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第4話

「う……うう……」

 

 どれ位の時間が経ったのだろう。


 巨岩が直撃したにもかかわらず、うめき声が出せる程度には無事であるらしい。

 老人の言葉が正しければ、壱号は亡霊ということになる。生きているという言葉が当てはまるのか、はなはだ疑問ではあるが――とにもかくにも意識を取り戻すことができた。


「⁉ これは……?」


 どういうわけか身動きが取れない。老人が放った例の波動の仕業などではなく、単純にロープで縛りあげられ、地面に転がされている。


「おお、気が付いたか。どうじゃ気分は?」


 先ほどの少女より幼く、しかし妙に年寄りじみた口調の声。

 首を動かして声のした方を見ると、満月を思わせる金色の瞳が壱号を見下ろしている。


(何だ、この娘は?)


 警戒心を抱かせるほどに、その少女の容姿は人間離れしていた。特に目を引くのがその極端に白い肌と、水平に切り揃えられた銀髪からのぞく、額の一本角だろう。


 背丈だけを見れば十歳程度の少女なのだが、それ以外の印象全てが、壱号の常識から大きく逸脱した存在であった。

「わしの名前は……ほれ、ここに書いてあるじゃろ? 『鬼が束ねる』と書いて鬼束(おにづか)じゃ。お主の名前は? 自分がなぜ今の姿になったのか、覚えておるか?」


 ジャージの胸元に書かれた名前を見せながら、鬼束と名乗った少女が、壱号に質問を浴びせかける。


「………………」

「ほう、もしかして『鬼』を見るのは初めてか? ん?」


 鬼束が語りかけながら、じろじろと顔をのぞき込む。黙りこくっていた壱号も、その無遠慮な視線に負けて口を開いた。


「……俺を作ったという奴は、俺のことを壱号と呼んでいた。後、お前のような物の怪に覚えはない。昔の記憶が全く無いんだからな」


「ふむ……。ならば、お主に憑いている『それ』にも覚えがないということじゃなっ‼」


 言うが早いか、鬼束の額の角が電光を放った。


「ギィエエエエエエエッ‼」


 醜い悲鳴と共に、壱号の身体から黒い影のようなものが立ち上った。影は光から逃れるように、天井の片隅へと集まっていく。


「な……なぜ、我に気付いた!」

「ま、それがわしの仕事の一つじゃからのう」


 その影は、紛れもなく壱号を操っていた黒衣の老人であった。血走った目をした老人を、鬼束が冷静に見据えながら話しかける。


「信じられぬかもしれんが、お主はすでに死んでおるのじゃ。大人しく成仏せい。お主にその気があるのなら、わしらが手伝うことも――」

「我がそのガラクタと一緒だと? 魔王軍の元幹部にして、勇者様の頭脳であるこの我が⁉ ふざけるなっ‼」


 現実を受け入れられない老人に、鬼束の言葉は拒絶された。亡霊を用いて壱号を作り上げたという老人からすれば、自分がその亡霊に成り果てたことが我慢ならないのだろう。


 そして、気になることは他にもある。


(……『魔王』? 『勇者』?)


 聞き捨てならない二つの単語が、壱号の耳に入ってきた。先ほどの発言から推察するに、かつて魔王とやらに仕えていた老人が、敵対する勇者の側に寝返ったということだろうか?


「勇者の頭脳、じゃと?」

「そうだっ‼ お前など、勇者様にかかれ……ば……?」


 と、老人の勢いが急に止まった。


 先ほどまでの剣幕はどこへやら。真っ青な顔で鬼束の一本角を見つめている。


「どうした? 勇者様の頭脳なんじゃろ? わしを怖がる必要などないはずじゃが?」


 ニヤニヤ笑いの鬼束に、老人が恐る恐る尋ねる。


「も、もしや……。お前、いや、あなた様は……」

「いかにも。元魔王、鬼束エレオノーラであるぞ」

「ひ……ひいいいいいっ! ど、どうかお許しを‼」

「面倒くさいのう。別に裏切ったことは怒っとらんから、ひとまずわしの話を聞くがよい」


 地面に平伏する老人を見下ろしながら、かつての魔王はおごそかに答えてみせた。


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