どうやら、騎士さんは口下手のようです。
な、長くても十数話にまとめます……!
どうやら、騎士さんは口下手のようです。
そんなことを思ったのは、つい先日のことだった。
屋敷の中をリアと一緒に回っていた時のこと。私たちの前に、ちょうど騎士のクリスさんが通りかかった。彼はこちらを認めると、一つ会釈をして去ろうとする。
「あ、まって……!」
でも、私はまだ彼に感謝を伝えていなかった。
だから必死に声を絞り出し、最大限の大声でそう口にする。
そうすると、幸いにもクリスさんには届いたようだった。彼は肩越しにこちらを見ると、しばし考えてからこちらへ。そして、私の前で片膝をついた。
「なんでしょう。アリシア様」
「え、っと……」
淡々とした口調と、真っすぐで凛とした眼差し。
綺麗な顔に感じる面影は分からないけど、とかく私は必死に声を出した。
「ありがとう。かんしゃ、しています!」
「………………」
上手く笑えていただろうか。
表情筋も衰えたらしく、ぶっきら棒に映ってしまったらどうしよう。
私は自分の不出来に至らなさを感じ、不安を抱いた。しかしクリスさんは、しばしの沈黙の後にこう口にするのだ。
「素敵な笑顔を守れて、幸いです」
「……え?」
「それでは、失礼いたします」
「…………」
私は思わぬ言葉に、ついつい呆けてしまう。
颯爽と立ち去る彼の背中を目で追って、首を傾げてしまった。すると、そんな私たちの様子を見て笑ったのはリアだ。
彼女は私の前に回り込むと、こう言う。
「本当に、彼は昔からずっと口下手なんですよ」
「くちべた……?」
「はい、そうです」
それを聞いた私がまた首を傾げると、リアはこう教えてくれた。
「私と彼は王都立学園の同期生だったんですけど、彼ったら根は優しいのに無愛想で。いまだって、きっと誰よりもアリシア様の回復を喜んでいるのに、素直に言えないんです」
「そうなの……?」
「えぇ、そうですよ!」
素直ではない、騎士。
私の中でクリスさんへの謎が、また深まってしまうのだった。
そもそも、彼はどうして私なんかを助けようと動いてくれたのか。
「うーん……?」
「あら、その様子だとお嬢様もかなり、ですね?」
「かなり、なに……?」
そんな私の考えを読んだように、リアは小さくいつものように口元を隠して笑った。かなり、なんだろうか。そう思っていると、彼女は私の頬を指でつついて言ったのだ。
「お嬢様も、かなりの『鈍感さん』ですね!」
「えー……?」
「まぁ、それでも今日はこのくらいにしておきましょうか」
「うー……」
表情で必死に訴えるも、その言葉の意味をはぐらかされてしまう。
いったい、私のどこが『鈍感さん』なのか。そのことについて疑問がとても大きくなってしまうが、リアはそれよりも面白そうな話を始めるのだ。
色々と納得はできない。
でも、今日のところはお喋りが楽しいので許してあげよう。
そう一人で考えて、私はリアの楽しげな話に耳を傾ける。
今日もいつものように、ゆっくりと時は流れていた。