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エンゼルプラン  作者: 夏多巽
間章
80/173

『韋駄天』の夕べ

 三月二十八日の午後七時に差しかかる頃、駅前の大通りに加治佐牡丹の姿があった。


 彼女は歩道を迷わず真っ直ぐ突き進み、交差点で左に曲がりそのままさらに進む。その後、数分歩いた所で立ち止まり、脇に立つ建物へと目を向けた。


 建物の壁にかけられた看板には『ラーメン韋駄天』と書かれている。


 血統種が開く飲食店は多い。『同盟』のお膝元とあれば尚更だ。そういった店を特集する記事が掲載された雑誌は少なくない。

 だが、この店はそのような記事とは無縁だ。メディアで取り上げられることを嫌い、ただ只管(ひたすら)至高の麺を追求することに時間を費やす。

 水分を吸収又は放出する能力を最高の麺を作るために使う男。数多くの場面で活躍できるにも関わらずラーメンに全てを捧げた男。それが店主に対する常連客からの評価だ。


 牡丹が初めてこの店を訪れたのはジャーナリストになって間もない頃。以来、彼女は定期的に通うようにしている。

 ここ最近は急な予定の追加や変更が重なったせいで中々行く時間をつくれなかったが、この日ようやく来ることができた。


 牡丹は店の中から漂ってくる濃厚な匂いに期待を寄せ、戸を開けた。


「どうもッスー」


 薄暗い店の中には既に数人の客がいた。会社帰りのサラリーマン、大学生と思わしき青年、親子連れの二人組。

 牡丹は光源の少ない中で目当ての人物の姿を探した。


「加治佐、こっちだこっち」


 一番奥の席から名を呼ぶ声に反応してそちらを見れば、白髪交じりの初老の男が手招きしていた。

 牡丹は狭い通路をすいすいと歩いて男の隣の空席を占領すると、店主に醤油ラーメンを注文する。顔馴染みの店主は彼女の勝手知ったるとばかりの態度を意に介さず、一つ頷くだけだった。


「すみませんねえ、私の都合に付きあわせちゃって。本当に申し訳ないッス」

「謝るつもりならそれっぽい顔しろ。なんだそのにやけた面は、まさか俺に奢らせるつもりじゃねえだろうな?」


 村上(むらかみ)哲人(てつんど)が新聞記者を引退したのは去年のことだ。かつて血統種犯罪の記事を書くことに執念を燃やしたこの男と牡丹の付き合いは短くも深い。彼女がジャーナリストを志す切欠にもなった男だ。気楽な調子とは裏腹に牡丹は心底敬意を抱いている。


