【空】
一つの大きな木があった。
その木を中心に四分割にするように四季がある。
左下には春。右下には夏。左上には秋。右上には冬。
木の幹を背に一人の男が立っていた。
男が足を一歩動かす度に短時間で四季を味わえる。
だが何故か男は四季を選べずにいる。
男は上空を見上げる度に溜息を零し呟く。
秋や冬を突き抜けて空は何故美しいのだろう、
何故空は青く繋がっているのだろう。
男は四季を選べないのではなく。
四季に共通する青空に焦がれているのだ。
だが、青空に向かうための羽根がないならどうすればいい?
すると鳥が空から語りかける。
『だったら地面とお別れしなさいならば私の羽根を分けてあげるよ。
そうすれば貴方もこの空を飛び交うことが出来る。』
瞳を輝かせるも男はふと思う。
『空は、此処から見るのが良いのです。確かに飛んでみたかった
だけど思ったんだ。君の様に飛ぶ事が出来たとしてもそれでこの空が
青く見えるのだろうかとね?
空はこうして僕が地に足を付け
仰ぎ見るから青いのじゃないかと思うんだ。
僕はこの地上から仰ぎ見る空の青さが好きだから。
もし、僕が鳥ならばきっと君たちの視線の先にある青空に魅入るだろう
だけど、僕は人だから……鳥の視線で空を美しいとはきっと思わない
だからこれでイイ。これで良いんだ。有り難う鳥さん。』
そうして男は四季ある大地から仰ぎ見る空に再び魅入る。
鳥は男の言葉を聞き終えればその青い空へと消えゆく。
あの鳥は渡るんだろう。知らない空の知らない季節へ
男は鳥を見送るように手を振って歩き出した。
四季を渡るのでは無く四季の交わりを歩む。
ただ色を変える空を追って