メイとサチ
後日談はこれで終了です。
楽しんで頂けると良いのですが……
「ようやくです! ようやくこの時が訪れました!!」
ギルドの会議室。
伯爵令嬢でありAランク冒険者でもあるソフィアが、メンバーを見渡し声を荒らげる。
とある計画が発動されてから秘密裏に動いて来たケンヤを見守る会!
だが当のケンヤが世界中を飛び回り中々捕まらずにいたのだが、本日とうとうケンヤがピサロ入りしたとの報告を受けたのだ!!
思えばあの太陽が隠れたあの日からほぼ1年、この組織を揺るがす出来事が多々あった……
信頼していたマリンのまさかのルークスとの結婚! 協力員であったトオルの勇者パーティからの離脱! そしてそして……メンバーに一番の衝撃を与えたのが……アルファと言う美少女の台頭!!
ケンヤ達とピサロを訪れたアルファを見た際の衝撃は……今でも忘れる事が出来ない。
小さくて可愛らしい容姿も然る事乍ら、レベル1で戦士職の彼女をケンヤが鍛えるとギルドにパーティ登録しにきたのだ!
しかもしかも……私達のケンヤ様にピタリとくっつき離れようともしない! それをミコト様とサラちゃんは苦笑しながらも容認しているようなのだ!!
このままでは不味い、例えメイとサチを夫人に出来たとしても5番手6番手……下手をすれば更に順位が落ちてしまう。
ケンヤを王家から守るためにメンバー内から夫人を輩出するのだ! ミコト様が第1夫人、サラちゃんが第2夫人だとするならば第3、第4夫人の座はなんとしても死守せねばらならい!!
「メイさん、サチさん準備は出来ていますか?」
メイとサチはお互いの顔を見合わせ、何やら不安気にソフィアに尋ねる。
「あ、あの……ソフィア様……一応準備はしてきましたが……本当にこんな事で……」
メイはかなり不安……と言うか……本当にコレで大丈夫なの? とかなり恥ずかしそうにモジモジしている……
サチもサチで
「こんな事でケンヤ様が落ちるとは到底思えないのですが……ソフィア様、今からでも作戦変更しませんか?」
メイと同じ様にモジモジしている……
2人とも何時ものギルドの制服姿では無く、何やら黒いマントを羽織っていた。
「時間が無いのです! この期を逃すと今度何時またケンヤさんがピサロに訪れるかわかりません! 大丈夫です、オリブの宿にはちゃんと話しは付けてあります。情報によりますと、今晩はトオル君も勇者のメンバーも皆ケンヤさんとは別行動の様です! 誰にも邪魔はさせません!」
それでもまだ不安気な2人に向かいソフィアは優しく語り掛ける。
「本当はもっと別の方法でじっくり時間を掛けたかったのですが……ゴメンなさい……こんなに早くあんな伏兵が現れるなんて思っても見ませんでしたから……全て私の力不足が原因です……」
落ち込んで見せるソフィアにメイもサチもタジタジになる……
「そんな……ソフィア様のせいではありませんよ! 上手く行くか分かりませんが……せ、精一杯努力してみます!」
「…………私も……得意分野ではないのですが……頑張ってみます!」
少しはやる気になったメイとサチにメンバー一同から拍手が巻き起こる!
「メイさん、サチさん頑張って下さい!」
「お2人の努力次第でケンヤ様の今後が決まってしまうのです! 期待してます!」
「出来れば私が変わって差し上げたいのですが私では……メイさんサチさん! 私の分まで頑張って下さい!」
メンバー皆が2人を励ましている。
するとチラリと時計を見たソフィアが
「そろそろお時間の様ですね! ではお2人共参りましょうか。オリブの宿までは伯爵家の馬車にて送らせて頂きます。その後の事は我々はお力添えする事が出来ません! お2人に掛かっています。頑張って下さいませ!」
力なく頷くメイとサチ……
さて……2人にとって幸運となるのか悲劇となるのか……今は誰にも分からない……
ただ……ソフィアとメンバー達は確信していたのだ! 必ず上手く行くと!! ミコト様にしてもサラちゃんにしてもメンバーからすればまだまだ子供だ!
メイさんとサチさんの大人の魅力で!!
