#037:絶景だな!(あるいは、寺沢先生ごめんなさいィヒィィッ)
「なんだこの……なんだ!? これはもうなんだ!! なんなのだね!!」
と、切実なる口調で聞かれても。
座った姿勢のままのけぞる野郎の、心からの疑問が声帯を揺らしたのであろう、しかし哀しくも果敢ないその音声は、星空の彼方へとただ吸い込まれていくのみなのであった……
「聞かれて名乗るのもおこがましいが……」
だが、俺なりに応えずばあかんめい。
名は聞かれてはなはぁい、との猫声が、俺の右腕の先、「砲身」と化したネコルの方から聴こえてくるが、俺はゆっくりとその右腕を、天上高くへとゆるゆる掲げ上げていく。そして、
「生まれも育ちも板橋蓮沼、南蔵院で産湯をつかい、姓は鹿苑寺、名は銀閣、人呼んで、鹿苑寺 銀閣と発しやす」(ケレンミー♪)
流儀は知らないなりに、生死のやり取りらしきことをした相手に敬意を表しつつ、俺はそう名乗り口上を紡ぎ出していく。そ、そりゃ人は呼ぶでしょうね本名ですものぉん……との力無い猫声が天上から降り落ちてくるが。
その姿は既に、俺の右腕と一体化し、金属質なテカりを帯びた、先細りの「銃」へと、変貌を終えていたのであった……
「教えてくれぇッ!! 『外連味』とはッ!! 混沌に自ら堕ちることと、本当にそうなのかぁッ!?」
ネヤロの顔色がどす黒く変わっていくが、その答えを求めるしゃがれ声は、俺には真摯に切実に聞こえた。まあ俺にも完全に理解がなったとは思えないんだが。
だが答えよう……答えることで、俺にも何かしらの、思考のとっかかりみたいなもんが掴めるかも知れねえしな……
「……自らを奮い立たせて、逆境とか、困難とか、がんじがらめな『法則』とか、もっと丸めて人生とか。そういうもんに、例えこの身を混沌に墜としこんでさえも、果敢に立ち向かっていってやるっつう……魂の決意表明みたいなもんだと、俺は思ってる。その意味も、それによって何かしらが起こる仕組みってやつも逐一わかりゃあしねえがな……」(檄!!ケレンミー♪)
言葉にして紡ぎ出しても、結局のところはよく分からんがままではあったが。だが、
すべてに風穴開ける覚悟は出来てんだ……わけわからねえままでも、己が力で。
「ふ……フハハハ!! わからないところにこそ、その問答無用の強さがあるのかも知れんなあ……だが『法則』を破られてはここまで!! 潔く散るまでよぉッ!! ロクオンジ ギンカク……引導を渡すのは貴様の権利であり義務でもあるッ!! 存分に来ぉいッ!!」
顔中から脂汗を滴らせながらも、その豪快な渾身の作り笑顔で、ネヤロはこちらに対峙してきやがった。こいつもやはり……武人の如き潔さの輩だったな。
俺は一度大きく息を吸い込むと、猫銃のがぱり開いた口……「銃口」を、射程距離目測約10mほどの標的に狙いを定める。そして、
ギン「……この『ψ猫銃』から放たれし青き光弾は、俺のケレン味に染まった意思通りに彼我空間を自在に無限軌道で飛び進みッ!! 標的を捉え確実に撃ち貫く……ッ!!」
ネヤ「いやいやいや!! やっぱり混沌やった!! やっぱり御都合主義やったぁぁっぁぁ……!!」
ギン「おおおおお……喰らえやぁぁぁぁあああッ!!」
ネコ「刹那、だった……」
ネヤ「!?」
ネコ(ネコーブラー♪ リビミブ↑ウー)
ネヤ「ネコが自分で実況し始めたと思ったら、何かアンニュイな感じながらその実、のびやかに歌い始めた!! まごうことこの上なきにしも確かに混沌だこれ!!」
ネコ(ネコーブラー♪ ミシギュトゥ↑ウー)
ネヤ「その意味不明な歌声の中を、『光弾』と言うよりは、絶え間なく連発される野太い『光線』が、わしをこの期に及んで威嚇するかの如く、最際を掠めていくよ怖いよ……」
ネコ(ネコーブラー♪ オリフュメモ、ア→タユー)
ドウッドウッという心地よい反動を右腕―右肩を通って全身で感じている俺は、ネヤロ言うところどおり、青白い光弾というか光線を撃ち放ち続けているのであった。
野郎の、両足首、左手首、そして首元をミリ単位で掠めるようにして、それらに嵌まった拘束具を狙って。
「……!!」
次の瞬間、「椅子」から弾かれるようにして黒い地べたに落とされたネヤロは、四つん這いの姿勢で呆けたまま、背後で炸裂した爆発を振り返る事もなく、ただただ震えていたわけであって。
瞬間、「黒立方体」は掻き消え、俺の身体の自由を奪っていた「拘束椅子」も、光の粒となって消えていく。猫銃口から青白い硝煙をたなびかせつつ、俺はしっかりと地面に降り立ち、その肥満体と向かい合う。が、
「な、なぜ……」
「オラァッ!! ささと金目のカードば出さんとやァァアアアッ!!」
野郎の想いとかは既に斟酌している余裕は無かった。ネヤロのもはや憔悴しきったとまで言えるその顔向けて、俺はイキれ感を前面に出しつつ自由になった左手をオラ、と差し出す。
こうして。何とか死闘を制した俺ではあったものの、身体および精神への負担はハンパなく、右腕の負傷もどえらい感じで限界であり、
「……」
すっと、極めて静かに意識を失ってしまうのであ




