第3話
台車の上にうず高く積まれた木製の箱が、ゆらゆらと揺れる。
「うわっと⁉」
箱の中には、フルプレートの元となるはずの鉄くずが大量に詰め込まれている。そんな重量物が崩落すれば大事故間違いなしだったが、幸いにも間一髪で揺れは収まった。
「あ、危なかった……。ふう……」
ほっとしたせいか、どっと疲れが押し寄せてくる。が、作業はこれで終わりではない。台車に積んだからには、目的地まで運ぶ必要がある。
先はまだ長い。棚の陰に腰を下ろし、小休止することにした。
体力測定をした際に分かったことだが、壱号の腕力や体力は平均的な男子高校生と同じか、少し強い程度でしかないらしい。
茜であれば、これ位の重さは物ともしないだろう。そう考えると、何だか自分がとても情けない存在のように思えてくる。
「それにしても、すごい部屋だな。これ全部、遺跡から見つかったのか?」
重たい気分を振り払うように、周囲を見回す壱号。林立する棚と、棚に並べられた木箱や段ボール箱の多さには圧倒されてしまう。
学園の遺跡から旧魔王軍の武具が発掘されるケースは、決して珍しいことではない。
その価値が高ければ、学園内の美術館や博物館に展示される場合もあるが、それはごく一部のこと。逆の言い方をすれば、出土品の大半は二束三文にしかならない。
結果、学園の倉庫では大量のガラクタが、日の目を見ずに眠り続けているのである。
「……ん?」
しばしぼんやりとしていた壱号だったが、棚と棚の間を、黒い何かが走り抜けたような気がした。立ち上がって通過した方を確認してみるが、怪しいものは見当たらない。
今いる地下倉庫は、発掘を終えた遺跡を再利用したものだと鬼束は言っていた。そんな古びた場所であるなら、虫やネズミが出たとしてもおかしくはないだろう。
休憩を切り上げた壱号は、覚悟を決めて台車を押し始めた。
「ふん! んぎぎぎ‼」
業務用エレベーターを使って、どうにかこうにか地上へ出る。台車の重量に悪戦苦闘する壱号の前に、だだっ広い魔王城学園の敷地が姿を現した。
「ええと、場所は、っと……」
地図を取り出し、茜の鎧を作ってくれるという〈魔法技術研究所〉までの道順を確認する。
方向音痴の茜でなくとも、学園の敷地は道に迷いやすい。広大な土地に建物がぽつぽつと点在する様はどこも似通っていて、感覚がおかしくなりそうな気さえする。
だからと言って、それが台車の安全を確認しなくて良いことにはならないだろう。
目の前の道路はなだらかな坂道になっていて、ストッパーをかけなかった台車が最初はゆっくりと、次第にスピードを上げて地面を駆け下りていく。
壱号がそのことに気付いたのは、いつの間にか現れていた人影と、台車が衝突する寸前のことであった。
「し、しまった‼」
思わず首をすくめた壱号だったが、いくら経っても大惨事が起きた気配がない。おそるおそる前方に目を向けても、壊れた台車が倒れているのみ。
「……ふう、間に合った」
栗色のポニーテールが、軽やかに揺れる。
慌てて後ろに向き直った壱号の目の前には、くノ一の衣装を身にまとった少女が一人。
「危なかったね。ちゃんと見てないとダメだよ?」
積み上げた木箱を両手に軽々と載せながら、少女はにかっと笑ってみせた。