やっぱり、騎士さんは不器用なようです。
やっぱり、騎士さんは不器用なようです。
「んー……?」
春も過ぎて、もう少しで夏になろうかという時期のこと。
その頃になると私もようやく、一人で車椅子を動かせるようになっていた。もちろんリハビリは継続しているけど、自分の意思で動けるようになったのは大きい。
そんな感じで屋敷の中を探索していて、ふとあることを思った。
「どうやって、にかいにいこうかな……?」
私の部屋は一階にあって、目が覚めてからはほとんど上の階には行っていない。行ったとしても、それはリアに補助してもらって、という条件付きだった。
しかし彼女は数年振りの休暇を取っており、この数日は実家に帰っている。
そんなわけだから、私は一人でこの難題を解かなければならなかった。
「いつもはリアに負ぶってもらってたけど、うーん……?」
「…………どうされました」
「ひぁ!?」
などと考え、階段の前で右往左往していると。
すぐ後ろから聞き覚えのある男性の声が、耳に入った。
完全に不意を打たれた私は、思わず車椅子から転げ落ちそうになる。だけどそれを間一髪で抱き留めてくれたのは、その男性こと騎士のクリスさん。
「大丈夫、ですか……?」
「えぇ、あ……ありがと」
彼は少しだけ驚いたようにしながらも、そう訊いてきた。
私はお礼を言いながら、小さく呼吸を整える。
そうしていると、クリスさんは言った。
「…………それで、どうされました」
「え、あー……」
改めて、階段前で何をしているのか、という話に。
私はしばし考えて、正直に答えた。
「にかいの、しょさいにいきたくて」
「書斎、ですか……?」
すると、彼はなにか考え込む。
もしかして、このような身体で無理をすることを咎められるだろうか。そのようなことを思っていると、なかなかの長考を経て、クリスさんは言うのだった。
「……手伝いましょうか」
「え……?」
それは、思わぬ申し出。
だけど私にとっては、これ以上の幸いはなかった。
「えっと、おねがいします……」
「分かりました」
だから、ここは素直に厚意に甘えるとしよう。
そう考えて笑うと、彼は少しぎこちない動きで私の身体に触れて……。
「へ……?」
…………これって、お姫様抱っこ?
無表情で、私の身体を抱きかかえるのだった。
しかし思わぬ運び方をされて、私は困惑してしまう。それに何よりも、クリスさんの顔がすぐそこにあって、不必要なまでに緊張してしまった。
それに対して、クリスさんは眉一つ動かさないし。
「ご不快、でしたか……?」
「あ、え……い、いいえ?」
「そ、そうですか……」
「………………」
などと考えていると、彼はそう訊いてきた。
私が困りながらも否定すると、少し視線を逸らしてしまう。
「(なんだろう、これは……?)」
私は階段を上りながら思った。
そっと階段に座らされ、車椅子を取りに降りるクリスさんの背中を見て。
「(もしかして、彼ってやっぱり不器用なのかな……?)」
凛とした美男子騎士のクリスさん。
そんな彼のちょっと違う一面に、くすりと笑う昼下がりだった。