何故かメイとサチには分からないようにニヤつきながら見送るメンバーであった……
オリブの宿に到着するメイとサチ。
宿の扉を開くと……デンっとオリバとジータが腕組みをして立っていた。
どうやらメイとサチを待っていたようだ。
オリバは溜息を一つ付く。
「本当に来たのか……ソフィア様がいらっしゃって話しを聞いた時は驚いたが……まさか宿泊客全部を本当に領主邸に移してまで貸切にするとは……」
ジータも同じ様に溜息を付く……
「あんた達の様なお嬢さんが……あまり感心しないねえ……一応理由を聞いて納得はしたけどさあ、王家からケンヤちゃんを守る為だって? 他にやりようもあっただろうに……」
小さくなってしまうメイとサチ……
「まあもう客も移動させちまったし、オリブも今日はトオルの家に泊まらせる様にしておいた。流石に未成年の子供に見せる訳にはいかねえからな!」
益々小さくなってしまう……
「ケンヤちゃんは今部屋で着替えと汗拭いている所だからさ、あっ! 一応シルちゃんにも今晩の事はこっそり説明しておいたよ。ビックリしてたけど2人を応援するってさっ!」
大精霊の応援! メイとサチに少しだけ勇気が湧いてくる!
なんにしてもここまで来たらやるしかない!
2人の腹が決まる。
「ケンヤが降りて来る前にシルが知らせてくれる手筈になっている。俺は厨房で準備してるから……」
やれやれと言う風に厨房に戻るオリバ。
メイとサチも準備をと被っていたマントを外す。
その姿にジータは額に手を当て
「世も末だねえ……」
一言残しジータも厨房に消える……
メイとサチ、2人の間に気まずい空気が流れる中、シルが食事処に飛び込んで来た!
「もうすぐケンヤが降りて来る…………よ……」
2人の姿を見てシルが言葉に詰まる。
「そっか……あんた誰……そこまでしてケンヤの事を……その覚悟潔し! この大精霊のシルウェストレ! 本気であんた達に協力するよ! ビシッ」
などと言っているうちにケンヤが階段から降りて来る音がする。
急ぎ厨房に逃げ込むメイとサチ。
「おいシル、どうした?」
ケンヤが食事処に入る。
「べ、べっつに〜……」
ん?
まっいっかっ、とテーブルに付く。
「オリバさん、厨房ですか? 早速エール下さい!」
厨房に居るであろうオリバに声を掛ける。
ジータかオリブちゃんがエールを持って来てくれると思っていたケンヤは……
えっ? ええ!!!!!!!!
あまりの衝撃に言葉を失ってしまった……
エールを持ち現れたのはまさかのメイさん!
しかもその姿は……
…………どう見ても……バニーガールであった……
バニーガール姿のメイがさも恥ずかしそうにエールをテーブルに置くと、そのままケンヤの横に座る。
な、なんだ? メイさんに一体なにが……
驚くケンヤに更なる衝撃が走る!!
厨房から料理を運んで来たのはサチさん!
メイド服姿のサチさん……
しかも……
超ミニスカメイド服……
そのサチさんも料理を置くとケンヤの隣に座る。
右側にバニーガール姿のメイさん、左側に超ミニスカメイド服姿のサチさん……2人に挟まれ何が何やら頭がパニックになるケンヤ。
右に目をやるとバニーガール姿のメイさんの胸元が気になるし、左に目をやるとミニスカメイド服のメイさんの白い太ももが……
目のやり場に困り、正面を向いて固まったしまうケンヤである……
伯爵令嬢でありAランク冒険者のソフィアが考えに考えたその作戦は……
ただの"お色気作戦"だった……
ケンヤとて前世では49歳! それなりに経験はある。
だがこれは……
普段清楚な制服姿しか見た事の無いメイさんとサチさんのこの姿……
ぎ、ギャップがやばい!!
「あの……メイさん、サチさん……お2人共どうしてここに……それにその格好……一体何があったんですか?」
ケンヤに尋ねられ何も応えられず、少し涙目でケンヤを見つめる事しか出来ない……
だが……美人の2人がこんな色っぽい格好で、しかも目をうるうるさせながら自分を見つめている……
何らやらぐっと来てしまうケンヤ……
ある意味ソフィアの作戦は成功しているようだ……
何も言わないメイにエールを持たされる。
これは飲めって事か?
グビっと一口飲む……なんか緊張で味がしない……
えっ? さ、サチさん!!
サチさんが……フォークで刺した料理をケンヤの口元に持って来た!
こ、これは……言わゆる【アーン】ってやつ!?
涙目で食べろと訴えてくる……
仕方なくパクっと口にいれると、またメイさんがエールを飲めと訴えてくる……
グビっ、パクっ、グビっ、パクっ、グビっ、パクっ…………
………………無言で繰り返す……
な、なんのプレイだ!?
