もふもふネズミ観察行動展示 とある飼育員の手記
私が勤めているのは、小さな動物園だ。
昔は経営難などにも悩まされたが、今はたった一つの呼び物の御蔭で持ち直している。
知種ネズミと呼ばれる、改良動物の行動展示だ。
惑星一つ分しかない我が園では、行動展示のスペースを用意するのは容易ではなかった。
それでも何とか展示にこぎつけたのは、園長の暑苦しいまでの情熱のたまものだろう。
私達飼育員は、ネズミに餌を与えたり、治療を施したりはしない。
作られたままに行動させ、その動きを見せる。
例えば彼らが道具を作るようになったとしても、他の動物園のようにリセットしたりしない。
彼らの思うままに行動させ、その様子を入園者に見せるのだ。
小さな惑星の小さな地面の上を、ネズミ達は懸命に駆けずり回る。
食料を求め、他の動物を襲うこともあるが、止めることはしない。
飼育員が餌を与えないので、彼らは自分達で食糧を確保する必要があるからだ。
様々な方法を考え、様々な手法で餌を確保するネズミ達の姿に、入園者達は感動の声を上げる。
一つの確かな生態を目の当たりにすることは、原始的な気持ちを揺り動かすものの様だ。
入園者達に特に人気なのは、道具を使うようになった集団である。
原始的な武器を手にしているものも多く、驚くこと火まで使うようになっていた。
そのうちいくつかは、原始的な焼き物まで制作するようになってきている。
この様子は驚くべき反響を呼び、午後のニュース番組でも取り上げられた。
国営放送の取材も来て、私もアナウンサーから質問をされ、随分緊張したものである。
随分子供と妻からの株も上がったし、田舎の父母にも孝行が出来た気がする。
最近困ったことも起きている。
有名になった弊害というやつだ。
一部の困った思想に染まった者達が、この展示は神の領域に触れるものだと言い出した。
これは、我々の歴史の再現だというのだ。
彼らに言わせると、我々も別の知性体のこうした実験によって生まれた、とかなんとか。
SFという奴だろうか。
私も嫌いではないが、あくまでフィクションであり、現実との区別は付けなければならないだろう。
SFと言えば、銀河のはずれまで到達した観測隊が、透明な巨大円形構造物を発見したという。
「マド」と名付けられたソレの続報を、私は年甲斐もなくワクワクしながら待っている。