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お待たせしてしまい申し訳ございません。
二人の名前が出ます。
くるり、くるり、ターンをする度にホールの飾りが煌めいて目がちかちかする。視界の大部分を占領する美貌に意識を向けると、青い瞳がこちらに向いてやわらかく細められる。キラキラした光が増えたような気がして思わず私の目も細くなった。
「何か?」
「なぜ私を誘ったのです?」
彼――ルーファス・ベイツは、その怜悧な美貌で年頃の令嬢たちから人気を集めている。しかしながら彼はどの夜会でも身内以外の女性とダンスを踊ることがなく、数多のご令嬢がそんな彼のパートナーに選ばれることを夢見て夜会の度に熱い視線を送っていたのだが。
「貴方ほどの貴公子であれば選り取りみどりでしょう」
私のようなドレスや羽根のついた扇より騎士服で剣を佩いている方が似合う女ではなく可愛らしいご令嬢を選べばよかったのに。
「貴女ならダンスに誘われた程度で勘違いしたりしないと思いまして」
「ベイツ様に憧れているお嬢様は沢山いらっしゃるようですからね」
ルーファスは口の端を上げて笑う。
「そのようです」
切れ長の青い目の奥は全く笑っていなかった。
「だが一度踊っただけである事ないこと吹聴されてはたまらない」
されたことがあるのだろうか。この口ぶりではきっと過去にあったに違いない。
「それは......」
「同情は結構」
きっぱり言いきられて続く慰めの言葉を飲み込んだ。
互いに何も言わずただ儀礼的に顔に笑みを浮かべてステップを踏む。
くるり、大きく回る視界の端に萌葱色のドレスが翻ったのを思わず目で追ってしまった。
「貴女はこのまま脇役に甘んじているつもりですか」
「え?」
「婚約者を奪われた悲劇のヒロインにも、愛し合う二人を引き裂く悪女にもなれるでしょうに」
また彼らを見やった。幸せそうに微笑みあって踊っている。
「性に合いませんし、それに......」
「それに?」
「社交界で見せ物のようになるのは面倒でしょう?」
冗談めかして言うとルーファスはくつくつ笑った。
「違いない」
作られた微笑か無表情でいることが多い彼の珍しい表情に周囲がざわついている。ルーファスのファンらしきご令嬢たちの視線が突き刺さるようだし、他の招待客の皆様は邪推して好き勝手囀り始める。煩わしいことこの上ない。
曲が終わって礼をする時にじっとりとした目を彼に向けてしまったのも仕方がないだろう。
本人は全く気にしておらず、それどころか常より機嫌良さげである。
ホールの端までエスコートしてもらいそこで別れる。それで終わりだと思っていたのに。
「また踊ってくださいね、パトリシア嬢」
と言って手の甲に口付けなんて落として去っていったので、私はご令嬢やご夫人に質問攻めにされる羽目になるのだった。
ルーファス・ベイツ君とパトリシア・ケイン嬢です。
よろしくお願いします。
お待たせした上に短くてごめんなさい。
次も投稿できるように頑張ります。