三話 手作りチョコを準備するんです
三話 手作りチョコを準備するんです
ヴァレンタインデーの前日。台所は能とエスパーダに占領された。どうやら宣言通りチョコを手作りするようだ。
「材料は人間用のチョコ……で良いんだよね?」
能は板チョコをエスパーダに見せながら聞いた。
それに対してエスパーダは当然と言わんばかりに頷く。
「要にあげるんだもん。要がおいしくないと」
エスパーダが自己中じゃない。要は素直に彼女の成長を喜んだ。
「利益を得るためには誠意を見せて相手を信用させるのよ。信用が金を生むの」
前言撤回。エスパーダは通常運転だった。
「さすがお義姉様。よっ、会社員!」
ホメているようでホメてはいない。能はポットからお湯を深い皿に移し、チョコのかけらをおちょこに入れた。そしてエスパーダに渡す。
「これを溶かせば良いんだよね」
エスパーダはお湯を張った皿におちょこを浮かべる。徐々に熱が伝わり、チョコが溶けていく。
「後は型を用意して、形を整えて、冷やすだけ」
「簡単だね」
「そう思ってると失敗することもあるよ。温度管理が重要なんだから」
スマホを片手に言っているところを見ると、ネットの受け売りのようだ。
要は口を出したかったが、我慢した。文句は貰ってから。いや、貰ってからも言ってはいけないのかもしれない。
現代人に求められるものは空気を読むことだ。いかに相手の機嫌を損ねずに自分の想いを遂げるかに心血を注ぐ。今は見守るしかなかった。
それに嬉しそうで真面目に料理にいそしむエスパーダを見ていると要は期待してしまう。エスパーダは手際は悪いが、料理の味は要好みだから、何か大きな失敗をしなければ大丈夫なはずだ。
ハート型の金枠に溶けたチョコを流し込み、形を整える。人間にとっては小さいが小人族にとっては大きな物である。
しかし能は言う。
「人間では一時的な糖分補給にしかならないわ。量産するのよ! 私の分も」
おそらく最後のが本音なのだろう。手伝ってもらってる手前、エスパーダは断ることが出来ず量産に励むことになる。