五話 夜にサプライズを決行しました
五話 夜にサプライズを決行しました
ヴァレンタインデーの朝、要は愛想笑いを浮かべてエスパーダに挨拶したが、冷蔵庫かやチョコを取り出す指示もなく、いつものように朝食を急かされる。
「エスパーダ……チョコ」
「仕事から帰ってから! 準備に時間かかるの。能ちゃん寝てるし」
確かに能が手伝わないと、要が自分のプレゼントを用意する誰得な展開になる。朝に貰って仕事に気合いを入れるプランは実現不可能になった。要は寝袋の中で熟睡してる能を睨んだ。
残業もして遅くなった要はメッセージをエスパーダに送った。
『これから帰るよ』
『入る前に連絡ちょうだい。サプライズの準備があるから』
エスパーダは多分サプライズを理解していない。まあその雑さがエスパーダらしいといえばらしいのだけど。
『着いたよ』
既読はついたが返信はない。が、中からエスパーダと能の騒ぐ声が聞こえる。今から準備しているのだろう。能が出迎えるまでに十分は経っていた。
「おかえり、お兄ちゃん」
能は普通にチョコを差し出した。ラッピングも百円ショップの物で、中身は昨日エスパーダと一緒に作った物である。
「ありがとう。エスパーダは?」
「バラしたらサプライズにならないじゃん」
二人の情報の秘匿具合が謎だ。要が中に入るとテーブルの上に箱があった。雑な結び目のリボンが巻いてある立方体の箱である。
「開けてみて」
「うん」
要がリボンを解くとチョコを持ったエスパーダが飛び出してきた。
「ハッピーヴァレンタイン!」
そう叫ぶエスパーダの姿を見て驚いた。箱に巻いていたリボンと同じ物を身体に巻き付けて、大事なところを隠していた。そして胸の部分には『私もプレゼント』と大きな文字で書かれたプレートがあった。能が書いて、貼り付けたのかもしれない。
要は何も言わずにスマホで連続撮影。
「ちょっと要! チョコ受け取ってよ」
エスパーダは顔を真っ赤にしつつ抗議する。しかし要はちょうど良い画角を探しながら、撮影を繰り返す。
「やっぱりエロは最強だね」
「やだ」
エスパーダは箱の中にしゃがみ込んだ。撮影会はそれで終了になつた。