#041:繊細だな!(あるいは、トリプル×リーチ/謳葉不郎)
かつて、狂気を孕んだ大脳で、風車を巨人と認識し、戦いを挑んだ英雄がいたという。
いま、正気でありたいと切に願う大脳が、戦いを挑もうとしているのは、巨顔を晒した二足歩行の城なのであって。
本当にこれは現実か?
いまさらに過ぎる自問自答は、こと戦闘のさなかに脳内に揚げるものでは無かったが。
「気を確かに持ってください!! これもヤツの手ですから!! 『荒唐無稽』という『視覚』に訴えるという一種の『ケレン味』を自在に操り、相手の行動を封じてくるッ!!」
ネコルの忠告は確かに耳で捉えられたものの、「見た目の違和感」というのは、やはりインパクト強いわけであって。
出方を窺う俺だったが、対峙している「城ロボ」(?)の左肩口付近で何かが動くのを目の端で捉えた。人影……巨顔に寄り添うようにしてその肩に力みなく立っているその姿は、何と言うかこの局面にありて静かなる迫力を有しているように見て取れる……
「……『仙斎』のシトネヴァリス」
と思ったら促してもないのに簡潔な自己紹介を、ぽつり落ち着いた声でかましてきた。あまり表情のない、硬めの女声。例の如くの「黒一色」の出で立ち。黒い白衣(というのも何だが)をその細身ながら出るとこ出ている(またか!)体にぴしりと身に着けている。肩までですぱりと切り揃えられた真っすぐで白っぽい銀髪。年の頃は俺と同じくらいか……細い青い瞳、高くすっとした鼻梁、薄い唇……フレームもレンズも細い眼鏡をかけている、ひと目、医者か科学者か的な風貌だ。
とか、ぼんやり見ていたら。
「……決して出を誤ったわけではない。我が主はこの形態になるといささか自己制御が困難となるから、それの補助である」
そんな事をそんな硬い声質と言葉尻で言われても。だがそうか、決して出を誤ったわけじゃあねえんだな……!!
<ファファファファファファファファ……ギンカクとやら……我が軍門に下れば、貴様に『真実』を見せてやろう……『法則』を司る我であらば、『時空間』を超越することもまた可なりッ!! だからえ……>
と、嫌な間が開きそうになったところで、クズミィ神がそのような突拍子なくかつテンプレ感溢れることを述べてきてくれるのだが。だが渓谷の上下で相対しているものの、深緑色のごわごわと張り出さんばかりの髪に囲まれたその顔のビジュアルがまさにケレン味に彩られた感じで目線同じ高さでこちらに飛び出して来んばかりだよ怖えよ……
言ってることもよくは分からん。そもそもそれほどの力を有しているならば、この俺ごとき簡単に捻れるだろうっつうの。
「ヤロウのは単なるハッタリ!! 銀閣さんの『ケレン味』は、絶対ッ、なんです!! 惑わされないで、最後まで突っ切るのみです!!」
全身の毛を膨らませ逆立てながら、ネコルが俺の左足元付近で、そんな揺るがない言葉をかけてきてくれている。そうだぜ、惑うことなど何もない……
「……とっとと決着つけんぞ。俺をッ、俺として、俺たらしめるためにッ!!」(ケレンミー♪)
<……ならば突きつけてやろう……『真実』をなァアアッ!!>
非汎用城型決戦建造物が、今度は石を投げるようなポーズでキメながら吠えると、例の「黒立方体空間」が、これまでとは比べ物にならない速度と縦横奥行きのスケールをもって、渓谷全体を覆いつくさんばかりにして展開してくる。
「……!!」
そこは、真っ暗な「宇宙」の如き、底抜けの吹き抜けの大空間だった。その中を縦横無尽に白く輝く「星々」が乱れ飛んでいるという、何とも最終戦にふさわしいかのような、そんな場だったわけで。俺も猫も城もあと一人も、その平衡感覚が掴みづらい空間に浮いている状態。
<『法則:記憶の等価交換』>
クズミィ神がのたまった「法則」とやらは、いつもながらに意味はまったく分からなかったものの、その正体不明の「力」が行使されたかと思った瞬間、俺の身体のいたるところから、青白くほのかに光るソフトボール大の「球体」がいくつも吐き出されるように出てきて、俺の身体の周辺を浮遊する。何だこりゃ?
<……『記憶』を武器として、殴り合う。その『珠』は攻撃にも防御にも使える有用なモノであるが……耐久を超えると破壊されるので注意が必要だえ……貴様のそのひとつは、前世での『一年分の記憶』に相当するッ!! 我を倒すが先か、自分をすべて失うが先か……その勝負となるわけだえ……>
女神の話す言葉の8%も理解は及ばなかったものの、俺の周囲に漂う「珠」とやらには、「B14」や「I26」やらの文字数字が記されていた。つまりは「14歳の記憶」「26歳の記憶」が具現化したと、そう無理やり考えるほかは無えんだろう。だがもう俺はすべてを呑み込む構えだ。どんだけ荒唐無稽で押し切ろうとしようが、俺の平常心は揺らぐことはねえんだよ……けどアルファベットは必要ねえよなあ……
「……」
詮無いことは頭の片隅に追いやって、俺はその「珠」に意識を集中させてみる。動く。自分の意思通りに「28の珠」を自在に操ることが出来そうなことを脊髄辺りで理解した。であればよっしゃ、思い切りぶん回して野郎を、破壊してやるッ!!
しかし、だった……(新基軸
<ちなみに私の年齢は『6500万』。イコールその数ぶんの『珠』を現出させることが出来るのだえ……存分に来るがいいだえ……>
そう言いつつ両腕を開いた城の周りには、正に幾千万の星々のような、紅い「珠」が無数に、周りを流れる星々にも劣らぬ密さで、ぶわりと泡立つようにしてどんどん出て来るわけであって。
いやいやいや、露骨に過ぎる……思わず右隣に浮いていたネコルと真顔同士を向き合わせてから、お互い肩をすくめ苦笑してしまうのだ↑が→。
いや、やるしかねえ。多寡にびびるなんてこたぁ、喧嘩であっちゃあならねえことだ。相手が神だろうが……奴の言う通り、存分に行くしかねえッ!!