「まあまあ、久々に逢ったんですからそれくらいいいじゃないッスか。村上さんの気前のいいとこ見たいッスよ」

「相変わらず調子の良い奴だ」


 村上は毒づきながら豪快に麺を啜る。


「さてと、それじゃあ早いところ本題済ませちゃおうッス。例の物、持ってきてくれたんスよね?」


 牡丹が期待に満ちた眼差しで問いかけると、村上は一度じろりと見てから自分の鞄の中に手を突っ込んだ。そうして取り出したのは一冊のノートだった。


「ったく、老いぼれ扱き使いやがって。尊敬してりゃ好き勝手に頼りにしていいわけないんだぞ」

「そう言いつつ応えてくれるところ大好きッスよ!」


 ノートを受け取るやいなや牡丹は早速ページを捲り始める。捲る手は速いが、目の動きは綴られた情報を一字一句見逃さぬ正確さを有していた。


「……流石、やっぱり村上さんに頼んで正解だったッス。桂木鋭月の第一人者だけあるッスね」


 ノートには、記者時代に村上が調査した桂木鋭月とその一派に関わる情報が隅から隅まで書き連ねてあった。

 鋭月の生まれ故郷、家族構成、出身校、交友関係、趣味、企業家として名声を築くまでの道程。

 そこには桂木鋭月という一人の男の半生が事細かに描かれていた。


「自分で言うのも何だが我ながら良い出来だ。結局記事にはしなかったがな」

「勿体ないッスねえ。鋭月が逮捕された時に書けばよかったのに」

「書かないって決めたからな。一度誓ったことは何があっても翻さねえ」


 ふんと鼻を鳴らす村上を、牡丹は苦笑して眺めた。


 村上は鋭月が裏の世界に君臨していた頃に、ノートの内容を記事にしようと試みたことがある。

 表の顔は自分の代で会社を急成長させた敏腕経営者、果たしてその正体は血統種の闇を牛耳る強大な支配者。

 だが、上司やその上も対立派から目をつけられることを恐れ、村上に諦めるよう説得した。彼は当然の如く反発したが、最終的に折れることになった。


 村上はすっかり不貞腐れ、今後ノートの内容を記事にすることを自ら禁じた。

 一度諦めたものを状況が変化したから再び拾う、というのは彼の信条に反するからだ。


 血統種犯罪を追うジャーナリストになったからには命の危険を冒す覚悟はできていた。本来であれば命を落としてもよいと記事にすべきだった。

 その信念を曲げた以上もうこの件に関して真実を追う資格はないと、村上はノートを箪笥の奥深くに封印した。


「今になってこいつを持ち出すことになるとはなあ……ま、他の奴が欲しがる分には構わねえ。好きにしろ」

「持つべきものは人脈(コネ)ッスね」


 牡丹は知っていた。村上は口でそう言いつつも、記事を諦めたことを酷く後悔しており未練を抱いていると。

 ノートを処分せずに封印したのも、その表れであると。


 牡丹はふむと一人頷きながら内容に目を走らせる。

 そして、あるページを開いた途端に「おっ」と声を上げた。


「“猟犬”――」

「ん?」


 無意識に口走った単語に、村上が反応する。


「この“猟犬”って何ッスか?」


 牡丹は読んでいたページを村上の眼前に晒す。

 そこには“桂木家”、“薬師”、“主従関係”“猟犬”といった単語が無秩序に書き込まれていた。他にも複数の人名とそれらを結ぶ矢印があったが、小さかったり汚かったりで読みにくかった。


「そいつが気になるのか?」


 いいところに目をつけた、と表情で語る村上。


「“猟犬”ってのはな、桂木の先祖が担っていたお役目の名前だ」

「お役目ッスか?」


 村上は頷きながらノートを受け取る。彼の眼差しには記者時代に抱いていた情熱を懐かしむ色が濃く出ていた。


「桂木家が異界産の薬草で財を成したってのは知ってるよな。桂木家は異界を牛耳っていた魔物の一族お抱えの薬師だったんだよ。山林なんかも所有してるちょっとした名士だったらしい」

「それは知ってるッスけど、その話と何か関係あるんスか?」

「……これは異界の旧家を訪ねて回っていた時に知った話なんだが、そのお抱え薬師ってのは表の顔で裏では御庭番みたいな役目を背負ってたんだとよ。その名前が“猟犬”ってわけだ」


 それはかつて鋭月のルーツを知るために、桂木家と古くから親交のある家を訪ねた時のこと。

 先祖が当時の桂木家当主と仕事上の付き合いがあったということで過去の資料を閲覧する許可を貰い、村上は大喜びで蔵に籠った。

 彼が喜ぶのも無理のない話だった。異界の旧家に関する資料は少なく、歴史を紐解く上でまだ不充分であった。異界との交流が本格的に始まったのは『同盟』が発足して以降。特にここ二、三十年の間の出来事だ。まだ、各地の蔵の中で埃を被っている書物は沢山ある。そういった書を歴史学者たちがあちこち駆けずり回って収集しているのが現状だ。


「御庭番……それは面白そうな話ッスね」

「“猟犬”の主な仕事は主家に出入りしながら家臣たちを監視すること。反抗的な意思を見せる連中を確認したら調査、追跡する。時には暗殺もやってのけたそうだ。鋭月の能力は知ってのとおり、他の血統種が使う能力の模倣だ。手札には事欠かなかったし、その手の仕事は適正があったんだろ」


