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報復の狼煙

 私はどうやら変態のようだ。事故だったとはいえ彼女達の裸体を見たことに変わりない。だが私が故意に起したわけでもなく、彼女達も同じく故意ではない。一種の元凶はあいつにあった。

 大浴場。ここで叫雄叫びを上げ失神を起こす宮本。そこまで女性にどこまで耐性がないのかとツッコミを入れたくなる私だが、そんな彼の体を拭き服を着せ浴場の前へ放置する。

「今日は空いていると言われ私達は入っていたのだが」

 彼女達とは私の部下でもあり、魔族の兵士でもトップクラスの技量を持つクロネコ小隊メンバー。私は空いているの一言を耳にしここへ来たと話すと、全員が首を傾げる。

「あたい達も今日は空いていると聞いてここへきたんだ」

 ガイアの告げた理由に私は一つの共通点を見つける。互いに空いているの一言でここへ集まっている。その出所についてガイアへ問い始める。

「誰に聞いたんだ?」

「陛下だ。今日は風呂が空いてるから存分に楽しめってな!」

 なぜだろう。ガイアへ質問を行ったはずなのになぜかララーシェが答えている。そんな些細な事はどうでもいい。ソースがレラージェで私も彼女達もここへ集まったということは、何か思惑があると踏む。

「まったくたかが女の裸体で失神するなど蚊ほどにも及ばぬな、宮本という男は」

 大浴場の扉が開くと、上半身に白いタオルを巻き湯気の立ち込める浴室へ入る一際小さな魔王。しかし私より遥かにこの世を渡り歩いたその魔王は、私の裸体如きで怯む精神は持ち合わせていない。

「レラージェ。今日の風呂は空いていないんじゃないか?」

 私はここへ呼び出した張本人へ若干威圧的に問う。表情を変えず彼女は真顔でその問いに答える。

「確かに空いていた。じゃがここへ全員....違うのう。裏切り者以外を揃えたには訳があるのじゃ」

 全員の顔ぶれをその言葉で再確認する。裏切り者を省き、そこに集まっていたのはクロネコ小隊メンバー。ララーシェ、レラージェ、そして私を除き、その存在をまだ知らないメンバーは互いの生存を確認し合う。

「誰?」

「いないメンバーを確認すれば済む」

「一人いない」

 ミーシャの言葉が浴室に反響する。しかしその名前を呼ぶことだけは憚られたのかそこで口を閉ざした。

「そうだ。誰がいないか言わなくてもわかるだろう?」

 ここにいるメンバー全員の瞳が私へ一点集中した瞬間、裏切り者の名を放とうと口を開く。声帯が振れた瞬間、大浴場の空気がそれまで癒しを求め集まった魔族の瞳が一人の兵士の瞳へと変わる。

「察していると思うが、ルーネだ。レラージェとララーシェはすでに知っていた。報告も私に通っていた。そこでだが、私達は大規模な反攻作戦を実行しようと思う」

 大浴場で話す事柄でもない。しかしここにいるメンバー以外へ誰にも聞かれない場所はなかった。私達は全員で浴槽へ浸かり、風呂の温もりを全身へ浴びながら作戦の概容を説明する。

「敵さんに私達を壊滅させるチャンスを与える。これはレラージェと魔族全員同様、少しチャンスを与えようと思うが」

 私はレラージェの瞳へ目線をしっかり合わせる。小さく首を縦に振ると躊躇いなくその作戦について語る。

「この作戦でこの城が犠牲になる。レラージェはすでに同意している。そして他の魔族も同意している。あとは君達の同意だけだ。まず作戦を話す。私達は勇者勢力の中核都市ポリネシアルを攻撃する。ここは勇者の武器が多く出回っていることもあって政府の監視が厳重化されている地区だ。勇者さん方もここへ駐留。かなりの数がいる。これは一種の陽動だ」

「陽動?」

「この情報をルーネ経由で勇者側に流させる。大規模兵力を用いた反攻作戦と銘打ってな。メイア。もし敵の本拠地から大規模戦力が我々の駐屯地を攻撃すると敵の情報が流れたらどうする?」

