どうやら、毒を盛られたみたいです。
数話完結予定です!
……突然ですが、毒を盛られたみたいです。
事の発端はたしか、第二王子のミハエル様から婚約破棄を言い渡されたこと。私からしたら寝耳に水の濡れ衣を押し付けられ、一方的にそう宣言された。全然よくはないけれど、一歩譲ってそこまでは良しとしましょう。
ただ問題はそれから一週間後の今日、この時。
私は親友であり、相談によく乗ってくれていたアーニャと紅茶を飲んでいた。
「それで、ミハエル様はなんと仰ったと思います――か……?」
最初は問題なく。
ただ、数口飲んだところから意識が遠くなって……。
「お休みなさい、哀れなアリシア」
最後に見たのは、アーニャの意地悪い笑顔。
それを認めて私は確信した。
あー、これは毒を盛られましたね、と。
◆
「ん、んぅ……?」
そんな出来事が『さっき』のこと。
どうやら、私は深い眠りについていたようだった。いつの間にやらベッドに寝かされていて、全身が痛くてたまらない。どれくらいの時間眠っていたのか、それを確かめるには外の様子を見るしかないだろう。
そう思って身を起こそうにも、身体が思ったように動いてくれない。
だから、辛うじて動く首だけを動かして、窓の外を見た。
「あぁ、もう……よ、る……?」
たしかアーニャに何か、毒らしきものを盛られたのが昼頃。
だとしたら、数時間は確実に眠っていたことになる。だけど、たかが数時間の睡眠でこのように全身が動かせないほど固まるだろうか。
あるいは彼女に盛られた毒の効果、なのかもしれない。
そう考えていると、どこか見覚えのある従者の女性が部屋に入ってきた。
「お加減どうですか、アリシアお嬢様?」
その女性は手慣れた様子で私の腕をマッサージしながら、そう口にする。
それはとても心地よくて。だから、感謝を伝えようと思った。
喉はうまく動いてくれない、それでも声を絞り出す。
「と、ても……いい、わ……」
「…………え?」
すると、途端に従者の女性の様子が変わった。
視線を向けると、そこには信じられないものを見るような顔があって。歓喜に満ちていく、その口元を手で隠しながら涙を湛えていた。
そして、居ても立っても居られないという感じに部屋を飛び出していく。
いったいどうしたのだろう……?
私は呆気に取られながら、彼女が戻ってくるのを待つのだった。
◆
「あぁ、アリシア……! 私が分かるか?」
「アリシア! あぁ、本当に目が覚めたのね……!」
「とう、さま……? かあさ、ま?」
…………だれぇ?
第一印象は、正直なところそれだった。
私の手を握り締めて涙を流す男性に、その奥様らしい女性。苦労が多かったのだろう、顔にはその数だけの皺が刻まれているように感じられた。そして、その皺を除いてイメージとして浮かんだのが両親だった、という答え合わせ。
そして、それはどうやら正解だったらしい。
「あぁ! 女神よ、今ほど貴女に感謝したことはありません!!」
「あなた、わたくしにもアリシアと話をさせて……!?」
こちらの言葉に、お父様とお母様は驚くほどに喜んでくれた。
父はいつものように女神様に感謝しているし、母はそんな彼を押し退けて私の手に頬ずりをしている。その温もりには、とても覚えがあった。
私はこの人たちの優しさに包まれて、ずっと……。
「10年、本当に長いお休みでございましたね、お嬢様……!」
……と、そう考えていた時だった。
「(え、10年ってどういうこと……?)」
従者らしい女性の言葉で、私はハッとする。
もしかして、私はあの日からずっと……?
「あぁ、そうだ。いまが王歴何年か分かるかい?」
そう考えていると、お父様がこちらの反応に気付いたらしい。
そして、私の考える『もしもの可能性』に答えを出した。
「……いまは王歴982年。アリシア、お前は10年間眠り続けていたのだよ」
それを聞いて、愕然とする。
私はアーニャに毒を盛られた16歳のある日から、今の今まで眠っていた。そしていま、26歳のこの時に突然、目を覚ましたのだ。
「(……うそ、でしょ?)」
あまりに突飛な話に、私は内心でそう苦笑いをするしかできなかった。
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