 鋭月の能力――“英雄の墓標”。

 その効果は、自らの手で殺した(・・・・・・・・)血統種の能力を(・・・・・・・)模倣する(・・・・)


 鋭月が恐れられていた理由の一つがこの能力であった。

 殺した数だけ増えていく手札。際限は無く時間と共に膨れ上がる脅威。

 実際にはそこまで都合の良い能力というわけでもない。模倣された能力は原型(オリジナル)より性能が劣化するからだ。

 それでも底の見えない恐怖は鋭月に対する畏怖を高めることに貢献した。彼に立ち向かおうと心ある人々が声を上げた時には、既に王座が築かれた後だった。


 鋭月の落日までには長い時間を要した。

 御影礼司ほどの英雄でも入念な準備を整えるまでは、鋭月と対峙することはできなかったのだ。

 それまでの間にどれだけの犠牲者が出たのか、未だ明らかにされていない。


「……ということは鋭月もその“猟犬”だったんですか?」


 牡丹の問いに、村上は首を振って答えた。


「いやいや、とうの昔に廃れちまったらしい。その仕えていた大物が政変の折に失脚しちまってお家も潰れたと聞いている。その時に桂木家も独立して、当時の当主が薬草の栽培を始めた。そんで二十年くらい前に鋭月が跡を継いで全盛期を迎えた、というわけよ」

「よくそんな話見つけてきたッスねえ」

「伊達に記者やってたわけじゃねえぞ」


 村上が見せた屈託のない笑顔は記者時代を思い起こさせるものだった。牡丹が駆け出しだった頃にも見せた顔だ。最近は見る機会が全く無かったので、久々に目にしたそれに彼女も思わず顔を綻ばせた。


「この中身は後でじっくり見るとして……実は、急で申し訳ないッスけどもう一つ伺いたい話ができたッス」

「どうした?」


 一瞬の間を置いて牡丹は低い声で切り出した。

 村上もそれとなく察して表情を硬くする。


「……村上さん、八年くらい前に起きた天狼製薬の法務部長とその妻が“事故死”した事件追ってたッスよね?」


 村上は、ああ、と納得したような声を上げた。


「最上夫妻のことか」


 御影礼司の養子となった少年の、実の両親の死。

 それもまた村上にとって真相を究明できずに終わった事件の一つだ。

 追い求めた理由はただ一つ――桂木鋭月が関与していたため。


「先に訊いとくが、今度の御影家の事件と関係あんのか?」

「いや、私が個人的に気になっただけッス。関係はない……はずッス」

「要領を得ねえな。断言できねえのか?」


 牡丹は難しそうな表情で頬杖をついた。


「なんかここ数日でいろいろ繋がってる感じッスからね。ひょっとしたら、と思わなくもないというか」


 曖昧な言い方であるがそれが牡丹の本心だった。

 鷲陽病院の火災、都竹蓮の死、浅賀善則の失踪、そして今回の御影家襲撃と殺人事件。

 一見すればそれぞれ独立しているように思えるが、彼女には根底で全て繋がっているという予感があった。


「まあいい、隠すことでもないしな。訊きたいってのは事件の概要とかそんな話じゃねえよな? 要は“裏”の方だろ」

「ええ、最上夫妻を殺害した(・・・・)犯人についてです」


 あの事件が殺人である可能性は調べればすぐに思いつく。

 ただ、表立って騒ぎ立てる者がいなかっただけの話であった。


「夫妻を殺したのが対立派――鋭月の手下ってのは状況からして明らかだ。俺が鋭月を追ってた頃から、最上精一(せいいち)が奴と対立してたって話は知ってたからな。天狼製薬に出入りしてた清掃業者が話してたぜ、事件が起きる少し前に二人が剣呑な雰囲気で一緒にいたって」

