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アクセル様をお守りするために、一番手っ取り早いのはダミアンを誅殺すること。
でもそれはさすがに、人の道にもとるというか……無理です。
ごめんなさい、アクセル様。
きっとアクセル様もそれはお望みではないですよね?
とにかく、アクセル様の御身の安全が第一。
要するにダミアンルートは絶対に潰さなければいけないってこと。
ヒロインもさすがに婚約者のいる相手とどうにかなろうなんて思わないわよね。
私なら無理だし。まあ、ダミアン自体が無理なんだけど。
でもやっぱり「蓼食う虫も好き好き」とはよく言ったもので、あの闇を抱えた雰囲気が好きとかって意外と人気キャラだったのよね。
それに関してはわからないでもないのよ。
私も闇堕ちとか大好物だし。
ただ絶対的圧倒的アクセル様愛が強すぎて、ダミアンは敵なのよね。
それにしても、なぜ私がダミアンの婚約者なの?
せめて普通にモブでいいじゃない。
攻略対象にすでに相手がいるとかあり得ないのに。
乙女ゲームに出てくる女キャラって、たいていはヒロインの友人ポジくらいじゃない?
やたらと攻略対象の生い立ちなんかに詳しくて、さらには好感度まで教えてくれるエスパーみたいな子。
その子だったら、ヒロインをアクセル様以外のルートに誘導して、アクセル様をかっ攫うのに。
ああ、残念。
っと、それは置いておいて。
今後、ダミアンがヒロインのことを好きにならないようにするのが絶対条件。
よし、これからは徹底的にダミアンがヒロインと接触しないようにしよう。
そうすれば、好きになることはないはず。
「って、ヒロインは誰なのー!?」
おっと、しまった。
思わず叫んじゃったから、クレールが急いでこっちに来てる足音が聞こえる。
クレールは二年ほど前に私専属の侍女になったんだけど、口うるさいのよ。
普通、侍女ってお嬢様に対してもっと遠慮があると思うんだけど。
色々と適当なところは乙女ゲーム世界のせいかな。
いや、そう決めちゃうのはこの世界の人たちに悪い。
パラレルワールドってわけじゃないけど、単に『王子♡』の世界観に似ただけの……というには、アクセル様とその他の存在が酷似しすぎてるんだよね。
「セリーヌ様、いかがなされましたか?」
「あー、ちょっとお茶が飲みたいなあって思ったの。冷たいやつ」
「……セリーヌ様、私どもを呼ぶ際にはベルを鳴らしてくださいと何度も申しておりますが?」
「細かいことは気にしないでよ。ね、クレール」
「細かいことではございません。淑女として大きな声をお出しになるなんてありえません」
「はいはい。気をつけまーす」
「はい、は一回。語尾は伸ばさない」
「……はい」
絶対おかしいわよ。
クレールは先生か何かなの? 侍女でしょう?
そもそも、この世界が私の常識と違いすぎるのよね。
ゲームだからって細かいことは気にしてなかったけど、魔法はないのに電気はある。水道もある。
なのに、ガスはなくて、車も電車もない。
移動は徒歩か馬車か直接馬に乗る。たまにロバもあり。
剣や弓矢で戦うことはあるようだけど、銃もミサイルもない。
電話もない。
オラ、こんな世界いやだ~ってならないのは私が侯爵令嬢だから。
会社行かなくていいとか!
ご飯作らなくていいとか!
掃除もしなくていいとか!
ここは天国かな?
うん。洒落にならないな。
とにかく、私が出張ってるのに、誰も疑問に思わないのは、元々セリーヌが変わったお嬢様だったからみたい。
でもちゃんと私はセリーヌとしての記憶もあって、上手いこと融合した感じなんだよね。
それはまあ、ラッキーなんだけど。
この世界のことに話を戻して、私はいったい何者なのかが知りたい。
乙女ゲーム世界に転生とかにしても、公式ファンブックには攻略対象エルマンに妹がいるなんて書いてなかった。
家族構成はみんな書かれていたのに。
もちろん、婚約者なんているわけない。
うーん……よし、わかった!
考えても無駄だ!
この世界が何だろうと、私がやることはやっぱり一つ。
アクセル様をお守りすること。
セリーヌもアクセル様のことが密かに好きだったみたいだし、間違いない!
誅殺は無理だけど、どうにかしてダミアンの悪巧みを阻止しないとね。