ネクロシティ
※注)本小説は試作品です。公表であればシリーズ化し再投稿しようと思います。
ガタン、ガタン。
年期の入った車両が悲鳴を上げる音がする。
軌道に刻まれた溝を踏みつける度に箱が跳ねる。長年放っておかれたそれはぐねぐねと曲がり、間の溝はより広くなっていた。
ふと窓の外を見やると其処に広がるのは…
荒野。
所々に瓦礫が散乱し、大破した車の残骸が赤々と燃える。そんな…[[rb:廃棄都市>ネクロポリス]]。
2545年8月15日。
日本の首都、東京は、当時の首相が強引に行った改憲が引き起こした戦禍に巻き込まれ、焦土と化した。
皮肉にも、その日は太平洋戦争の終戦から、丁度600年後の日だった…
そこから東京は混迷期に入る。
東京への人口密集が異常に進んでいたことに起因する国会の消失、政府政管の死亡、経済界の崩壊、人口の大量喪失、戦後処理と言う問題が全て同時に新政府に振り掛かる。
勿論日本は敗戦国。
戦勝国への賠償金、九州のアメリカ割譲に北海道のロシア割譲と言った事により、国土、領海の減少もあり、日本の復活は最早不可能と言えた。
最早独立が守られただけ奇跡と言えよう。
それから約50年。
世界に危機が訪れる。
2610年5月10日。突如300メートルを超える巨体な生命体達がニューヨークに現れる。
彼らは彼の国の進んだ都市圏を悉く破壊・蹂躙しつくした。
それだけでは終わらない。ロシアで発生した大規模な疫病。シベリアを中心として寒冷地域へと広がり、中国をも勢力圏に呑み込んだ。そうして最初の感染が確認されてたった一年で1億もの人命が奪われることとなる。
ヨーロッパでは突如大寒波が発生する。
地中海は凍りつき、バルカン半島が雪に埋もれた。謎の超巨大低気圧がそれまでの学説を全否定するかの如く居座り続け、大都市を氷の彫像に作り替えた。
オーストラリアでは地震だ。太平洋のど真ん中で発生した震度7を悠に超える天変地異とまで学者に言わせたそれは大陸を二つに割り砕き、エアーズロックを沈めた。
南アフリカでは大陸全土が火事に見舞われる。一つの山火事、で終わる筈だったそれはアマゾンの大森林を灰と変える。
アフリカでは大洪水が起こる。砂漠化とは何だったのかと言う勢いで振り続いた豪雨によりエジプトの歴史ある町並みは押し流され、ピラミッドは崩れ去る。
それから30年。
全ての経済圏は崩れ去り、食料は不足、明日は我が身と言う地獄絵図。
"大絶滅"そんな言葉が人々の頭に浮かんだ時、50年前、忘れられた筈の小さな国が、不死鳥の如く蘇る…
私の名は紅花 魅希。東京都立第五高校に通う二年生だ。どうやらそこそこ"モテる"ようであるが私自身は恋愛沙汰に興味が無い。
「なぁ、此処が50年前大都市だったってマジかよ」
こう言っているのは羽田 三日。彼は同級生で幼馴染み。所謂お調子者属性と言う奴である。名前が女っぽいと気にする男。
「そうね、今や世界中が大混乱なんだから、そう言う事もあり得るんじゃない?」
と言う私の言葉に彼は苦笑し、答える。
「確かにな。今や何が有るか解らねぇ時代だしな~」
お調子者にしては将来設計だけはしっかりとしているこの男。
以外にも勉強も出来る彼は小学生時代にアメリカに出て家庭を築くという夢を持っていた。本当に理想主義者の様な言動と性格の癖に根本的には現実主義者なのである…ただ、巫山戯て私を妻にするとか言うのはどうかと思うが…
「全くこんな世の中じゃ何時俺も死ぬんだか…」
「そうね、まぁあんたが死んだ時には葬式位には出て上げる」
「その勢いで結婚式にもでて欲しいんだがねぇ」
「何言ってるのよ…」
不安定に揺れる、誰もいない車両の中、そんな他愛もない会話を繰り広げる。
その間に何者かの声が割って入った。
『Hey!everyone in the world!!gooood eveniiing!』
「おわっ!何だ!?」
声が聞こえて来たのは、先程まで詰まらないCMを垂れ流していた車両内の画面。
全ての画面がやけにハイテンションで大音量な英語で騒ぎ散らしている白衣を着た男の画面に変わっていた。
『さてさて~?世界へ向けた挨拶を済ませた事だし、本題に入るとしようか!』
と、車両のパネルに映し出された計16の男の顔が喋る。
「何、これ…」
困惑してしまい私達は無様に固まっていた…
『え~、世界中の皆さん、こんにちわ。私は日本先進技術研究所所長の氷見 浩一で御座います!皆さんは、もうお気づきでしょうが、現在私は全世界のありとあらゆる"画面"をハッキングしてお伝えしています~』
「は…ハッキングだと?」
「全ての画面…」
私は気になってスカートのポケットから端末を取り出し、電源を入れた。するとまた演説する男が問答無用で写し出される。
『えー、ご迷惑をお掛け致しますが!我々は全世界、全人類に対する!超!重!要!なお知らせを致します!』
字幕が喋りとしっかり合っている…無駄に。
『えー、現在、世界は様々な危機に見舞われています。生命体、疫病、地震、火災、寒波、大雨と…』
「だから何だって言うんだ…?このおっさん」
「シッ!」
私は喋ろうとする幼馴染みを止めた。
…予感がしたのだ。この画面の男、こいつが、何かを成し遂げることを…
『えー、我々は!この!危機の!原因を!特定!致しましたぁ!』
「「んなっ…」」
私達は思わず絶句する。既存の科学を無視した世界規模の大災害、それの世界で初めて見つける…成る程、それが本当ならば正に起死回生の一手。全世界に発信しようとするのも頷ける…か。
『えー、我々は此処に発表致します!この世界危機の原因は!此方の生命体である事を!』
ばん!と言う音と共に映し出されたのは異形の怪物。まるで人の様なシルエットをしていて体色は黒。ゴツゴツした瘤の付いた…化け物。背景からして体長は20m程だろうか…?
