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というわけで、やってきました学校です。
乙女ゲームにはありがちな、貴族社会でも男女共学ですよ。
十三歳から十八歳まで通って、普通に勉強するのです。
もちろん魔法の授業なんてなくて、ただの勉強。
だから、よくある「秘められた魔力がすごくて一般人のヒロインが転入」なんてことはなかった。
確か、四回生(十六歳ね)になって、成績優秀者だったヒロインが生徒会に入るところから始まるのよ。
生徒会もよくあるよね。
そこでアクセル様と仲良くなって……ってことは、もうすぐ新生徒会が発足するから、ヒロインもわかるはず。
顔は前髪で隠れてたし、名前もデフォルト名はなかったから……待てよ。
ひょっとしてヒロインが私って可能性もワンチャン?
いや、それはないわ。
マジでない。
だって、ダミアンと婚約してるんだもん。
そもそも、なぜ私がダミアンと婚約する羽目になったのか。
それは本来、学校に通いながら結婚相手を見つけられるといいね、ってシステムなのに(もちろん政略もあるよ)、アクセル様が婚約者を亡くされてしまってから、みんな遠慮しちゃってるんだよ。
このままではいかん! ということで、王弟殿下が先陣を切って婚約することになったんだって。
それで相手に選ばれたのが私。
これでみんなも婚約者を決めていくだろうって。
いや、それ、アクセル様じゃダメだったの?
アクセル様なら大歓迎だったのに。
でもたぶん、アクセル様はまだカリナ様のことが忘れられないんだよね。
傷心のアクセル様を癒すのがヒロインなんだから。
くそっ!
それにもし、ヒロインがアクセル様を選ばなかったらどうなるの?
見る目なさすぎだから、その目をくり抜けばいいの?
ルート確定したら、他の攻略対象は(ダミアン除く)ヒロインの幸せを祝ってくれるんだけど、そのあと別の女性と幸せになったなんて設定あるわけないもんね。
やっぱり理想はヒロインがアクセル様以外と引っ付いて、ダミアンの悪事を曝いてくれること。
私はダミアンとはあくまでも無関係ということで、お咎めなし。
むしろ婚約者が謀反人でショックを受け、アクセル様に慰められて結ばれるエンドがよくない?
よし!
ダミアンとはなるべく接触しないようにしよう。
婚約者といっても、所詮は政略。
私に内緒にしていたお父様には、怒ってるんだからね。
「――おはよう、セリーヌ。朝から難しい顔をして、どうしたんだ?」
「っぎゃ! ダミアン…様……。お久しぶりです」
「うん。二日ぶりだね」
そうだった。
一昨日のパーティーで会ったばかりだった。しかも婚約発表とか。
抹消したい記憶ナンバーワンだから。
いや、記憶というか記録を消してしまってなかったことにならないかな。
にしても、何で話しかけてくるかな。
今までほとんど話したことなかったのに、婚約したからって馴れ馴れしすぎない?
そもそも六回生のダミアンがどうして四回生のフロアにいるかな。
どうせならアクセル様も連れてきてほしかった。
教室に入る手前だったので、他の生徒の邪魔にならないように廊下の隅へと移動する。
というか、移動させられた。
そんなエスコートみたいにさりげなく背中に手を回されても、キュンとしたりしないんだからね。
ある意味、セクハラだよ。
それにダミアンはにこにこしてても、本心は何を考えているのやら。
「それで……何かご用でしょうか?」
「特に用事があったわけじゃないけど、愛しの婚約者殿の顔を見たくてね」
ぎゃー。無理。なんでそんな嘘を?
心の中で悲鳴を上げていたら、周囲からは別の悲鳴が聞こえてきた。
黄色い声というべきか。
そういえば、ダミアンは女生徒の人気も高かったな。
この世界は身分に関係なく、みんなわりとフランクなんだけど、さすがに王族の方々には遠慮してるんだよね。
だからアクセル様にも気軽にお近づきできないっていうか。
同じ生徒会役員っていう立場でヒロインは接することができたから、親しくなることもできたわけで……。
羨ましい。
「――では、特にご用事がないのなら、これで失礼いたします」
「また昼休みにくるよ。昼食を一緒にとろう」
「いっ……わかりました」
反射で「嫌です」と答えそうになったけど、堪えた私えらい。
それにひょっとしてひょっとすると、アクセル様もご一緒かもしれないもの。
今までお二人がご一緒に食事されているところは何度も見たからね。
一瞬でそこまで考えた私えらい。
まあ、アクセル様がいらっしゃったら緊張で食べられないだろうけど、ご飯の一回や二回抜いてもいい。
だって逆に考えたら、アクセル様がお食事をされているお姿を間近で拝見できるってこと。
ああ、お昼休みが一気に楽しみに思えてきた!