 答えは複数ある。こちらも同規模の戦力で迎撃、返り討ちにし追撃を掛ける。もしくは。

「駐屯地の兵力を敵の本拠地に仕向ける。そうすれば敵の総大将が取れるから戦闘も自動的に終結する」

「そうだ。敵さんの思考はそこまで単純ではないがチャンスあらば冷静さを失うのが人だ。今回城を陽動に使用する。兵士長のイグラスを筆頭に攻撃チームを編成し敵の中核都市へ総攻撃を掛ける。もちろんレラージェ達にはこの城から避難をしてもらう。大量の爆薬を仕掛け手薄になった城へ敵を招き入れて潰す」

 手の平を水面へ叩きつけ、波紋を広げる。全員の顔色が怪しくなるが私の提案した作戦に決心を固める。

「ここ数千年ここで暮らしてきたけどそろそろ飽き飽きしてきたころだぜウルフ」

「私も同感だ」

「わ、私もです」

「あたいもだ。そろそろ新居に引っ越したいんだ」

「同感」

「わたしもぉー」

「ウルフの選択に賛成する」

「ウルフ様って意外と大胆なんですね」

 全員の意思が固まり、賛成の意思を表明する。その言葉を一言一句欠けることなく耳に入れ、レラージェと微笑を交わし頷く。

「なら決まりだ。明日全員を招集する。くれぐれも作戦の真意を悟られないように」

 浴槽から体を出すと、一人大浴場から姿を消した。放置していた宮本を担ぎ、自室へ連れ帰ると一人武器庫でライフルのチェックを行う。汎用型ライフルG3の輝きを横目にマガジンへ弾薬を詰めていく。7.62mmの弾丸が人を簡単に殺められることは、現実世界でも同様に可能であることは理解している。殺傷性に溢れたライフル達は黒い不気味な輝きを放ち、使命を果たすその時を待ち続ける。

「久しぶりだな。お前との戦いも長くなる」

 血痕が刻まれたG3ライフルのストックに触れる。私の死を思わせるその刻印は忘れることのない中東の戦場を思わせる。

「あの時、死んでいなかったら私は現実世界で何をしているのか。想像がつかないなまったく」

 マガジンを定位置へ戻し、武器庫の扉を閉じる。魔法陣を展開し、生体スキャンに匹敵するセキュリティーを掛ける。私とレラージェ以外には開くことの出来ない鋼鉄の扉。C4爆薬の確認も行い、翌日のブリーフィングへ向け作戦を練り直す。部屋への帰路を進む中脳内で幾度となくシュミレーションを行い、敵の動きを完全に把握するため私は勇者に成りきる。そうでなければ敵の動きは読みきれない。

「ウルフ隊長?」

 そんな声に動じず、私はただ廊下を歩く。幾多の選択肢から最良の選択をする為に感覚器官は愚か脳の回転すら選択に集中する。声などという一種の雑念を振り払い私はただ作戦の立案を繰り返していた。

「ウルフ隊長」

 ようやくその声が耳に入り私は振り向く。後ろからひたすら私を呼びつけていたのはルーネだった。

「なんだ?」

「さっきからボーっとしてるけど何かあったの?」

「何もないぞ。ああそういえば君に一つ頼みたいことがあったんだ」

 シュミレーションの内容がすべてまとまる。彼女に散々情報を漏らされた分、私も彼女の開ききった蛇口を利用するとした。

「明日のブリーフィングで説明する作戦について一つ重要な役割を頼みたいんだ」

「なんだい? 僕に出来ることならなんでもいいよ」

「先に城から出発して敵状の偵察を頼みたいんだ。武器、無線機は予備も含めて5つ支給する。明日作戦の全体を説明する。この件を考えておいてくれ」

 ルーネはその提案に笑顔で頷く。作戦をあらかじめ知った上で悟られないための対抗手段。これで城へ爆弾を仕掛けられる時間を稼いだ。

「今日はもう遅い。早く寝るんだな」

「わかったよ。それと隊長。一つ言っておきたことがあって」

 言葉を詰らせながらルーネは私へ何かを告げようとしていた。しかしその言葉が私の耳に入る寸前で、背後から感じ取った殺気。微量の足音に反応した私は背後へ体を向けその殺気と対峙する。

