3.
「いや、あんた何してんの?」
「何って…」
学園が終わり、幼なじみのマーリンに最近昼に何処に行っているのだと問い詰められたリーリアはあれよあれよという間に洗いざらい正直に話していた結果がこれである。
流石、情報屋マーリン!話を聞き出すのが上手ね!!
…決して、私がチョロいって訳じゃないよ、ね?
「すっかり餌付けされちゃってもー!心配して損したわよ!まぁ…リーリアだしチョロいのは仕方ないか」
「心配してくれてたの?…って、それどういう事よ!」
「事実じゃない」
「そんな事ないもん!」
「これお食べ」
「わーい!」
マーリンのお父さんが作るアップルパイ!!
すごい美味しいんだよねぇ!!
もぐもぐと頬張るリーリアの姿に心底呆れたように溜息をついたマーリンは気を取り直し、1つ咳払いをした。
「あのね!よく聞いて!!
あの学園内は貴賎問わず平等に!なんて言われてるけど平民が貴族に絡まれたら逆らえるわけないんだからね!
あんたのその能力は貴族や王族だけじゃない。裏稼業の人達にとっても利用価値の高いものなのよ?あんたの場合は特に、物心ついた時からなーんにも考えなくとも詠唱も無しで一目見ただけでポンポン姿を変えられるんだから!
そんなもの使い方次第で影武者にも諜報でも、なんなら暗殺なんかも容易い力なのよ?!
…まぁ、実際アンタから情報貰ってるあたしが言えた事じゃないけど」
最後モゴモゴと自信のなさそうに話すマーリンにはすっかりアップルパイに心奪われているリーリアの姿は目に入っていない。
因みに、マーリンによるお説教は今回が初めてではない。
昔から、親よりも何度も何度もそれこそ耳にタコができるほど言い聞かせられてきた。
リーリアも成長するにつれ己の能力の危険性などは理解しているつもりだし、それこそ友達の動物たちに人間の恐ろしさを身をもって教わってきたリーリアは普通の人よりも実は警戒心は強い。
だとしても、別にバレなければいいと思っているリーリアは心配してくれているマーリンには悪いとは思うが右から左に聞き流し、目の前のアップルパイに集中する事の方が大事だった。
もぐもぐ…
「もし、アタシやあんたの家族以外の人間にバレてみなさい?すぐに誘拐されてそーゆー後ろ暗いことに無理矢理利用尽くされるのが関の山よ。
ま、あんたの場合は単に動物達とイチャつくためだったり、人から餌付けされたりってのが目的なんだろうけど」
ごくんっ
「まぁ…確かにまだ15の女の子が周りから変態なんて不名誉な呼び方されるのは嫌でしょうけど、まだそう呼ばれるうちは可愛いものってことよ。いい?リーリア、これは全然冗談でもなんでもないからね。
そろそろそういう問題にも気付いて考えて行動しなさいね!…って聞いてるでしょうね?怒るわよ?!」
「も、勿論聞いてるよぅ!マーリンがいつも私の事心配してくれてるって事はよく理解してるよ!ありがとうね!」
「べ、別にアンタの事心配してるわけじゃないわよ…あ、アンタに何かあったら私が困るだけだし!」
「うんうん」
「アンタの両親には世話になってるし、だからそのなんて言うか…心配じゃないわよ!ただ注意してあげてるだけよ!」
「うん、マーリンは優しいね!そういうツンデレな所、可愛くて大好きだよ!」
「誰がツンデレよ!!」
アップルパイを間食したリーリアはプンスコ怒っているマーリンの姿に思わずクスクスと笑ってしまった。
お陰でマーリンにはペシリと頭を叩かれたけれど、それも本気ではなくマーリンなりの照れである事を知っているので全く痛くないし、そもそも顔が赤いマーリンはただ只管に可愛いだけであった。
あまり笑っていると本当に拗ねて怒ってしまうのでコホンと態とらしく咳払いをして話題を変えることにした。
「マーリン、あの…相談があるんだけどいいかな?」
正直このことを相談するのはとても緊張する…。
ドキドキする胸を押さえて真剣な表情でマーリンに視線を向けた。
「なによ、急に…」
いつになく真剣な表情のリーリアに既に何か不味いことでもあったのかと内心焦るマーリンを前に『実は…』と言い、何故か指先をモジモジと弄りながら相談内容を打ち明けられたリーリアの言葉に思わず溜め息が盛れたマーリンである。
「あの、あのね!私お昼にお菓子もらってる話したでしょ?それでね、その、あの人にお菓子のお礼したいなーって…ほら!なんか最近ずっと貰っちゃってるし!そろそろなんか申し訳ないというか、でも貴族の人だから何渡せばいいのかそもそも猫の姿で渡せるものってなると何があるかなって…マーリン聞いてる?」
「はあぁぁぁぁぁぁ…あんたね!ほんと、んもー!!
チョロいんだから、本当に気を付けなさいよね!」
「チョロくないよー!!」
「そういう所がチョロいって言ってるのよ!!あとね、言い忘れてたけど!あんた偶に魔法解き忘れて尻尾出しっぱなしだったり猫の瞳のままだったりするんだからそういうところも気を付けてなさいね!!」
「しっぽ?」
「そうそれ…って実際に出さなくていいわよ」
マーリンの声に反応してゆらりと黒い猫の尻尾を出して見せれば真顔で否定されてしまった。
しかし、今迄特にバレたことはなく気にしたこともなかったから気付かなかったなぁなんて呑気に考えているリーリアを尻目にマーリンはボソッと何か呟いていたがリーリアの耳に届くことは無かった。
「…まぁ、野良猫並に警戒心強いから気の知れた人以外の前では絶対そんなヘマしないのは知ってるけどね」
「ん?」
「何でもないわよ」
やれやれ、と首を振るマーリンはなんだかんだ言って大事な幼馴染の相談にのってあげるのだった。
しかし、マーリンは知らない。
そのヘマを近い未来、リーリアがやらかしてしまうということに。