どうやら、本当に10年が経過していたようです。
どうやら、本当に10年が経過していたようです。
私は眠り続けたことで全身の筋力が衰えて、それに伴い声を出すこともままならなくなった。それでも幸いだったのは、家族や従者のみんなが自分を見捨てずに動いてくれたから。
現状を理解するほどに、私はみんなへの感謝で涙が止まらなかった。
「あぁ、アリシア様。どうして泣いておられるのですか……?」
「リ、ア……?」
ベッドで半身を起こして、喜びの涙を流す。
そんな私を心配して声をかけてきたのは、一人の赤髪の給仕だった。私が目を覚ました時に、マッサージをしてくれた彼女の名前はリア。貧困街の出身だけど、縁あってこの家で子供の頃から働いている。自分にとっては、本当の妹のような存在だった。
少し大人びたような気もするが、それでも幼い顔立ちは変わらない。
そんな彼女を見ていると、また勝手に涙があふれてきた。
「泣かないでください。悲しいのですか? それとも――」
「……ちが、う…………」
「大丈夫ですよ。ゆっくりで、構いませんから」
それを見たリアは、そっと背中を擦りながらそう言う。
あまりに優しいその言葉に、また嬉しくなる。それでもこれは、絶対に彼女に伝えたい。だから私は必死に涙を堪えて、ゆっくり、焦らずに言葉を紡ぐのだ。
「リ、ア……?」
「はい。なんですか?」
「あり、がと……」
「…………!」
すると、リアは先ほどまでの優しくも冷静な表情を崩す。
驚きに目を見開いた後に、唇を震わせて。一気に感情が決壊したかのような、私のそれよりもたくさんの涙を瞳に浮かべるのだ。
そしてついに、感情を抑えきれなくなったのだろう。
子供の頃のように、私のよく知る彼女のように、抱きついて泣きじゃくり始めた。
「はい……! ううん、うん! ありがとう、アリシア様……!」
そんな大切な義妹の背中に、そっと手を乗せる。
まだ、身体を動かすのは痛かった。それでも、いまは良い。
今はとにかく、こうやってリアとの時間を過ごしたい。彼女にとっては10年前のあの日、突然に奪われた日常、その空白を埋めるようにして。
そのためなら、苦痛なんてどれだけあっても構わなかった。
「あぁ、懐かしい。貴方たちは、本当に姉妹のようですね……」
「あ、奥様……! 申し訳ございません!!」
「構いませんよ、リアさん」
そう思って時を過ごしていると、いつの間にか部屋にはお母様の姿。
母は私たちの様子を微笑みながら見守って、心の底から嬉しそうだった。リアは慌てて私から離れて姿勢を正すが、すぐにお母様がそう続ける。
リアは母の言葉を受けて、少しこそばゆいのか頬を掻いていた。
あぁ、本当に温かい。
私はいま、とても幸せだ。
「ところで、今日はアリシアにお客様がいるのですよ」
「……え……?」
そう感じ入っていると、お母様はふとそう口にする。
そして、部屋のドアの前に立つ給仕たちに目配せをして客人を招き入れた。そうして現れた人はお父様と、数名の騎士を引き連れている。
やはり10年の月日があったから、外見は少し変わっていた。
それでも、そのお客様の威厳が損なわれることはない。
「あぁ、久しいな。……アリシアさん」
その老齢の男性――国王陛下は、心の底から安堵したように口にした。
数名の護衛の兵士に控えるよう指示を出した彼は、私のベッドの傍までやってくる。そして、あろうことか膝をついてこう言うのだった。
「我が愚息の失態、心よりお詫びしたい」
国王陛下の表情は、とても苦しそうで。
だから私は、しばし言葉に窮することしかできなかった。