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プロローグ





温かな風が吹く穏やかな日差しの中、そこには花畑を走り回る元気な女の子の姿があった。


「リーリア」


沢山の花に囲まれてご機嫌な少女…リーリアは愛らしい笑みを浮かべて、若い男のもとへと走り寄った。すっかり花に埋もれたリーリアを膝に抱き上げたのは彼女の父。


「可愛い可愛い僕の天使!君は大きくなったら何になりたい?僕は、昔は騎士に憧れて頑張ったものだよ…まぁ、僕には残念ながら剣の才能は疎か運動の才能もなかったわけだけど…」


「ふふっ、確かにあなた運動神経ゼロだものね」


「うぐっ、た、確かにそうだけど改めて言われると胸が痛い…」


「あらあら」


父の隣でのほほんと微笑むのはリーリアの母だ。

おっとりとした見た目に反しなかなか毒舌な母は、リーリアの頭を撫でながら慈愛の篭った瞳を向ける。


「そうねぇ、リーリアなら素敵なお嫁さんよね」


「そ、それは…パパ泣くぞ?」


「あらまぁ」


母の腕の中には生まれたばかりの小さな弟がスヤスヤと眠っていた。母の言葉の刃にまたもやグッサリと突き刺された父はリーリアを抱いたまま項垂れてしまった。

何だか可哀想な父の頭をよしよしと撫でて慰めてあげると今度はギューッと抱きしめくれた。

リーリアはそれが嬉しくて楽しくてまたキャッキャと声を上げてはしゃぐのだ。


「あのねー」


「うん、なんだい?」


「りーりあ、猫さんになるの」


その瞬間、微笑ましくリーリアを見つめていた両親はピシリッと石のように固まった。

その頭上には疑問符が大量に浮かんでいる。


両親は思った。


((…何故、猫??))


「…猫さん?」


「猫さんは…ちょっと無理かなぁ?ねぇ?」


「あぁ…猫さんはリーリアには無理かなぁ?」


可愛い娘の夢を否定するのは少し心苦しかったが…それは無理だと伝えるとリーリアは可愛らしくコテンと首を傾げた。


「えー?じゃあね、犬さん」


両親はまたもやピシッと思考が凍りつくのを感じた。


((何故、犬…))


「…犬さん」


「り、リーリア?猫さんも犬さんも私たちはなれないのよ?勿論鳥さんも無理よ」


「なんでー?」


「な、なんで?パパもリーリアも人だからね。他の生き物にはなれないんだよ」


いち早く復活した妻の言葉に続きの言葉を返す父は困惑気味に続ける。


そりゃそうだ。将来の夢を聞いたのに何故か娘は動物になりたいというのだから。しかし、当の本人(リーリア)はやはり首を傾げるだけで不思議そうな顔をするだけだった。


両親がなぜ無理だと言うのか全く理解していない。

あろうことかリーリアは真っ向から両親の言葉を否定した。


「なれるよー?」


両親は笑ってしまう。

それが出来たらリーリアは変態だと。


「うふふ、リーリア。猫さんは可愛いけどなれないのよー」


「うーむ、まぁそりゃ変身魔法でも覚えればできるかもだけど…あれはとっても難しいんだよ?

自分が変身する者の全てを理解してそれを真似なくてはいけないんだからね。そんなことできるのはよっぽどの天才か変態くらいじゃないかなぁ?」




―――変身魔法。


それは文字通り己を対象人物や動物へとその身を変化させる魔法のことである。

だがそれはとてつもなく難易度の高い魔法でもあった。

まず、呪文が複雑な上にとてつもなく長い。呆れるくらいに長い。

そして、対象人物の外見だけでなく身長、体重、骨格、髪質に匂いに至るまでその人物のことを知り尽くた上で対象人物に成りきらなければ変身できない。


正直、そこまでやるのは変態臭い。というか変態だろ。

という認識がこの世界の一般であるため…


つまり、変身魔法=変態の技として認知されているのだった。


だからか、この魔法が使えるのはストーカー気質の粘着質系ド変態かよっぽどの天才しか使えないと言われている。

まぁ、使えた時点で天才よりも変態のレッテルがはられる。だからだろう、この魔法が使える者はほぼいないと言っていい。と言うのも、この魔法を作った人物がそれこそ歴史に残るレベルの超ド級のド変態野郎だったこともあり魔法の凄さよりも其方の方が印象に残ってしまった為にそう言われている。


娘にそんなに変態…変身魔法なんて使って欲しくない。

それが両親の正直な思いであった。


「まぁ、使えた時点でそいつは変態って事だよな。あはは!」


「…猫さんなれるよー?」


「なれないんだよー」


「むー!見てて!」


リーリアは父の腕の中から飛び出すと少し距離を取る。


「見ててね!いくよー…えいっ!」


その瞬間、ポンっと音を立ててリーリアは姿を消した。


「り、リーリア?!!」


慌ててリーリアがいたところに駆け寄ると、そこには1匹の小さな子猫がいた。

ニーニーと可愛らしく鳴くその子はリーリアと同じ春の空のような澄んだ青い瞳に毛並みはリーリアと同じ美しい黒曜石のような黒毛の子猫。


「…リー、リア?」


呆然と呟くように声を零せばその子猫は元気よく返事をした。


二ー!


「「…」」


なんということだろう…。

まだ齢3歳にして娘は変身魔法を習得していた。

しかも長ったらしい呪文を全て無視して、一瞬で姿を変えたのだ!


そう…たった3歳で娘は変態のレッテルを貼られることになるのだ。


「…リーリア!まだ3歳なのにもう魔法が使えるなんてすごいじゃないか!うちの子は天才だな!」


「あらぁ、可愛い子猫ねぇ!すごいわぁリーリア!」




両親は考えることをやめた。






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