「鋭月の会社は天狼製薬の取引先の一つだったッスよね」


 鋭月の会社は薬効のある異界産の植物を栽培して販売していた。天狼製薬も原料となる植物を購入していた会社の一つだ。

 表面上は単なる売り手と買い手の間柄。しかし、背後では鋭月が天狼製薬を操っていた。


「ああ、その時商談で天狼製薬を訪問していたんだが、そこを最上精一が捕まえたらしい」

「二人は口論でもしてたんスか?」

「どっちかっていうと最上の方が鋭月に食ってかかっていたらしい。鋭月の方は涼しい顔で流してたんだと。それで駆けつけた最上の妻の方が仲裁に入ってその場は収まった。結局何が原因で最上が怒り狂っていたのかわからないままだった。そして、それから一月ほど経ってあの“事故”が起きた。十月の二十二日だ」


 第一報が入ったのは夜の十時半過ぎ。村上は“事故”に巻き込まれたのが天狼製薬の幹部と知るや否やすぐに現場へ急行した。

 鋭月の周囲ではよく人が死ぬ。それを知っていた村上は今回も何かあると直感したのだった。


「で、村上さんはその口論が動機に関係していると考えているんスか?」

「可能性としては大いにあり得る。二人の仲は決して良好とは言えなかったが、だからといってすぐに争いが起きるくらい悪かったわけじゃない。それがその口論以降、急激に悪化したらしい」


 一体最上精一はどんな理由で鋭月に食ってかかったのか、牡丹は思考の海に沈んでいく。

 口論が起きたのは事件の一ヶ月前。即ち九月の二十日前後のことだ。この頃に精一が怒りを覚えるような出来事があったのかと推測する。


 だが、そんな出来事があれば既に村上が突き止めているだろう。それを話題に出さなかったということは、そのような話は見つけられなかったのだ。


 では、裏で起きた出来事であればどうだろうかと、牡丹はさらに潜っていく。


「ん――? 九月の二十日頃?」


 そうして、彼女は一つの事実に思い至る。


「どうした?」

「……ちょっと待ってください。えーと、確か……あったあった、竣工が九月十日……ああ、やっぱり」

「一人で納得してねえで話せ。何か気づいたのか?」

「妙な偶然もあるものだなあって思ったんスよ。精一氏と鋭月が逢ったのって鷲陽病院で例の(・・・・・・・)検査棟ができた(・・・・・・・)すぐ後(・・・)ッス」


 牡丹の口角が吊り上る。獲物を見つけた獣のような不敵な笑みであった。

 火災の現場となった検査棟が完成した時期と、最上夫妻が事故死した時期は、一ヶ月の差しかない。

 そして、検査棟が完成した直後に、精一と鋭月が対峙。


 新しい情報(ネタ)を見つけたことに牡丹は歓喜した。今回も首を突っ込んだ甲斐があったというものだ。


「鷲陽病院か……お前あの事件の行方不明者を追ってるんだったか?」

「糸井夏美です、鋭月の関係者なんですがどうも奴が噛んでいるみたいッス」

「なるほどなあ」


 詳しい事情は知らない村上であったが、牡丹の嗅覚と直感には信頼を寄せていた。

 彼女の頭の中で閃きが生まれたのだと確信する。


「つまりなんだ、もしかしたら最上夫妻の死がそっちの件と繋がるかもしれないと?」

「探ってみる価値はありそうッスねえ」


 ふむ、と村上は考え込むように黙ってしまった。

 手にした割箸が宙で絵を描く。


「……それなら、“あのこと”も話しておくか」

「“あのこと”?」


 村上は牡丹に顔を寄せて小声で続ける。


「最上夫妻の事件だが……変だと思わねえか?」

「変と言われましても、どのあたりが?」

「夫妻の死後、御影礼司が息子を引き取ったことがだ」


 最上由貴――牡丹と協力関係を結んだ相手。一連の事件の関係者でもある少年。


「何故御影礼司は息子を引き取ろうと思ったんだ? 奴には最上夫妻との接点は無かったはずだ」

「……それは実際には接点が逢ったからじゃないッスか? そうでなきゃわざわざ自分で面倒見ようとは考えないッスよ」

「俺もそう思う」


 村上もその点には同意だった。

 御影礼司と最上夫妻、両者に関係があったことを疑う余地はない。

 