ケンヤは困惑しきり、メイとサチに口を開こうとすると……
バサっ!
メイとサチにマントが掛けられた。
後ろにはオリバさんとジータさんが立っている。
「ああ! もう見てらんないよ! あんた達、もうそんな事止めなさい! そんなんじゃケンヤちゃんも食事を楽しめやしないじゃないかい!!」
腰に手を当て呆れるジータ。
「素直にホントの事話したらどうだ? そんな事しなくても、ちゃんと誠心誠意話したらケンヤなら分かってくれると思うぞ?」
驚き後ろを振り向くメイとサチ。
なんだ? ホントの事? まあ何か思惑があってやってたんだとは思うが……
ケンヤは立ち上がるとメイとサチの正面の席にまわる。
「あの……サチさん、メイさん、正直俺面食らってます……ちゃんと話して貰えませんか? 俺で出来る事ならお手伝いしますから……」
真っ直ぐ2人の目を見て話すケンヤに、メイとサチは大粒の涙を流し頭を下げた。
「ケンヤ様……ゴメンなさい……実は……」
メイとサチは事の真相を話す。
今回のミコトとサラの婚約が王家の陰謀である事、なんとか王家の陰謀からケンヤを守りたかった事、せめて第3、第4夫人であれば、その後貴族や王族がケンヤの夫人候補に上がっても、ケンヤを守る事が出来ると判断した事、しかしこちらの動きより早く第3夫人になりそうなアルファが現れ、焦って今回の様な行動に出た事……
全て話してしまったメイとサチ……
だが某組織の事は話す訳には行かない!
絶対の秘密厳守なのだ!!
話しを聞きなんて言ったら良いのか言葉に詰まるケンヤ……
王家の陰謀!?
…………確かにそう捉えられても仕方ないか……
事実マーガレット嬢とマリアンヌ様の陰謀と言えなくも無い……なんかあの王様も絡んでそうだからな……
けど……俺を守る為? メイさんとサチさんが第3、第4夫人!?
なんでそこまで……
「あの……メイさんサチさん、とりあえず理由は分かりましたが……何故貴方達がそこまでして……メイさんとサチさんなら、わざわざ第3や第4夫人なんてならなくても、素敵な男性の第1夫人になれると思うんですが……」
ケンヤがメイとサチに尋ねると、ジータが大きな溜息をつく
「はーっ! ケンヤちゃん……あんたなんて鈍感なんだい! ここまでするって事は2人がそれだけケンヤちゃんの事が好きって事じゃないかい! なんで気付かないのさっ! 年頃のお嬢さんがここまでしてるんだよ?」
す、好き!? メイさんとサチさんが!?
俺の事を……すすす好き!?
思わずメイとサチを目を見開き見つめてしまう。
2人は真っ赤になり俯いてしまっている……
マジかよ……
「ケンヤ……俺も今回この話しを持ちかけられた時正直びっくりしたが……2人の気持ちは本物だと思うぞ! どっちに転ぶかはお前次第だから、結ばれようが結ばれないが俺は何も言え無い。だが、この2人に対して誠意ある対応をしてやって欲しい」
ふむ……誠意ある対応か、まだメイさんとサチさんが俺の事を好きって……信じられないのだが……
…………どこまでも鈍感なケンヤ……
ケンヤはメイとサチに目を向ける。
「メイさん、サチさん、お2人共ホント俺が好きなの?」
メイとサチは涙を流しながもしっかりとケンヤと目を合わせ頷いた。
…………暫しの沈黙。
ガタっと席を立つ。
メイとサチの前に来るとその場で膝を付く!
「メイさん、サチさん、お2人のお気持ち受け取りました! どうか俺の第3夫人、第4夫人になって下さい!」
そう言って右手を差し出すケンヤ!
自分からプロポーズをする。
ケンヤなりの誠意の表し方であった。
驚きその場で固まるメイとサチ!
ほ、本当に!? ケンヤ様が私達に膝を付きプロポーズを!?
手を差し出しているケンヤは優しく微笑んでいる。
メイとサチは立ち上がると……そっとケンヤの差し出す手を取った。
ケンヤとメイとサチの婚約が決まった瞬間である!
あまりの事に涙が止まらない2人を優しく抱きしめるケンヤ。
パチパチパチ
オリバとジータとシルが3人を祝福し拍手をする。
その拍手の音で紛れる様にケンヤは2人の耳もとで……
「今度2人っきりの時にその格好よく見せて下さいね!」
真っ赤になりその場でへたり込むメイとサチであった……
ケンヤ……色気で落ちたか……