表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/13

どうやら、騎士さんは口下手のようです。

な、長くても十数話にまとめます……!








 どうやら、騎士さんは口下手のようです。





 そんなことを思ったのは、つい先日のことだった。

 屋敷の中をリアと一緒に回っていた時のこと。私たちの前に、ちょうど騎士のクリスさんが通りかかった。彼はこちらを認めると、一つ会釈をして去ろうとする。




「あ、まって……!」




 でも、私はまだ彼に感謝を伝えていなかった。

 だから必死に声を絞り出し、最大限の大声でそう口にする。

 そうすると、幸いにもクリスさんには届いたようだった。彼は肩越しにこちらを見ると、しばし考えてからこちらへ。そして、私の前で片膝をついた。



「なんでしょう。アリシア様」

「え、っと……」



 淡々とした口調と、真っすぐで凛とした眼差し。

 綺麗な顔に感じる面影は分からないけど、とかく私は必死に声を出した。



「ありがとう。かんしゃ、しています!」

「………………」



 上手く笑えていただろうか。

 表情筋も衰えたらしく、ぶっきら棒に映ってしまったらどうしよう。

 私は自分の不出来に至らなさを感じ、不安を抱いた。しかしクリスさんは、しばしの沈黙の後にこう口にするのだ。




「素敵な笑顔を守れて、幸いです」

「……え?」

「それでは、失礼いたします」

「…………」




 私は思わぬ言葉に、ついつい呆けてしまう。

 颯爽と立ち去る彼の背中を目で追って、首を傾げてしまった。すると、そんな私たちの様子を見て笑ったのはリアだ。

 彼女は私の前に回り込むと、こう言う。



「本当に、彼は昔からずっと口下手なんですよ」

「くちべた……?」

「はい、そうです」



 それを聞いた私がまた首を傾げると、リアはこう教えてくれた。




「私と彼は王都立学園の同期生だったんですけど、彼ったら根は優しいのに無愛想で。いまだって、きっと誰よりもアリシア様の回復を喜んでいるのに、素直に言えないんです」

「そうなの……?」

「えぇ、そうですよ!」




 素直ではない、騎士。

 私の中でクリスさんへの謎が、また深まってしまうのだった。

 そもそも、彼はどうして私なんかを助けようと動いてくれたのか。




「うーん……?」

「あら、その様子だとお嬢様もかなり、ですね?」

「かなり、なに……?」




 そんな私の考えを読んだように、リアは小さくいつものように口元を隠して笑った。かなり、なんだろうか。そう思っていると、彼女は私の頬を指でつついて言ったのだ。



「お嬢様も、かなりの『鈍感さん』ですね!」

「えー……?」

「まぁ、それでも今日はこのくらいにしておきましょうか」

「うー……」




 表情で必死に訴えるも、その言葉の意味をはぐらかされてしまう。

 いったい、私のどこが『鈍感さん』なのか。そのことについて疑問がとても大きくなってしまうが、リアはそれよりも面白そうな話を始めるのだ。





 色々と納得はできない。

 でも、今日のところはお喋りが楽しいので許してあげよう。




 そう一人で考えて、私はリアの楽しげな話に耳を傾ける。

 今日もいつものように、ゆっくりと時は流れていた。




 




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