「最上夫妻は鋭月に反発していた。それに奴は対立派の中で過激思想が蔓延るのを危険視していたとも聞く。じゃあ、『同盟』と一時的にでも手を組んで鋭月を排除しようと考えるのは不思議じゃねえ」

「『同盟』と裏で接触したから消されたってことッスか?」

「俺はそう考えている。それを裏付ける根拠も……ないことはない」


 自信なさそうに述べる老記者の様子に、牡丹は不思議そうに小首を傾げた。


「最上夫妻の死は……ひょっとしたら『同盟』が絡んでるかもしれん」

「どういうことッスか?」

「……こいつは公表されてない事実なんだが」


 村上は椅子を壁ぎりぎりまで寄せると、牡丹にももっと近づくように伝えた。

 傍から見れば若い女と初老の男が壁際で顔を寄せ合っているという奇妙な光景だ。本人たちは真剣であるが。


 誰にも聞こえないくらいに声のボリュームを落としてから、村上は話を再開する。


「最上夫妻が事故に遭った現場近くに住んでいた男が、野次馬気分で現場に来ていたんだ。その時に、そいつは警官と話す名取小夜子を見ているんだ」

「名取小夜子――」


 現『同盟』最高幹部の一人にして御影礼司の幼馴染。


「あの女も有名人だからな、顔を見てすぐにわかったそうだ。名取小夜子は警官に何か指示を出していたらしい。ぱっと見た感じあの女が捜査指揮を執っているように見えたそうだ。ところがだ、警察の発表に名取小夜子の名前は一切出てこない。事件の流れを追ってもあの女はどこにも登場しねえんだ。事件には関与していないことになっている」


 村上はすぐに小夜子と事件の関連を指摘した。何故、名取小夜子ひいては『同盟』が捜査に関わっていないことになっているのかと。

 返ってきた答えは“名取小夜子は偶然現場を通りかかっただけであり、何か重大な事件が起きたのか確認を取っていたに過ぎない”であった。


 しかし、村上はそれで満足するような男ではなかった。


「俺は警察とか『同盟』関係者の中にいる知り合いに頼み込んでいろいろ教えてもらった。その結果判明したのは、事件のあった晩にあの女が血相変えて『同盟』傘下の病院に飛び込んできたってことだ」

「病院?」

「そうだ、夫妻はその病院に搬送され後に死亡が確認された。で、病院に救急車を要請したのが名取小夜子だった。担ぎ込まれた夫妻に寄り添う形でやって来たらしい」


 証言者によれば、その時の小夜子は見たことがないほど動揺していたらしい。普段の冷静さは欠片もなく、待合室のソファに座り頭を抱えていたという。


「……つまり、第一発見者は(・・・・・・)名取小夜子だった(・・・・・・・・)ってことッスか」

「気になるよなあ。名取小夜子が夫妻を発見したのは偶然なのか? それとも別の理由があって現場にいたのか?」


 よもやこんなところで名取小夜子の名前が出てくるとは予想外だったと牡丹は驚きを隠せない。

 村上に訊ねたのは正解だったと己の判断を称賛する。


「現場に彼女がいたことを御影礼司は知っていたんでしょうかね?」

「多分な、二人は幼馴染だというし知っている可能性は高い。それを踏まえて最上由貴を引き取ったことを考えると……意味深だろ?」

「ふむふむ」


 丁度そこで注文した醤油ラーメンが出され、二人の会話は打ち切られた。

 考えるのは後、まずは久々に出逢った麺を存分に堪能することにしようと牡丹は割箸を取る。


「名取小夜子――ここにきて大物の登場(エントリー)ッスね」


 そう呟くと同時に、箸が小気味の良い音を立てて真ん中から綺麗に割れた。

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