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#045:決然だな!(あるいは、ソーリーローリー/ディメンショナス)


 最大級の出力を持って放たれた俺の最終極技は、星々の舞う周りの暗黒立方体をも消し飛ばし爆散した。


「……」


 クズミィ神の「城」的な体は最後、紅く光る無数の球体に分かれ散っていったように俺には見えた。


 「倒した」、とその認識でいいのだろうか……再び重力を感じるようになった体のバランスがうまく取れずに、2mくらいの高さから尻を思い切り打つように落ちてしまい俺は思わず呻くが。


 辺りはいつの間にやら夕暮れを迎えつつある。谷間の地べたに座ったままの姿勢で、俺はしばしその赤い光に包まれる美しい自然に目を奪われてしまう。結構時間経過したんだな……それって「あの」虚無へと還った「世界」での時間もカウントされてたりするんだろうか……


 いや、もう過ぎ去りし事は考えるな。とにもかくにも終わった。その事実だけを胸に落とし込み、俺は痛む尻をさすりつつ立ち上がる。


 柔らかな風が吹いて来た。そこまでの冷たさは有してなく、心地よさすら感じられそうなそんな穏やかな空気の流れだったが、全身に何というか遮るものの何も無い吹きっさらし感から来るような悪寒がぴりりと走ってしまう。そう言や、生後間もなきが如く(ツルツル)になったんだった俺……


「……」


 半ば諦めていたが、両手で顔とか頭らへんを触って確認したところ、かろうじて睫毛・眉毛、そして前頭部から頭頂部を通って後頭部に至るひと房の髪の毛だけが残存していたことを悟った。エッジの利いた世紀末(ハードモヒカン)的な風貌に変化した俺は、その見た目のイキれかたとは真逆の凪いだテンションで、体毛生存状況確認途中で見つかった毛むくじゃらの塊をつかむと、よっこいせと胸の辺りで抱きかかえ直す。


「すべてが……終わったのですね……」


 俺の腕の中で呟く(ネコル)の声は、何故か一抹の寂しさを有しているようにも感じられた。感慨……確かにこれでもかのあれこれが諸々あった数日間だったよな……


「ああ……終わった。還ってこねえ体毛(もの)が……多過ぎるがな……」


 俺は俺で全身の寂しさを徐々に実感しつつ、遥か遠くに沈みかける夕日を遠い目で見ながらそう応えることしか出来なかったわけであって……


 (キテ)!! 腋毛(レツ)!! 陰毛(ヒャッカ)!! 終わったよ……


「……!!」


 そんな、度し難きもシメ気味の空気が流れ始めた、その時だった。


「ふみゃあああああああん!!」


 いきなりの嬌声。それは、俺の腕の中で青白い光を発しながらその姿かたちをゆるゆると変化させていたネコルから放たれたわけであり。猫を抱っこするように両腕を回していた俺は、左手にあたたかな球状物体、右手にあたたかな渓谷をふいに感じるようになったことに泡食って、指先を的確かつランダムに動かしてしまっていた。それがいけなかった。おまけに突然鼻先をその猫耳にくすぐられ、思い切りくしゃみをかましてしまう。それもいけなかった。が、


「も、もう……」


 俺の胸に頭を預けつつ、上向いて呆れ顔を見せて来るのは、エメラルドグリーンの髪に青い瞳の、いつものネコルだったわけで。ゆっくりとした所作で俺の手を包むようにそのしなやかな手指を絡ませてくる。そして、にこり、とわざとらしいくらいの笑顔をカマしてくると、さらにはその夕日を反射するほどのつやめいた唇をこれでもかと尖らせて目を閉じてくるのだが。


 抗う術は、やはり俺にはないわけで。……だが、


「……我が主を屠るとは、見事」


 いつの間に、だろうか。最終盤に唐突に登場してからはあまり存在感を見せていなかった黒白衣(くろはくい)女、シトネがふわりと俺らの眼前3mくらいのところに突如姿を現したのだった。そのあくまで沈着に冷静に聞こえるその言葉……いましがた、その「主」がやられたにしてはやけに落ち着いていやがる。


「……お前は一体? (クズミィ)の単なるしもべって感じじゃあねえよなあ」


 唇を突き出したままむくれるネコルの身体をやんわりと離すと、俺はその眼鏡の奥の表情の無い瞳と向き合う。何となくの「やる」感みたいなものを、この女には感じている。こいつがもしや最終目標(ラスボス)……? いやもう俺限界だって…… と、


「……私はただのプロモーターに過ぎない。『世界』には『秩序』と『混沌』が等量レベルで必要だ。ネコル神、あなたの『世界』もまた、『混沌』を注ぎ込んでこそ、光増す……」(シトネミー♪)


 落ち着いた声で黒白衣女(シトネ)の述べてきたことは、やっぱり俺には八厘ほどしか理解は出来なかったのだが。


「……クズミィ神は『四天王』の中でも最弱」


 その後に続けられた、初めて見せやがった悪戯っぽい表情(カオ)での言葉も、大概であったわけで。


「……混沌を呼び寄せ、混沌を纏いて、混沌を散らしに来い、勇者よ」(シトネミー♪)


 完全真顔の俺とネコルを置いて、シトネはそうシメつつ白衣の裾を翻したかと思ったらその姿を消していた。


「……」

「……」


 あとには嫌な沈黙と静寂が漂うばかりなのであって。完全にシメの流れを絶たれたばかりか、そもそもここでシメてもいいものなのか判断に窮する引かれかたをされてしまい、追い込まれた感の否めない俺らではあったものの。


ネコ「……やり、ます……っか?」


ギン「……やられます……かっ?」


 数々の修羅場鉄火場を(時には自ら生み出しながら)くぐり抜けて来た俺らには、もはやこれくらいの窮地……茶飯事なんだぜ?(ケレンミー?)


 お互い無言で適当な大きさの岩の上によじ登ると、次の瞬間、沈む夕日を背景(バック)に、高らかな跳躍(ジャンプ)、からの空中での交差(クロス)、アンド最高到達点でキメ顔キメポーズ。そして高らかに虚空へ向けて唱和するのであった。


ギン「俺たちのッ!!」


ネコ「私たちの冒険はッ!!」


ギンネコ「……ッこれからだぜぇあああぁぁぁぁぁぁああああッ!!」


 着地と同時に思わず目を合わせてしまうものの、吹き出すのを我慢して最後、夕日に向けて右手を真っすぐに指さすポーズでシメ始めるが、その傍らに寄り添い、両手を胸の前で組み合わせて満面(キラキラ)の笑顔で夕焼け空を見上げ始めるネコルを見て、ついに顔筋も腹筋も耐え切れなくなる俺がいる。



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