「ダミーナイフ....じゃないな。誰だお前は」

「名乗る必要はない。ただこれだけは言っておく。私はこの世界の人間ではない」

 黒い目だし帽を被った人間がそこに立っていた。その手にチラつかせるナイフに私は何も告げず戦闘態勢へと入る。

「どうしてここにいる?」

「ちょっとばかし君達にことを伝えようとな。私は元CIAの人間だ」

 アルファベット三文字の機関名に私は耳を疑った。アメリカ中央情報局の人間がここにいるはずなどない。固定概念が崩れ去りつつあった私へその人間は目だし帽を取る。

「ここにいる理由は簡単だ。その女を殺すためだ」

 私の目の前に現れたその女に見覚えがあった。私の周辺をしつこく嗅ぎ回っていたその女は、現代でもこの異世界でも厄介な存在だと知る。

「ヴェクター。なぜここに」

「君に答える必要はない。たがこの世界へ来たのも恐らく死んだのだろう? クライス・ウルフ」

 CIAの諜報員ヴェクター・クレイストは私へ45口径次世代短機関銃クリスヴェクターの銃口を向ける。

「それを知ってなぜここにいる」

「答える必要はないと言っただろう。そこの....ルーネと言ったか。もう用済みだ。悪いが私の礎になってくれ」

「馬鹿か。こいつは私の部隊のメンバーだ。知っているだろう? シュバルカッツェ。クロネコ小隊がこの魔王城にいることを」

 私の目の前にいる冷徹な殺人鬼に言葉を放つ。その言葉がヴェクターに通じるとは思えない。

「知っている。お前がこの世界で活動していることもすべて」

「じゃあなぜここで銃口を向ける。私の部下を今ふざけた事で欠けさせることは出来ないのでね」

 45口径クリスヴェクターの銃口が下へ下がる。CIAスパイだったヴェクターは下唇を力強く噛みつけ、私へ捨て台詞を吐いた。

「その女には気をつけるんだなウルフ。いつ君が殺されるかわからん代物だよ」

「言っている意味がよくわからない。苦し紛れの言い訳にしか聞こえない」

 背中を私へ見せつけ、ヴェクターは城の廊下を去った。誰が仕向けた策略なのか私にはその全容がまったく透視できない。ルーネの表情は青ざめ怯えた表情が続いている。向けているはずの銃口をこちらへ向けられた恐怖は誰しもが体験するものではない。仮にこの世界では私達におぞましい漆黒の銃口が向けられることはほぼないだろう。

 立ち竦み、足を震わせているルーネへ私は手を肩の後ろへ回す。そのまま肩を叩き、私は廊下を去っていった。何も告げることなく戻った私は再び武器庫へ向かうと、とあるライフルを取り出す。記憶から生成されたそれは、名前の刻印と特徴的なハンドガード。そこに刻まれるナイツ社の文字。SR-16URX4。人間工学に基づき形成されたハンドガード、M4A1でネックとなり改良の末、光学機器に対応したワンタッチでの展開を可能にしたアイアンサイト。特殊部隊向けに作られたライフルの最高傑作。シューター向けの新たなツールに私は個人使用で現代世界にて購入。もちろん戦場での使用は一度。それも市街地でのテロ制圧に使用したのみで、一番の戦果を上げている。

 プライベートでも戦場でも愛用の武器と化したこのライフルに、私は頬で挨拶を交わした。

「またお前を使うときが来てしまったよ。ナイツの化け物」

 5.56mmのNATO規格弾をマガジンへ詰め込み、チャージングハンドルの動作とトリガープルの重さを確認する。もちろん調整は完璧。ドライファイア、空撃ちとも呼ばれる動作を行い、撃ち金の作動を音で噛み締める。

