第3話
粉塵が収まり、周囲の状況が明らかになっていく。
目の前が瓦礫で埋め尽くされている。元々破壊されていた床に加え、砲撃によって壁や天井が崩落したようだ。
「あ、ああ………………」
名も知らない少女の死によって、壱号の心は罪悪感で押しつぶされそうになっていた。
「無抵抗の相手を、また虐殺した気分はどうだ?」
そんな壱号を、老人の言葉がさらにえぐり、追い詰めていく。
「辛かろう? 苦しかろう? ならば心など捨ててしまうがよい。人形に、そんなものは必要ない……」
それは甘美な誘惑だった。
老人に従えば、壱号は完全なる『人形』に――老人の意のままに動く、殺戮兵器に成り果てるのだろうか。
理性ではそのことを忌々しく感じている。だがそれ以上に、今の苦痛から解放されたいという欲求が、心の折れた壱号を支配していた。
「もう……駄目だ……」
「そうだろう、そうだろう! さあ、我に何もかも委ねるがよい‼」
「…………………………」
「くくくくく‼ ひゃーっははははは‼」
自分を嘲ける笑い声が、どこか遠いもののように聞こえる。壱号の意識が粉々に砕け散ろうとした、まさにその時。
ドガンッッ‼
騒々しい音を立てて、積み重なった瓦礫が突然吹っ飛んだ。
「あいたたた……」
瓦礫のすき間から響く、どこかのん気な少女の声。
「……………………へ?」
緊迫した状況も忘れ、壱号は思わず間の抜けた声を出していた。
その声には聞き覚えがあるが、彼女は無残にも命を落としたはず。罪悪感が生み出した幻聴だろうか?
「び、びっくりしたぁ……」
再び少女の声が聞こえる。聞き間違いや、当然幻聴などではない。
瓦礫の下から現れた人影。やはりそれは、壱号が手にかけてしまった少女の――生まれたままの姿だった。
「うわっ⁉」
全裸の少女から、壱号はあわてて目を逸らした。
あどけない顔立ちにもかかわらず、胸の膨らみと腰回りはかなりの発育ぶりである。腰まで届く長い黒髪と、なめらかな白い肌にはダメージらしきものはない。
つまり――少女はあの砲撃を受けたにもかかわらず、命を落とすどころか全くの無傷であるらしかった。
「ば……馬鹿な馬鹿な馬鹿なっ‼ あり得んことだ‼」
「そ、そう言われましてもぉ……」
わめき散らす老人と、オロオロしながら口ごもる少女。全裸の少女に黒装束の老人が詰め寄るシーンは、はっきりいって犯罪にしか見えない。
が、予想外の状況でプライドが傷ついた老人に、そんなことを気にする余裕はないようだ。
「鎧が吹き飛んだのに、なぜ貴様は無事なのだ⁉ どんな手品を使った⁉ 言え‼」
「えっ、鎧? ………………あ」
老人の追及で、自分の姿を見直す少女。天然か、それともかなりの大物なのか。今の今まで、自分のあられもない恰好に気付いていなかったようだ。
「きゃあああああああっ‼」
可愛らしい悲鳴を上げた少女だったが、その行動は可愛さとは対極のものであった。自分の身体の数倍はある巨大な瓦礫を、あろうことか片手で持ち上げたのだ。
「「え?」」
猛スピードで飛んでくる岩の塊を、壱号と老人は呆然と見つめることしかできなかった。