私と不本意な帰郷
それは夏休みも半分ほど過ぎたある日だった。
特にすることもなく、家で惰性でテレビを眺めていた私に、先程から電話をしていた母が青ざめた顔で言った。
「・・・あのさ、あんたが昔遊んでた近所のあの子、死んじゃったらしいよ」
「・・・え?」
その時の私は突然の母の言葉に、これ以上の反応が出来ていなかっただろう・・・
それから3日ほどが経ち、私は今一人で電車に乗っている。
新幹線を降りてから凡そ小一時間、徐々に都会の影を失っていった窓の景色を横目に、私の記憶に色濃く残っていた、今は亡き少年との思い出のページを繰っていた。
どこを行くにも、ニコニコしながら私の後をついて来た少年を、私は弟の様に思っていた。私のあの場所での生活には、いつも少年の笑顔があった。
その笑顔が私にとって、退屈でしかなかったあの頃に色彩を与えていた一因だったのだろうなと今更ながら気付いた。
「 山瀬駅〜、山瀬駅〜 」
後悔と遣る瀬無さを感じていた私の耳に届いたのは、随分昔に別れを告げたはずの駅の名前だった。
人があまり利用しないせいか、アナウンスも半ば気が抜けた様な声である。まぁ殆ど無人駅みたいな様なものだからしょうがないような気もしないでもない。
切符を改札に通して駅を出ると、祖父の車が駅の前に止まっていた。
私がその車に目をやると、車の横で煙草を吸っていた祖父が優しい笑顔で右手をあげた。
「お疲れ様、ここまで来るのに疲れたべ?」
「・・・ううん、そうでもないよ。電車に乗ってるだけだったから」
「・・・おう、そうか」
車を生んでする祖父はそう言うと、少し悲しげに笑った様に見えた。
久しぶりに会う祖父に、なんだか気不味さを感じだ私は外の景色を見ることにした。幼い頃よく目にしていた田園が見渡す限りに広がっている。その真ん中を道路が通り、その横には街灯がポツポツと広い間隔で立っている。民家も駅を離れてからここまで、数えられる程しかなかった。
・・・本当に何もない町だ。
・・・こんな町で幕を下ろしてしまった彼の人生は、幸せだったのだろうか?
彼がこの世を去った原因はまだ分からないが、もし私がその場にいたのなら、何かしてあげられたのだろうか、行き場のない後悔が募る。
「おい、・・・大丈夫か?」
突然の祖父の呼びかけに驚き私は我に帰る。
「家まであと30分ぐらいかかるから少し寝なさい。目の下のクマ、・・・凄いぞ」
ハンドルを握り、前を見ながら祖父はそう言った。
いつ私の目の下を見たのだろうか。
・・・やはり祖父は、祖父なりに私のことを考えてくれていたのだろう。五年前には見られなかった祖父の温かい一面だ。
「・・・うん、わかった」
祖父の意外な優しさに驚きながらも、少しの安心感とともに、二日ほど働き詰めだった私の意識はいつの間にか深い眠りに落ちていった。
優しさって良いなぁと最近思ったので、人の優しさを伝えられる作品を作りたいと思い、書きました。
更新スピードは少し遅めだと思うので、意識のほんの片隅に置いて待っていただけると嬉しいです!
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