とある研究所での一幕3
私は受話器を取るとプッシュボタンを押した。
プルル……プルル……プルル……
「へい!こちら到雲楼です!出前迅速!仕事は丁寧!サービス満点!お届けですか!」
「うん。頼む」
「何をお持ち致しましょう!」
「そうだな。まず担々麺大盛り。それに半ライス。あと唐揚げだな。唐揚げを五個。まだあるぞ。餃子だ、餃子。餃子は六個。それに杏仁豆腐も頼む。あと担々麺は辛くしてくれよ、頼むぞ。以上だ」
「へい!承知しました!」
「何分掛かる?」
「三十分あればお伺いできますよ!」
「分かった。急いでくれよ」
「へい!」
私は受話器を置いた。
「本当、この世は極楽だな。羨ましい限りだ」
博士が頬杖をついて目を細めて私を見上げた。
「食べたいものを食べたいだけ食べるんだな」
博士はそう言って腕を組み、天井を仰いで首を振った。
私は席に戻ってスマートフォンを横に向けてゲームアプリを開き、デイリークエストに勤しんだ。
「おや?空が曇ってきたな…」
博士は窓を向いて呟いた。
瞬く間に大雨が降り始めた。強烈な雨だ。外で大きな衝突音が聞こえた。大雨の音に交じって悲鳴がこだました。
「何だ。外が騒がしいぞ」
博士が立ち上がり窓の外を見下ろした。
「事故か。雨でスリップしたんだな。あ。まただ。大変だなこれは」
すると、建物が大きく揺れた。
「地震か?うわ!危ねえ!」
窓の外を戦闘機が通り過ぎた。建物のすぐ真上だ。窓ガラスがびりびりと震えている。
「ソニックブームだ!」
遠くのビルが火に包まれている。何か首の長い巨大な生物が向こうで暴れ回っていた。
「ゴジラだ!」
『地球市民に告ぐ!この星はわれわれモンキー星雲連合軍が占拠した!おとなしく随うならそれでよし、刃向かうならば殺すまで、二つに一つ!今すぐ選択しろ!』
空に無数のUFOの編隊が押し寄せていた。拡声器から流暢な地球言語でこのような宣告を下している。
「宇宙人だ!」
その時UFOの編隊に向かって何か煌めくものが飛び立った。虹色の五つの人影はUFOと戦っている。大雨の中から、「地球はあなたたちのものじゃないわ!そんなこと、このサイキックレンジャーが絶対にさせない!」、という声が微かに聞こえた。
「エスパーだ!」
『……このわしを永い眠りから呼び覚ますは誰じゃ……十兵衛……十兵衛……』
何処からか不気味な身の毛もよだつ声がわき上がる。UFOやサイキックレンジャーの浮かぶ空を覆う黒い霧、それは大きな顔のようにわだかまった。
「怨霊だ!」
そして世界は破壊された。廃墟のビル群。あらゆる破壊兵器と魔法、超能力で地表は厚い雲に覆い尽くされ、凍える風が吹きすさぶ。
その時、雲の中から一筋の光が降ろされた。
「なんだあれは?」
光の筋をゆっくりと降ってくる人物。白いコック服を着て頭にはコック帽。岡持を片手に持っている。
私の目から涙がこぼれた。
「毎度!到雲楼です!担々麺大盛り半ライス付き、単品で唐揚げと餃子、杏仁豆腐お持ちしました!」
ジャスト三十分であった。
かなり時間をオーバーして傷つきながら最後に残った半ライスだけを届ける、というオチを予定していたのに全く真逆になってしまった。