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世の中そんなに甘くはない。
わかってた。
ダミアンが一人で迎えにきたときからわかってたけど、一応訊かずにはいられない。
「あの、今日はアクセル様とご一緒でなくてよろしいのですか?」
「ああ、別に約束しているわけじゃないからね」
「そうですか……」
私はアクセル様が好きだけれど、ダミアンと楽しそうに話している姿が特に大好きだったんだよね。
お一人でいらっしゃるときのアクセル様はどこか寂しそうで、近寄りがたくて、何もできない自分がもどかしかった。
それを……そんなアクセル様をあっさり捨ててしまえるダミアンが憎い!
あんなに仲良さそうにしてたのに……どうして裏切ってしまうことができたの?
「そんなに熱烈に見つめられると、照れるな」
いや、見つめてないし。
睨んでたんですけど。
「……なぜ私なんですか?」
「何が?」
「ダミアン様の婚約者になぜ私が選ばれたのかがわからないんです」
「そう? すごく単純なことだと思うけど」
「え……?」
トゥンク。ってる場合じゃない。
私のお父様は宰相として頑張ってるもんね。
要するに、攻略対象である侯爵子息のエルマンは宰相の息子っていうよくあるパターン。
とにかく、選択肢のなかった私と違って、ダミアンは私との婚約に拒否権があったはず。
むしろダミアン側から選んだ可能性大。
ということは、宰相を味方につけるため?
実は今からアクセル様の将来的な王位を奪うつもりとか?
「これが政略なのはわかっております。ですが、他にも条件に当てはまる方はたくさんおりますでしょう?」
「セリーヌはこの婚約が嫌なの?」
イエス!
と言いたいのをぐっと我慢。
結局、私の質問には答えてくれていないじゃない。
仕方ない。
質問を変えてみよう。
「……もし、ダミアン様がお慕いされている方が、他の男性に想いを寄せていらしたらどうされますか?」
「そんなの、その男を殺してしまうんじゃないかな?」
怖い、怖い、怖い。
マジもんだこれ。
冗談のように言ってるけど、目が笑ってないもん。
はっ! まさか……。
あの突然のアクセル様病弱設定は、ダミアンが毒を盛ったとか?
あり得るー!
「え、ええっと……。そんなことをなされても、その女性の心は手に入れられないのではないですか?」
「でも、体は手に入れられるよね? 監禁してしまえばいいんだから」
ぎゃー!
無理、無理、無理!
これ、私の手に負える問題じゃない!
まさかのヤンデレ……というより、サイコパス?
「重いかな?」
罪がな!
しかも何なの、そのちょっと照れた顔。
可愛いとか思ってしまったよ、こんちくしょう。
イケメン無罪というけれど、絶対に有罪にしてみせる!
そうだ。
誅殺することはできなくても、社会的に殺すことはできるんじゃない?
あるに決まってるダミアンの罪の証拠をいっぱい掴んで、それを告発すればいいんだよ。
そして一生幽閉!
ヒロインじゃなくて、ダミアンが監禁されればいいんだ。
でも一人では不安だし、いっそのことお兄様に協力してもらう?
いや、待て。ダメだ。
それはエルマンルートのヒロインポジを取ってしまうことになる。
そんなことは望んでいない。
しかもヒロインとお兄様が親しくなるチャンスを潰してしまったら、私とアクセル様とのわずかばかりのチャンスまで潰してしまうことになってしまう。
ええっと。
この世界が『王子♡』と非なるものでも、似ているとなると、ダミアンの悪事が露呈する――要するにエンディングを迎えるのはアクセル様が卒業されるまでの一年弱。
となると、すでにダミアンはいろいろと悪事に手を染めているはず。
ここは婚約者という立場を使って、証拠を掴まなければ!
アクセル様にこの世界で末永くお幸せに存在していただくために、頑張りますとも!