#028:軽快だな!(あるいは、人格/それは/電気信号集合体)
可能性の塊と化した俺は、非常に凪いだ顔つきで、迫る三人娘を睥睨している。と、
サエ「……ん何かキモォッ!? こっちを値踏みするかのような粘着質な目線でロックオンしてんだけどッ!!:
ふっ、紫、それがお前なりの照れ隠しってそういうわけかよ……
ミロ「なに悟ったかのような顔してんのよ、精神の根源を揺さぶるかのような達観目線やめろぉッ!!」
はいはいツンデレツンデレ。もう俺には全て分かってる。お前らのすべてが俺には手に取るように分かっているのだよ……(チャンドゴーン♪
アロ「き、利かないのぉッ!? 私らの『ΔΔ攻撃』が……なんか気持ち悪い目でガン見してくることでッ!! 封殺されている……ッ?」
素のキミも……かわいいよ。そうだよ、全てに対して真っ向から向き合えば、おのずと分かるんだ、他人の、本当の気持ちも……(チャンドゴーン♪
ネコ「合って無かった!! やばいやばいやばいですよそのベクトルッ!? 絶対ヤバめの方角ですってば!! 帰ってきてぇ、銀閣さぁぁああンッ!!」
大丈夫さ、ネコル君。ツンデレらには、真っ向からの率直な気持ちをぶつけることで……
一網に、打破できるってことだぜ。
「何かキモくは変貌したもののッ!! 依然我らの敵にあらずッ!! 次で決めるぞっ二人ともッ!!」
気を取り直したかに見える紫が、そんな気を張った言葉を紡ぎ出しながら、再び「腕輪」から「武器」を射出させようとしてきている……先ほどまでの何節棍たちは元の光と消えていたわけで、俺の「聖剣」もいつの間にか失われていたわけだが、体感一分くらいしか経ってないわけか……諸々が濃密過ぎて、時間感覚が失われているな……まあいい。
ここからの一分でッ!! すべての決着を、俺はつけるッ!!(ケレンミー♪
「『二刀流』で行くぞッ!! 顕現ッ!! 『鳳笙』&『篳篥』ッ!!」
紫の両手に和音を発する十七の竹が組み合わされたものと、音域は一オクターブほどしかないものの、非常にインパクトのある音を放つ竹の短い縦笛が現出し、
「『龍笛』&『楽琵琶』……」
茶色の両手に竹の横笛と、四弦の平たいギターのようなものがこれまた現出、
「『楽筝』&『鞨鼓』ッ!!」
黄緑の両手にはどでかい大正琴みたいなのと、鼓なんだけどどうやら二本のばちで叩きそうな小ぶりのものが現出したのだが。
いや、武器かそれ……? 見慣れねえものも確かにあるが、楽器だよな……無学を承知で言うと雅楽器だよなそれ……?
ツっ込んだ方の負けという、この世界の万有引力的なものに引きずられないよう細心の注意を払いながら、俺は自らの魂の内圧を高めていく。自分を失わなかった者こそがこの場を、この戦いを、そしてこの人生をも、制していくはずだから。
いま正に手に手にありえないだろな得物を携えた、雅楽器バンドのような様相を呈してくる三人娘が間合いを詰め、一斉に俺に飛び掛かってこようとしている……
だがもう俺は焦らない/恐れない。本質、原理、真なる……
……自分を、ありのままの自分を、全力でぶつけるだけなんだよぉッッ!!
「ぁぁあああああアナタカ、好キデソォォォォォォォォォォォッ!!」
次の瞬間、自らの丹田から発生した「熱」が、横隔膜→声帯を震わせながら、体外へと撃ち放たれていくのを全身で感じている。唇から顔面全体へ、その震動は波紋のように伝播していきながら、再び自分の表面へと、雨粒のように打ちつけてくる……それは、闇の暴風雨の中を、足元も鑑みずに突っ走っているかのような、そんな不思議な爽快感を供していたわけで。
……我、心ノママニ叫ブ、故ニ我アリ……
「いっやぁ~、違うと思うんだけどなあ~!! だって意味が分からなすぎですもんッ!! 本当に銀閣さんですよね? 人格変わっちゃった!?」
額猫の困惑気味の言葉にも、もう慣れた。なぜなら本当の俺は、俺というものはッ!!いかな神とはいえ、全ては慮れない……おそらく多分、俺だけにしか完全理解はできねえと思われるから。
「……」
「……!!」
「……!?」
見ろ、敵方三人娘の攻撃の出足も、確かに鈍ってるじゃねえか。
ならば自分の中で未だ燻る熱情を、情熱の炎の言の葉に等価交換して。
今ッ!! ……突き抜けろァッ!!
「アナタノ肌ガァァァァッ、大ッ、好キデソォォォォォオオオオオッ!!」
えええええ……とまた額から漏れだす猫声だが、今の俺は最早、猫の言う「全能」感とやらに完全にくるまれているわけであって。
「ば、バッカじゃないのぉッ!? そ、そんな、そんなシンプルでストレートな告白で、どうにかなるとか思ってんじゃないわよぉッ!!」
貫けた……まずは紫を……
えええええ、コレに乗っかること可能な想定なんてできませぇんったらできませぇええんッ……!! のような|額猫歌如声《フォアヘ=キャッツ=シンギング》の絶叫の中、
「イツマテモォォォォォォォッ!! 変ワラナイテェェェェエェェエエッ!!」
「もうッ……ばかぁっ、その言葉……ずっと、ずっと待ってたんだからねっ」
茶色完了。熱弾と化した言葉は、顔を赤く染めわなわなと全身を震わせるばかりになった女をも貫かんばかりに矢継ぎ早に放たれたのであった……
あばばばば、怖い恐い混沌コワイ……のような、猫歯の根が合わなくなってきたかの叫びが振り落ちる中……
これが最後、最後だッ!! 俺はこれまで以上に下腹に力を込めると、心に巣くっていた得も言われぬほどの澱みたいなものをも消し炭にしてから吹っ飛ばすかのような、そんな烈火の如き言葉を吐き紡ぎ出していく。
「死ヌホトォォォォオオオッ!! 好キタッカラァァァァァアアッァアァァアアッ!!」
ぶおん、と風を切るような音が聴こえた気がした。残った黄緑女は、せつなげな顔を呈したかと思うや、自分の身体をかき抱くようにして、内股になって震え出しながら、こう叫び返してくるのであった……
「私も……私もほんとは好きィッ!! 大好きなの死ぬほどォォォッ!!」
関係ネー、関係ネー、ケレン味チットモ関係ネー、との呟きを繰り返すだけになった額の上の彫像だったが、
俺は……ちゃんと「隙」を作ったぜ?
埒外からの「攻撃」。それこそが、三人娘の虚を突く……そう計算しての華麗なる策略だよこいつは。見ろ、
「法則」に縛られてた「空間」? そんなもの、今ここにはミリほども展開してねえだろ。あるのはただの……
……「混沌」のみ。
「今だネコルッ!!」
「全部が全部、銀閣さん発の『策』だったとはいまいち納得は出来てませんが、千載一遇ッ!! ならば撃つぅッ!! あああああ、『究極=イエス、ディス=粒子加速砲ァァァァァァァアアアアアッ!!』」
上目遣いに窺った、ネコルの両目と口から、これまでのとはケタ違いの熱量が野太い光線が如くに放出されていくのを、後は目で追うことしか出来ねえ。決まって……くれ。




