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TRIPERIOD  作者: 六畳半
3/3

Scene2 -It called me suddenly- <1>

 居間の電話が鳴ったのは、陽も落ちて久しい午後9時の事だった。

 二階の書斎で小説を読み耽っていたマークは、階下で呼出し音が鳴っているのを聞いて顔を上げた。

 耳を澄まして聞いていると、数回鳴った呼出し音が不自然な所で途切れた。ポーラが受話器を取ったのだろう。判然としないくぐもった会話が聞こえ、それが止むと、ポーラが階段を登る足音が聞こえた。

 マークは小説に栞を挟み、机に置いた。立ち上がって、部屋を後にする。出てすぐの廊下で、階段を登り切ったポーラと鉢合わせた。

「電話よ。アレックスさんから」

「アレックスから? ……そうか。そういえば、今日こっちに戻る予定だったな」

 独り言のように呟くと、マークはポーラを避けて階段を降りた。居間に入り、電話機の置かれているチェストの前に行く。外されたままの受話器を取った。

「アレックスか? マークだ」

 敬語を使う仲でもないので、マークは気軽に話しかけた。

『代わってもらってすまんな。視察は滞りなく終わったよ。今空港に着いた所だ。中々有意義な出張だった』

 男性にしては少し高い声。耳障りの良い、澄んだ声だった。

「そうか、それは何よりだ。ご苦労さん」

『それでな、それとは別件なんだが、……今から会えないか?』

 アレックスが突然声をひそめた。マークは不信に思って眉を潜める。

「今から? どうして……?」

『電話越しじゃ話しづらいんだ。カトラスで待ってるから、今すぐ来てくれ』

 アレックスは二人でよく行く居酒屋の名前を出した。

「おいおい待ってくれ、用件くらい言ってもいいだろう?」

『頼む、会って話させてくれ。それに、絶対に後悔はさせない』

 そう言うアレックスの声は少々上擦っていて、どこか嬉しそうな、そんな風に聞こえた。

「……わかった。 20分後にはそっちに着くように努力する」

 マークはそれだけ言うと、一方的に電話を切った。溜息をついておもむろに顔を上げると、そこには不安げな表情を浮かべているポーラが立っていた。

「アレックスの奴、どうしたんだ? 突然話が有るって……。もしかして、転職の相談かな?」

 マークはおどけた声で言った。が、ポーラの顔は曇ったままだった。

「何処に行くの?」

「カトラスだよ。すまんが先に寝ていてくれ、12時を回る事は無いから心配しないでほしい」

「わかったわ」

 そう言って、ポーラはクローゼットの中から上着を取り出し、マークに手渡した。

「ありがとう。じゃあ、行ってくる」

「気をつけて」

 いつも通りの挨拶を交わして、マークは外に出た。室内の暖を背に、四月上旬の肌寒い夜風が身を包む。遠く西に、月明かりに照らされる山脈の尾根が見えた。

 マークは上着のポケットから車のキーを取り出すと、さっき乗っていたセダンの扉を開けて、車内に入った。エンジンをかけ、しばらく暖気させた後、発進した。

 住宅から聞こえる歓談の声を掻き消すように、車はエンジン音を唸らせて、再び都心の喧騒の中へと舞い戻っていく。

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