『えー、此方がその生命体で御座います!我々はこの生命体に【GOD】と名付けましたぁ!』
「はぁ?こんなのが世界を危機に陥れている?冗談だろ…」
『えー、信じて居ない方々は今すぐ目の前の画面を叩き割ると良い!しかし本当の事を嘘と思う様な奴等には我々は一切関知しないっ!』
「…」
見事に心中を言い当てられ押し黙る三日。…正直笑える。
『えー、我々は二十年程前、偶然この生命体の死骸を確保、以後十年この死骸を研究し続けた!すると!驚くべき事が判明した!
そう!この生命体は金属を自由に操る事が可能性で有ったのだ!』
「…マジかよ、んなの…あり得ねぇ」
隣でぶつぶつと呟く幼馴染みを尻目に私は画面を食い入る様に見つめていた。…感じる。時代が大きく動いているのだ。今この時。
『しかもそれに今度の災害だ!我々はこの生命体との関連性を疑ったっ!そして各地に研究者を飛ばしたっ!するとだ!各地で同様の生命体の目撃が有ったのだ!この意味が解るだろうか!証拠もあるぞ!つまり!こいつが!世界を危機に陥れた張本人であるッ!』
そこで息を切らしたらしい彼ははぁはぁと言う息を漏らし、落ち着きを取り戻してから、言う。
『はぁ…はぁ…いやはや、失礼した。…えー、勿論我々は"観測した"だけでは終わらないッ!秘密裏に我々は彼等への対抗手段を制作した!それが16年前の事!』
16年前。…私は解ってしまった。
何故、今日、帰る時間を指定したか。そして、列車が狙った様に私達だけなのか。
『今まで隠していたのは!実用段階に至ったのがつい先日の事で有るからだ!そして、今日、この時!御披露目する理由は、今から、我等が東京にぃ!【GOD】が降ってくるからだッ!』
「んな…バカな!?…もし…本当だとしたら、逃げねぇと…」
逃げる必要は無い。何故なら…
『さあ!我が可愛い戦士、紅花魅希よ!忌々しい神共を殺せ!』
「魅希…おい…嘘だろ」
三日が此方をみて呆然と呟く。…私は彼に無言で笑い掛け、列車の窓を突き破る。
「おい!ミキ!ミキィィイ!!」
彼の叫びを尻目に私は荒野に着地する。
私の"神力"は"金属"。今"暗号"で送られてきたデータによれば敵は"暴風"。相性としては…最高だ。
ボン!と空を覆う雲を引き裂き"それ"が堕ちてくる。見た目はさっきの怪物に翼を足して緑の絵の具を塗りたくったような感じだ。
設定された感情が奴の嫌悪に燃える。
…殺す。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
空を怪物が叫んだ。彼の目には今私が写っている事だろう。彼等は"コア"を介して会話する能力がある。それにより私の"コア"を見つけたのだろう。
「モードシフト"アマノカグツチ"」
私の呟きにバッ…と言う音が答えた。地面から金属の帯が飛び出し、私の体を覆って行く。…恐らく何処かに仕掛けられているカメラからは突如巨大な人が現れたかの様に見えた事だろう。その瞬間、私は巨人だった。
「…!?ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
何かが可笑しい。獣ながらそれに築いた奴は降下を止め、私を睨む。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!、るぉおぁぁぁあ!」
その声と共に、奴の翼から竜巻が放たれる。うねる様にそれが私に伸び…あえなく盾に阻まれる。
「黙れ…獣が」
私が巨大な鋼鉄の盾を造り出したのだ。
突き出した手から鈍色に輝く槍が放たれる。何本も、何本も。
奴が暴風で守ろうとするも、通用する筈も無く。
呆気なく、貫いた。
それはそれはあまりにも呆気なく。まるで世界に向けたパフォーマンスでもあるかの様な結末。
…これで戦力が増えるかな。
そう思いつつ私は、"神力"を解くのだった…
いやー、暫く全く投稿してませんでしたね…
ファンもクソもない素人ですが宜しくお願いします…