「ごしゅじーん。どうしたの? ライフル見つめて」

「ナナシか。いろいろあるんだ。ライフルって言うのは生き物と同じで好き嫌いがある。砂漠が嫌いな奴、体格が大柄で狭い市街地が嫌いな奴、綺麗好きの奴。個性的で面白い奴ばっかりなんだ。こいつは私へ大切なことを教えてくれた恩人なんだ。昔もこの体になった今でも変わらない大切な事を」

 一人自分の中で生きる精霊と会話を重ねる。一見独り言に見えるこれも私の生活の一部と今ではなってしまっていた。

「そうなんだー」

「そうだ。人を守るということがどれだけ大変なことか実戦に赴いた私は痛感したよ。同じ部隊だったメンバーも今じゃ片手で数えられるほどに減った。ヴェクターもCIAの諜報員をやりながら私の部隊にいた一人だった。あいつも死んだのだなってさっき思ったよ」

 語る口から発せられる砲弾のように重い現実は私の肩に圧し掛かり、拘束する。ナナシも言葉を発せられないほど、重い現実をここで受け止めたのだろう。互いに言葉の出ない間が続く。弾丸を込める指は留まることを知らないが、一度捻じ伏せられた口はそう簡単にこじ開けられない。私もナナシもただその沈黙を模した風景に溶け込んでいた。

 5.56mmの弾丸がボックスから消え、マガジンにすべて吸い込まれた。プレートキャリアのプラスチック製マグボックスへ一つ一つ押し込み固定する。

「ウルフー!」

 沈黙の中へ手榴弾が投擲されるように、拘束しきった空気を推し飛ばす声が私を呼んだ。その言葉に私も言葉で返す。

「どうしたララーシェ」

「いやーちょっと気になったことがあって」

 空気をまったく考えず、場の雰囲気をぶち壊す能力に長けた声の主ララーシェ。このときばかりは救われる。

「なんだ」

「次の作戦で使う武器をって思ってな。だから私の武器をウルフに選んでもらいたくて」

「私は武器屋とかじゃない。だがララーシェにはいい武器がある」

 そう口から出た誘い文句を余所に私はガンラックから大型の銃を取り出す。一見ライフルに見えるこれもボックスマガジンを装着すれば、制圧火器へ変貌を遂げる。

「これはマシンガンか!?」

「ご名答。M249LMG。ボックスに最大200発の5.56mm弾を装填出来る分隊支援火器だ。ララーシェの瞬発力と肉体なら間違いなく使いこなせる」

 ララーシェはM249ライトマシンガンを抱え、ボックスマガジンを装着する。機関砲と言えば大げさになるが、面制圧を得意として毎分1200発の弾幕を張る。これを目の前に前進出来る者は命知らずかただの馬鹿かに分かれる。

「いけるか?」

「問題ないぜ。しっかしこんなものがここにあったなんてな!」

「私の記憶から創られた代物だ。大切に扱ってくれよ」

 ララーシェは手の指を二本私へ見せつける。平和のピースと言われるが二次大戦中のイギリスチャーチル首相がやった二発の予告でもある。裏切りへの報復が私の裏切り。目線が次第に近づくその瞬間に向く。

「どうしたんだ?」

「なんでもない。次の作戦。レラージェはどんな考えをしているかわからないが、やってくれると思うか?」

「愚問だな!」

 私の質問はそんな容易いことではない。自らと共に勇者を葬るという可能性が否定できないのだ。懸念に狩られる私の心にララーシェは私の心を追いつかせようと言葉を掛ける。

「あいつは私の認める奴だ。簡単に死を選ばないぜ」

「そうか....だが不安だ」

「安心しろって。あいつにはウルフがいるからな!」

 声を高らかに上げ笑うララーシェ。作戦への心構えを整え、私はマガジンを置いた。

「そうだな。少しレラージェと話してくる。お互いもう寝るとしよう」

「だな! 作戦、私に異議はない。派手にやろうぜ!」

 グットサインを交わし私はすでに寝室と化したレラージェの部屋へと戻っていった。漆黒に包まれるこの部屋に私は記憶の片隅にある彼女との夜を思い出す。暗がりに映る山並みを横目にレラージェの部屋を見渡すと、その異様な様に疑問の言葉を私へ放つ。

