#021:峻烈だな!(あるいは、喰らわせろ/俺も知らない謎の/デーナマイト)
水面ぎりぎりに浮いた我が顔面に騎乗ったる獣が、瞳孔を開かせ、牙を剥き出しにしつつ、猫型蹲踞の態勢で震えながら、俺の鼻先に黄金色に輝くナニかをゆっくりと、だが確実に送り出し顕現させようとしている……
どんな異世界よりも奇天烈なその状況に、俺の表情を司る筋肉細胞がひとつひとつ力尽き息絶えていくかのようでもあるのだが。
「ふん、それが『謎の力』というわけか……だが流石にこの状況ッ!! ここからひっくり返すこと、それは不可能というものだ……私とて『次弾』を放つ用意は存分に出来ているッ!! であれば、ならば、望み通りの『第二局』っ、これで決着をつけてやろうッ!!」
ん、何か今の黒女の言葉……
「型通り」感、凄まじかった。うん……これは僥倖……相手がテンプレに組み込まれた時こそが、俺の「ケレン味」が火を吹く瞬間。そのことは、先の長髪にて実証済み……だぜ。
<第二局:着手>
と、ご丁寧にそんな薄緑色の「文字」が、見上げた青空にどういう仕掛けか知らねえが浮かび上がる。
「私の『心色彩』は先ほども宣言したがR『闇黒ブルー』……ッ!! これに勝てるカードは『レジェンド』しか無いぞ……ふっ、『そうは無い』が云々と言っていたが、言い直してやる、お前の勝ちは『ほぼ皆無』だ。だが安心しろ、勝負が決した瞬間、顕現する『鎌』にて、その素っ首を即座に落としてやるからな……」
ジウ=オー……見上げるそのワイルドながら端正なその顔は、もはや自分の勝ちを確信してやがるが。だから確信が早過ぎるっつうの。
言い直した「ほぼ皆無」っつう言葉もよぉ……
「0%」ってことじゃあねえんだよなあ……ッ!!」(ケレンミー♪)
キメを放ったものの、全身、この「生臭水」に浸かっている部分は満足に力も入らなくなってきてやがる……「着手」出来ねえで不戦敗ってのは洒落にもならねえぜ……くっ、今回のカードに限って直で触れたくない感ハンパねえっていうのに……いや、もう肚をくくる。
今まさに射出されたばかりの、ぬめり感と生温かさが宿る、右目辺りを塞ぎ貼り付いている黄金色のカードを、顔の筋肉を使って何とか口許まで寄せようと変顔で奮闘する俺を、呆けたような顔ながら、どこか妖しげな目つきで静かに見下ろしてくる猫が本当に怖ろしいが、早くッ……早くカードを……ッ!!
カードの角が、唇に触れた。俺はなるべく五感をシャットさせながら、ねまる手札を前歯で噛んで立たせる。その表面に書かれていた文字を物凄い下目遣いで何とか確認すると、高らかに俺は宣言する。
「ほうほふッ!! ふぉふふぉんふふんふぁいっ!!」
<説明しようッ!! 『水の電気分解』……そんな実験を覚えているだろうか……うすい水酸化ナトリウム水溶液が、電気を流されることにより、陽極・陰極でそれぞれ酸素・水素を発生させる……>
発声がままならない俺に代わって、猫が朗々と解説してくれるよ、こういう時の乗っかり方だけはやけに阿吽であることが何と言うか逆に腹立たしくもあるのだが。
<法則:『酸素水/水素水ってなぁに?』>
カードに書かれていたのは、もはや法則ですら無いが、この窮地を一発で引っ繰り返すことの出来うる、正にの起死回生だったわけで。
刹那、だった……(刹那って文字がこれで合ってるのかもう分からなくなってきているよ……
尋常じゃねえ速度で、俺の周囲を巡る「生臭水」が、だらり下にさげた俺の両腕から発せられる「電気」に呼応して、分解されていく……紛れも無い、酸素と、水素に。
強炭酸が如く、あるいは何らかのオブジェが如く、水中から細かな気泡が沸き上がり、そして、「神」の力も加えた超速のその反応は次の瞬間、勢い余って爆発するように場に澱んだ「水」を全て吹きかき消し飛ばしていたのであった。
細かな水滴が霧雨のように降り注ぐ中、足元を固定しやがっていた「沼」からも偶然衝撃で脱け出すことの出来ていた俺は、その幻想的とも言えなくもない光景を眺めながら、その先にいる黒女を見やる。
「細けえ『色合わせ』はもうやめだ……俺はいまここに授かった『電気』を使って、拳にものを言わせるだけだからよぉ……」(ケレンミー♪)
俺の両手、いや両拳には、皮膚一枚下らへんでじりじりとむずがゆく感じるくらいの「電流」が残存しているのを、なぜか理解している。こいつを武器に、こいつを倒すまでだッ!!
「くっ……やはり、こちらの『法則』を無に帰してくる『能力』とは……だが私とて、カードだけに頼っているわけではない……」
未だ空中を舞う細かな水滴が光を反射してやけに綺麗な虹を魅せる中、ジウ=オーは腰に提げていた短い「棒」みたいなものを手に取ると、手首を軽くスナップさせる。握りだけかと思われたその「棒」から、どういう仕組みかは分からねえが、とぐろを巻くほどの長さの、「鞭」が顕現してきていたわけで。おいおいおいおい、「カード」の勝敗関係なく、そういうの出せるのかよ、汚えぞ。
と、まあ形ばかりの反論を、さらに心の中だけでしてみたりするわけだが。何つうか、
……勝負はもう着いてんだよ。
「らあッ!!」
気合い一発「黒四角空間」の地を蹴ると、俺は彼我の間合いを一気に詰めていく。対する黒女は余裕の表情で「鞭」を手首の力だけでしならせ俺の首元を狙ってくるものの。
「……なに!?」
いいねえその典型的リアクト。わざと鞭を首に巻きつかせた俺に、そんな驚愕を見せてしまったジウ=オーだが、距離約3m。このくらいまで近づけば充分だろ。
「……!!」
渾身の力をもって、俺は右拳を虚空向けて振り抜く。訝しげな表情をした黒女だが、もうお前は、この「電撃パンチ」の射程に入っているんだよ……
「……着火」
極めてニヒルに言い放った俺の拳が放った「火花」が、この「立方体空間」に充満していただろう、「水素」と「酸素」に火を点ける……ッ!! 完璧な攻撃に思われた。だが、その間合い内に、俺らも平等に存在していたわけであって……
瞬間、思いもよらなかったかなりの威力の爆発が、目標とする黒女のみならず、放った側の俺(プラス頭上の猫)をも飲み込み、激しくスパークしたのであった……
あ、やば……とか思っている時間も無かった。俺の肉体をも精神をも軽くかっさらっていくかのような衝撃が体前面を襲うやいなや、目は眩むわ脳は揺さぶられるわで、俺の意識はあえなく吹っ飛




