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一つ、重大な問題に気付いてしまった。
そう。
アクセル様の突然の病弱設定を回避するために、ヒロインとダミアンをできるだけ接触させない作戦!
それが無理だということに……。
だって、ダミアンも生徒会役員なんだよ~。
生徒会のメンバーは攻略キャラ全員とヒロインの六人。
ヒロインは紅一点、逆ハーだよ。
まあ、それが乙女ゲームと言われればそうだけどさ。
「今はアクセルがいないのに、やけにおとなしいね? 何か悩み事? 僕には相談できない?」
悩みの種はお前だよ!
じゃあ、「あなたがアクセル様を陥れようと画策していることが悩みです」とでも相談すればいいの?
きっと「そうか。じゃあ、解決してあげる」とか言って、あっさり殺されそうで相談できるわけがない。
って、ちょっと待って。
今、ダミアンは「アクセル(様)がいないのに」と言いませんでしたか?
私の首は油をさしていないブリキのようにギギギって音がしたんじゃないかってくらいぎこちなく動いて、ダミアンを見上げた。
ダミアンはとっても楽しそうに笑ってる。
この笑顔、見たことがあるよ。
確か、アクセル様ルートに入ったときに、悪巧みをしていたときの笑顔だ!
初めて見たときはよくわからない笑顔だったけど、エンディング間近になってダミアンの悪事が次々と曝かれていったときにようやく理解したやつ!
「あ、あの……」
「セリーヌのおもしろエピソードはよくエルマンから聞いて笑わせてもらったよ。それなのに、僕たちを前にすると聞いていた話と全然違うから不思議だったんだ。だけど、その理由もすぐにわかったよ」
おーのーれー!
エルマン、お前もか!
まさかの裏切りに私のピンチ。
いや、もう手遅れか。
どうしてこう、身内って容赦なく恥を曝してくれるかな。
そうだよね。エルマンもアクセル様と同じ八回生だし、仲良く一緒にご飯食べてたもんね。
ということは、大好きだったアクセル様たちのあの楽しそうな光景は、私のことを笑っていたってこと?
ノオォォォ!
「でも今はエルマンの言ってたことがよくわかるよ。セリーヌの顔芸が面白すぎて」
「か、顔芸!?」
「あと、挙動不審すぎて面白いよね。あ、それはアクセルがいるときといないときで方向性が違うのも面白いと思うよ。ただ僕の婚約者としては、顔芸よりも腹芸ができるようにならないと」
「だ……」
「だ?」
「だから、リアル『おもしれー女』はいらんのですよ!」
「リアル?」
「もう、やだ! 私のHPはすでにゼロですよ!」
恥ずかしくて死ねる。
今すぐ家に帰ってお布団かぶって叫びたい。
そう考えるより先に、足は動き出していたみたい。
気がつけば廊下を走っていて、驚く生徒たちの顔が横目に見える。
しかも私の心を表したかのように、窓の外では雨がざあっと降り出した。
しかも雷まで鳴り始めてる。
「――ダミアンの馬鹿バカばーか!」
お昼にはほとんど人がいなくなる専門科棟に走り込んで、普段から人気のない非常階段への扉前まできて叫んだ。
走ったせいで息苦しさはあるけど、ちょっとすっきり。
ここのところ、ずっとため込んでたのがダメだったみたい。
「で、他には?」
「…………はい?」
「他に言いたいことはないのかな? 全部吐き出してしまえば楽になれるよ?」
おそるおそる振り向けば、強烈な稲光を背後にダミアンが立ってた。
その後に大きな雷鳴。
あ、これ、死んだ。
そうですよね。死んでしまえば楽になれますよね。
自らこんな人気のない場所にやってきた私こそが馬鹿でした。はい。
「ど、どうしてここに……?」
「普通にセリーヌを追って来たからだけど?」
「なぜそんなことを……」
「一緒に昼食に向かっていた婚約者が、急に意味がわからないことを叫んで走り出したら、心配で追うでしょ?」
「あ、ああ!」
なるほど。
って、納得してる場合じゃない。
というか、ここに来る前に私はすでに「意味がわからない」ことを叫んでいたってことで。
社会的に死んだのは私でした。
この後、本当に死んじゃうのかな?
でもまだ「馬鹿」としか言ってないし、悪事を企んでいるのを知っているのがばれたわけじゃないよね?
祈る気持ちでダミアンを見たら、あの得体の知れない笑顔でゆっくり近づいてきた。
あ、やっぱりこれ、殺られるやつだ。
どうかなるべく痛くありませんように!
そう考えながら目を閉じると、ふっと温かい息が頬にかかって、それから唇に柔らかいものが触れた。
ん?
思わず目を開けたら、超超超至近距離にダミアンの整った顔。
そして目と目が合ってしまった。
って、私……キスされてるー!?