「どうしたのじゃ? まるで来たばかりの頃のように見渡して」

「ちょっと恋しくなっただけだ。聞きたいことがある」

 声のトーンを急降下させ、レラージェへと問い詰めを開始する。

「なんじゃ?」

「いや特にないんだ。ただこれからもこうしてレラージェと居られるのかと思ってな」

 閑静な部屋に私の囁きが広がる。レラージェの小耳に入った言葉が彼女の笑いを誘った。

「何を申すか。さてはお主、わらわが城と共に滅びるとでも思っているのじゃろう?」

「そんなわけないだろう。ただ少し不安なだけだ」

 目線をレラージェの瞳からまったく逸らそうとしない私に、照れくさそうな表情を見せるレラージェ。魔王とはいえ、少々愛らしい。ゆっくり顔を接近させ、レラージェの額と直接、接触を交わす。彼女の脈拍と体温を私の胸に刻み込み。火照りと頬の赤が視界に入射し、白い素肌から伝達される体温に、微かな胸騒ぎを感じる。

「な、なんじゃ。急に額なんぞくっつっけおって」

「いいんだ。レラージェの肌、体温、脈。それを感じられるだけで私は幸せだ」

 それまで人を殺傷し得る兵器を抱えていた腕を肩の後ろへと回す。髪に広がるシャンプーの香りを仄かに感じ、彼女の存在を確かめる。体を互いに触れさせ鼓動を確認しあい、私は生命の儚さを知る。

「ありがとう。それだけだ」

「よくわからんが、ちょっと嬉しかったぞ」

「私もだ....絶対生きてくれよ」

 意味深な言葉を最後に、反発性能に優れたレラージャのベットへと飛び込んだ。疲れからか不幸にも瞼が落ちるように密閉され、暗闇の何もない世界へと放り込まれる。そして気づけば朝日が昇り、目を前を光が照らし夜明けを告げる。

 ベットから起き上がり、訓練用のジャージを着用すると何事もなかったように城の外周へと向かう。レラージェの寝室から扉を返し、廊下へと足を運ぶと隣で睡眠を取っていた宮本が同時に部屋から私の目の前へ現れる。

「おおウルフ殿!」

「いい夜は過ごせたか?」

「拙者このような城に一泊するのは初めてなのだが最高だった。それでウルフ殿は何処へ行くのだ?」

 満足度が次第に上昇していく最高級ホテルのような城ももうすぐおさらば。宮本の満足そうな声を聞き取り、質問へ答えを出す。

「ちょっと走りに。宮本は朝から何をするんだ?」

「素振りだ。拙者剣術を習い、数度戦にも参加したことがあってな。それ以来武術には救われてきた」

 左手に握られた鞘とそこから伸びる柄。私の足先から腰まである日本刀を片手にこの世界の玄関とも言える転生場所の庭へと向かう。ストップウォッチを指定の時間にセットし、外周への入り口へと辿りつく。宮本は私と別れ、一人悟りを開いたように剣術へ没頭する。

 ストップウォッチのタイマー機能を用い、スイッチの押すモーションと共に足を進める。魔力による肉体の変化と言えど、筋力と持久力だけは変わらず維持している。

「はぁーご主人も朝が早いねー」

「ナナシか。主人より遅く起床するとはいい度胸だな」

「三大欲求で一番強い睡眠欲には勝てなよー」

「それじゃ特殊部隊は愚か普通の部隊も無理だな」

 鼻で彼女の言葉に笑いを掛けると、目線に頬を膨らませたナナシの表情が入る。タイマーの時間をチラっと確認し、迫るタイムリミットにようやく気づく。声帯と口の挙動があるワードに微動すると、紅い魔法陣と共に第二の腕が展開される。肉体の変化を最大限に引き出すそれは、魔族の特権でもある大量の魔力。

