ある人物の独白
暗闇に慣れた視界が天井を見上げる。何度目を閉じてもまた開いてしまう。
眠れない。
身体の内から湧き上がる悪意と熱情が全身を駆け巡り、脳を興奮で満たしていく。呼吸こそ落ち着いているが、吐息に熱が籠っているのがわかる。どうにか強引に眠りに誘おうと自らに言い聞かせるが、身体は言うことを聞いてくれない。寝返りを打つ度に暗闇の中で柔らかな打撃音が響く。
興奮の理由は自分がよくわかっている。明日――正確には日付が変わっているので今日である――のためにずっと計画してきたのだ。決行に移すのが待ち遠しくて仕方がない。
不安はない。むしろ胸の高鳴りを覚える。まるで遠足前日の小学生のような気分だ。この計画さえ成し遂げれば、この胸の内に秘めたどす黒い感情が解放されるのだ。
最初に生まれた感情は絶望だった。次に生まれたのは憎悪。最後は殺意だ。
この日のためにどれだけ狂気に耐えてきたか、お前にはわからないだろう。
何度四肢をもいで腸を切り刻んでやりたいと考えたことか。
そもそもお前は自分が何をしたのかすら知らない。
どれほど罪深いか早くその身体でわからせてやりたい。
計画を確かなものにするために、あいつらの手を借りることができたのは僥倖だった。あいつらはこれを貸しにして様々な要求を突きつけてくるつもりだろうが、今更どうでもいいことだ。 御影家や『同盟』がどうなろうと知ったことではない。望みさえ果たせれば後はどうなっても構わないのだ。
尤も一年半前に都竹蓮がうまくやっていれば、あんな連中を頼る必要も無かったのだが。折角“真実”を伝えて駒に仕立て上げたのだが、まさか何の成果も挙げられずに終わるとは役立たずにも程がある。あれでは周囲に警戒心を生むだけではないか。
ただ、それで最上由貴が御影家から追い出されるという副産物が得られたのは悪くなかった。彼がここからいなくなるのは、こちらの目的とも合致していたのだから。だからこそ彼が呼び戻されると知ったときには面喰ってしまった。御影礼司は死んでなお邪魔ばかりするらしい。
だが、全ては明日片付く。何も心配はいらない。計画が成功した後の混乱に乗じて巧く事を運べばいいだけの話だ。
当主就任式が執り行われることはない。あの仕掛けが発動すればそれどころではなくなるし、何より式の主役が欠けてしまうのだから行う必要もない。
何もかもが理想通りに進んだ未来を思い描いて、口元が綻んだ。
御影寧――明日、お前を殺す。