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どうやら、ライネル様は色々な国を見てきたようです。

今日はここまで。明日も、頑張ります!









 どうやら、ライネル様は色々な国を見てきたようです。




「さすが、ライネル様ですね。自らの足で見聞を広める姿勢は、私も見習いたいと思います」

「いやいや、アリシア。キミのような思慮深さも、俺には必要さ」





 私のもとを訪れたライネル様は、朗らかな笑みを浮かべながら言った。

 長旅の影響もあってか、あるいはこの10年でそうしたのか。以前にもまして、髭が多く蓄えられていた。精悍な顔立ちに、優しげな金の眼差し。昔から年不相応の威厳を秘めた方だったが、月日を重ねて円熟味を増しているように感じられた。

 そんな彼は、私への土産話として様々な話をしてくれる。

 それに加えて各国の文化についての書物など、興味深いものまで持ってきてくれた。私はそれを受け取って、心の底から感謝し頭を垂れる。




「本当に、ありがとうございます」

「あぁ、やめてくれ。これは、愚弟の失態への詫びも兼ねているんだ。俺からできるのは、キミがしっかりと学ぶ環境を整えることだと思っている」

「ふふふ。生真面目なところは、本当に相変わらずですね?」

「あー、その言い方も懐かしいよ。俺はそんなつもり、微塵もないんだがな」




 そして、言葉を交わして互いに笑った。

 ライネル様はやはり、10年経ってもライネル様だ。

 国民のためを思っていて、かつ行動力もある。私にはできないことばかりだから、本当に尊敬できる相手だった。




「ところで、今回はどのような国に?」

「あぁ、それなんだが。少しばかり変わった場所だったよ」




 そう思いながら訊ねると、彼はこんな話をしてくれる。




「短い滞在だったから、詳しくは知らないのだが。どうにも国民の病や怪我を治すための資金、それを国が負担しているところがあってね」

「国が、負担ですか……?」

「あぁ、そうさ。ただ問題としては、どうやっても財政難に突き当たるところだ」

「それは当然です。国民全員の治療費なんて、とても払い切れるものではない」




 私の驚きに対して、ライネル様はやはり同じ意見を持ったようだった。

 たしかに、国が民の病気に対して治療費を支給できれば、それは福祉の新しい一歩になるに違いない。だけど、問題は財源をどうするか、ということだ。

 私たちの国も裕福ではないわけではなかった。

 しかし、国庫にあるお金も無尽蔵というわけにはいかない。



「その国も、同じ悩みに直面していたよ」

「ふむ……」



 だから、これはあくまで理想の話だろう。

 ライネル様がそう付け足し、私はその点について同意した。



「それでも、もし……」

「アリシアなら、答えを導けるのではないかな?」

「……もう! そんな簡単に言わないでください!」

「あっはっは! ごめんよ、意地悪のつもりはないんだ」



 茶化してくる彼に、私が小さく怒る。

 すると、ライネル様は頃合いと見たらしく、おもむろに立ち上がった。




「それじゃ、俺はまだ行くところがあるからね。お暇するよ」

「えぇ、またいつでも」




 そして、軽くそう挨拶をすると部屋を出て行く。

 私は彼の大きな背中を見送って、すぐにあることを考えた。





「国が、国民の医療を負担……どうやって?」





 ……なんだろう。

 彼の挑発に乗るわけではないが、答えが出そうな気もする。




「うーん、でも今はこっちかな……?」





 しかし、今日のところは預かった書物に目を通すと決めた。






 その日一日は、本当に有意義に過ごせた気がする。

 私は改めて、心の中でライネル様にお礼を言うのだった。





 


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