「ナナシ。戦闘態勢だ」

「はーい」

 魔法陣と共に展開される加速。足元に開かれた蒼の魔法陣が強烈な引力を発生させ、まるで水蒸気カタパルトで引かれ、甲板を脱出する艦載機になりきった気分にさせる。やがてランニングとしていた行為を音速ジェット機体験へと変え、城の正門へと辿り着く。

「もういいぞナナシ」

「疲れたからもう一寝りするね」

 捨て台詞を残し目線から消えたナナシ。背中の腕も消え、至って変わらない普通の人間へと私は戻った。

「終わったか?」

「ああ。宮本は満足に出来たか?」

「もちろんだ。拙者の腕もこの世界では変わらぬようで安心した」

 刀の鋼を鞘へ刺し込み安全な状態へ変化させる。城の内部へ歩き始めた私達はブリーフィングルームへ向かう。宮本は作戦参加の意志表示をしていない。しかしこの世界に飛ばされてしまったのであれば今の現状を話さなくてはならなかった。

「これからブリーフィングを行う」

「ブリーフィングとは何ぞ?」

「作戦会議だ。宮本にも今の状況を把握してもらいたい。私の後ろでブリーフィングのアシスタントをしてほしい」

 目を逸らさず遥か前方だけを見つめ、宮本に協力を求める。

「わかった。ウルフ殿の頼みであれば尚更だ。拙者にできることがあれば申し付けてくれ」

 笑顔で頷く宮本を横目でしっかり確認する。その言葉だけで彼の真意を確かめられる十分な確証が私にはあった。

 ブリーフィングルームの扉を目の前に、私は一度停止する。扉を開こうとする手がドアノブを握った瞬間、凍りつくように停止するのだ。心の躊躇いが渡しの行動に誓約を化すが、捨てなければ自分が死ぬ。そう言い聞かせ扉を開いた。

「皆集まってるな。これからブリーフィングを行う」

 正面のスクリーン前へ陣取った私はテーブルへ備え付けられたタブレットを操作し、スクリーンへ攻撃目標の地図を映し出す。タッチペンでその地図へ作戦の目的と概容を書き込み矢印を置く。

「今回敵の主力部隊が駐留している駐屯施設を一斉に叩く。これにはクロネコ小隊の地上、航空戦力を総動員し、空と地上から同時に叩く。作戦の第一段階は航空戦。制空権確保の為に機体が複数必要だ。今回の作戦に際してレラージェへ頼み新しい機体を受領した」

 画像ファイルを読み込み機体の写真を映し出す。それまで操縦していたレガシーホーネットと似つかないフォルムと独特の吸気口。大量の爆弾とミサイルを機体下部に搭載したそれは戦闘機とは懸け離れた攻撃機にも見える。

「F-15ストライクイーグル。私達の世界で同世代戦闘機の中では最強と恐れられたアメリカの新鋭機だ。作戦では着艦フックも装備する。着陸時に止まれない可能性があるからな」

「ってことは滑走路にも着陸用のロープを着けるわけですね」

「そうだ。フックを装着する改造はすでに終わっている。操縦はホーネットと対して変わらない。対地攻撃兵装に自由落下爆弾を搭載しておく。空対空戦用にはAIM-9X。恐らくドラゴンとの戦闘にもなるだろう。機関砲も弾薬を満載にしておく」

