立たせている。
「フィアナ、あなたと結婚できることを嬉しく思う」
クレム様は私の手の甲に唇を落とした。そして、まるで壊れやすい宝物を扱うように丁寧にエスコートしてくれる。
あまりにクレム様が私を大切に扱ってくれるので、これが偽装結婚なことを忘れてしまいそう。
「さぁ、行こう」
「はい」
この偽装結婚が私にどういう影響をもたらすのかわからない。でも、私は決してクレム様と結婚した自分の選択を後悔しない。
こんな前向きな気持ちで過ごせる日が来るなんて、数カ月前の私は思ってもいなかった。