 航空機のシルエットが描かれたアイコンを地図の外へと移動させる。第二陣の説明を挟む為、ハンヴィーのアイコンを置くと全体の陣形が徐々に浮き彫りになる。

「第二段階は地上部隊による駐屯地の破壊だ。攻撃してくるものはすべて排除しろ。内部にプラスチック爆弾を仕掛け爆破する。これが今回行う作戦の概容だ」

 黙々と説明を耳へ叩き込むメンバー。もちろんこれが実行されることはただ一人を除いて知っている。これが陽動作戦の一部だと知っているのはここにいる一人を除いて全員だ。

「ブリーフィングは以上だ。総員準備に掛かれ」

「了解」

 立ち上がったメンバーは全員ブリーフィングルームから駆け出し、武器庫へと向かう。パイロットは格納庫へ向かい新調した機体を確認し、コックピットへ乗り込んだ。

「大体理解できたか」

「すまないがさっぱりだ」

「これだけの情報じゃ不足しすぎていることは承知だ。改めて説明する」

 私は戦争の一連を事細かに伝える。レラージェの能力、勇者と魔族の境界線、戦争の勃発。余すことなくここ数ヶ月に起きた出来事と、私の正体を話しようやく理解を得る。これから始まる作戦がどれだけの影響を及ぼすかも、すでに説明を通していた。

「大体わかったか?」

「拙者にも理解できた。つまり人間の王がレラージェ殿を狙って戦争を起しているということでよろしいんだな?」

「そうだとは一概に言い切れないが、大体合っている。それで物は相談なんだが」

 宮本へ私はある提案を行った。捨てきれない不安を払拭する為の最善策と私自身が勝手な確信を持ったそれを彼は何も言わずただ頷き、承諾した。

「わかった。ウルフ殿のその提案。責任を持って拙者が承る」

「頼んだぞ。私は格納庫へ向かう。もう部屋に戻って良いぞ」

 扉を開き宮本をブリーフィングルームから廊下へ出す。互いに途方へ向かう足と向き合った背中が彼らの芽生え始めた友情を語っていた。

 レラージェに頼み込み二機の新型機を受領し、格納庫で出撃前の最終点検を監視するため、格納庫へ出向いた私はパイロットの二人へ会話を持ちかける。

「どうだ。新しい機体は」

「いいねぇー。私ちょっと興奮してきちゃいますよぉー」

「ウルフ様が乗れと言えば何にでも私は乗りますよ」

 感想は予想以上に好評と言える。新鋭機という戦闘機乗りにとって最高級ブランドの洋服と同等の価値があるそれは、嗜好の一品と言えるだろう。制空戦闘機として開発されたイーグルはどの戦闘機とも互角に戦える性能を隠し持っている。一度それを味わったパイロットは二度と他の戦闘機には乗れないだろう。

「兵器の搭載も終わってようやく一息つけますよ」

「そうか。整備チームがよくやってくれてるな。最初は一機だけだったが二機に増えるといろいろ厄介になる」

 新たに整備チームを結成し対応に当たらせていた。仕上がりも現代で居た整備士と変わらない。最高の航空戦チームが出来上がったと自分でも過大評価をしてしまうほどである。

「ジュリア。どうだ新しい仕事は」

「上々ね。ウルフはこれからどうするの?」

 元はレラージェに仕えていたメイドのジュリアへ声を掛ける。整備士長に選んだきっかけはメイドのクセして仕事が雑だったというのが理由だ。整備の現場で雑というのは縁のない話だが、汚い現場にガサツな人間が一人は必要なのだ。他はしっかりしているので整備士長の立場が危うくなっている。

「全員の装備をチェックする。っとその前に機体の最終確認だ。少しコックピット借りるぞ」

 グットサインをジュリアは作り承諾を私へ伝える。はしごを垂直に上りコックピットへと乗り込んだ私は機器の一つ一つを起動し、動作の確認を行う。油圧系、高度計、速度計、攻撃用のカメラ、搭載兵装との互換性、すべてのシステムを起動させ直に触れる。目で見るだけでは足りない。肌で感じることが戦闘機への理解を深める一番の方法だと私は確信を持っている。

「ありがとう。一応すべて調べたが問題はない。あとはパイロットの要望どおりやってくれ」

「わかったわ」

 格納庫を後にする様は、どこか不安に狩られる背中を見せる弱い私の本性だと感じる。私は地上部隊の士気を直接確認する為、武器庫へと足を向けたのだった。


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